第44話 番外編 お母様の恋人。
陛下の御長男のアレクシ殿下が、俺の執務室を訪ねてきた。王城内でももちろん護衛は付いている。王家の銀髪にエメラルドグリーンの瞳をお持ちの、小さくなった陛下みたいなお子様だ。
「おやおや、どうしましたか?」
「フリッツさん…」
なんだか深刻そうな顔だったので、護衛を待たせて奥の部屋に通して、奥さんにお茶とお菓子を出してもらう。
「どうしました、アレクシ殿下?なにか、悩み事でも?」
「どうしよう、フリッツさん…お父様が…お母様に捨てられてしまう…」
「ん?」
もう殿下は泣きそうになっている。
込み入った話のようなので、人払いをして、そっと殿下の隣に座る。
「え、と…何があったんですか?」
…まさか…この間の幽霊探し?心当たりがありすぎるフリッツが、そわそわする。
「だ、誰にも言わない?」
「ええ。もちろんです」
内心びくびくしながら、フリッツが殿下の話に耳を傾ける。
昨日の夜、なんとなく目が覚めてしまったので、隣の部屋の母のもとに行こうと、そっとドアを開けた殿下は…見てしまったらしい…。
「お母様が…知らないおじさんと抱き合って…キスしてたんです」
ええええええええ!!!!?????
「それが…お父様にするより優しそうな?甘えたような?ねえ、フリッツさん…どうしよおおおお!!」
まじか?あのモニカちゃんが?まさかの浮気?しかも、堂々と自室に連れ込み???
とりあえず、泣き出した殿下をなだめる。
「ど…どんな人だったんですか?その…相手の男は?」
「え?えーと、茶色の髪に…夜なのに色付き眼鏡をかけてて…」
「……」
「お母様が…エリク、って優しく呼んでた…もう、だめかな?あんな優しそうにお父様のこと呼んだことないもん…お父様かわいそう!あーん!」
え?二人でなんのプレイしてんですか?カギ閉めろ!!!
そう叫びそうになったフリッツは、かろうじて耐えた。
だが…大問題であることに違いはない。由々しき問題に発展しかねない。
いや…本人だけど。
いや、これ…俺が宰相になってから最大級に大きな問題かも…。
フリッツは、頭を抱えて大きなため息をつく。
*****
後日、国王陛下のお子様方に急いでカツラを用意したフリッツは、自分の家族もつれて、下町視察と称して公園にピクニックに出かけた。もちろん今日の護衛は皆、普段着で付いてきている。
モニカちゃんは麦藁帽子にシャツにカーキーのスカート。地味なことこの上ない。
陛下はいつもの茶色のカツラに色付き眼鏡。この格好をなさると、口数が少なくなる。…まあ、これでアレクシ殿下の誤解は解けたようで何より。
子供たちはみんなでボール遊びを始めた。
陛下たちは庶民の格好をさせたシャルロッテ殿下を抱っこしながら、木陰のベンチに並んで座って笑っている。
日傘をさした俺の奥さんと並んで、そんな光景を眺める。
焼野原だったここは、すっかり木々も育って木陰を作っている。
俺も、本気で信じていたわけじゃないけれど…
あるのかもな、竜の加護。
遠くに離宮の高い壁。その奥に広がる森。その上に青く澄み渡った初夏の空。
眩しそうに目を細めて眺めながら、フリッツはそう独り言を言った。
散歩していたら、大きなこいのぼりを見かけました。
もうすぐ子供の日ですね。
子供たちにも、かつて子供だった私たちにも、良い5月でありますように!




