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第43話 番外編 塔の幽霊。

モニカが子供たちの汗を順番に拭いている。

今ほど朝練が終わったところだ。こいつの指導は容赦ないが、子供たちは母親とはこんなものだと思っている節がある。


頭をごしごし拭かれながら、また、竜の話をせがんでいる。

「母上は父上と竜を見たんでしょう?」

「すごく大きいんでしょう?」

「私この前、本で読んだ。火とか吹くのよね?」


相変わらずシャツにスラックス姿のモニカが、笑いながら、かなり誇張した竜の話を子供たちに話している。

「このお城ぐらい大きいのよ?お母様はお父様と槍で戦おうと思ったんだけど、優しい竜だったからお友達になったの」

僕も一番小さなシャルロッテの頭を拭きながら、笑いながら聞いていた。

今、僕たちの子供は4人。皆たくましく育っている。


「お母様には怖いものはないの?」

次男のローラントにそう聞かれたモニカが、しばし考える。

「…そうねえ…東洋に”こんにゃく”という、剣でも切れないものがあるらしいの。死霊の舌の様に、冷たくて濡れていて…」

「げっ、きもちわるっ」

長女のテレーゼが、顔をゆがめる。

「斬鉄剣、という鉄でも切れる剣があったらしいんだけど、それでも切れないらしいのよ…それはさすがに…怖いかな。」

声のトーンを下げて、モニカがおどろおどろしく話すので、一番気の小さい長男のアレクシが泣きそうになっている。


…くくくっ。


それで僕は、とてもいいことを思いついてしまった。



「ねえ、モニカ?」

「はい。何ですか陛下?」

執務室は以前使っていたままを使っている。モニカの席はラルフが使っていた机。

「どうもねぇ、塔に幽霊が出るらしいんだよ。警備兵の間で囁かれているんだ。」

「まあ!じゃあ、確かめに行ってみますか?」


案の定、モニカはノリノリで話に乗った。


…くくくっ。


子供たちが眠ってしまってから、護衛を塔の下に残して、僕とモニカで塔の探検に向かう。今、収監されている者はいない。


「狭いから、短剣の方がいいかしらね?」

モニカはそう言って、さすがに槍は持ち込まなかった。


ランタンを下げて、僕が先を行く。周囲を警戒しながら、モニカが付いてくる。

「何もいませんね?賊でも入ったのかと思いましたが」


一階は詰め所。塔の真ん中には螺旋階段が続いている。回り廊下の外側に独房が並んでいる。

最上階の5階には母と父が元気になってから暮らした普通の台所付きの部屋がある。


2階から、回り廊下を歩いて、一つ一つ部屋を確認していく。

3階、4階…あと一つで点検が終了という時に、

「きゃあ!」

と、僕の背後で悲鳴が上がった。


「いや、待って待って待って!!俺です、フリッツです!いやああ~殺さないでええ、俺には妻子が…」


振り返ると、棒に紐でつるした大きなゼリーを持ったまま、涙目のフリッツがモニカに締め上げられていた。


ランプに明るく照らされる最上階で僕とフリッツは正座させられて、モニカに死ぬほど怒られた。

「何をやっているんですか?危うく、宰相殿を刺し殺してしまうところだったでしょう?それに、食べ物を遊びに使ってはいけません!」

「「…はい…すみません…」」


…ほんの肝試しのつもりだったのに…。

と、いうか…たまに僕を頼るっているか、甘えるって言うか…そんな期待をしたのだけど…。


大きなゼリーは明日、みんなでおやつに食べることにして許してもらって、僕とフリッツはモニカの後をついて、とぼとぼと螺旋階段を降りる。


「ふふふっ、」


階段の上の方から、凄く楽しそうな笑い声が聞こえたのは、気のせいだと思おうとしたら…フリッツが泣きながら駆け出した。


「いやああああ。レベッカああああ助けて!俺は陛下のいたずらに付き合っただけなんだあああああ」


「……」

「陛下?」

僕は駆け去るフリッツに、思わず手を伸ばしたが…モニカが真顔で振り返ったのが、本当に怖かった。


「え?はい。すみません」


にっこりと笑ったモニカが…嬉しそうに言った。


「陛下?これは罰ゲーム5日間…いえ、1週間ですね?」







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