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第41話 ファーストダンス。

母上のご実家であるレオノル侯爵家にお邪魔して、もう一週間になる。

せっかくだから、と、侯爵家の侍女の皆さんが、ピカピカに磨いてくれた。

うちは基本、領地からほとんど出ないから、タウンハウスを持たない。一緒に国元から来た父上は、窮屈なのか、アシル叔父貴のところに身を寄せている。軍の練習にも出ているらしい。


持ってきたイリアワインは、父上が古い友人に預けたと言っていた。


「さて。いよいよね。モニカのドレスが届いているのよ?」

「?」


母上が着付けしてくれたのは、エメラルドグリーンのシンプルなドレス。スカートの裾には銀糸で刺繍が入っている。


「モニカは姿勢がいいからね、ごたごたしたドレスより、これぐらいすっきりしたドレスの方が映えるわ。ね?」


…ああ、そうか。もう近衛の制服はないんだから、正装しないと王城に入れないのか。そんなことをぼんやりと考えた。


「髪飾りもネックレスも贈っていただいたのよ?ロンググローブのレースも素敵!やっぱり、フルールのデザインは違うわね?」

私の映る姿見を一緒に覗き込みながら、母上が嬉しそうに言う。


「フルール、から、ですか?」

「そうよ。イザベル女王陛下と婚約者のラルフさんから、連名で、モニカに、って。うふふ。」

「え?」


前髪を下ろし、まだ肩ぐらいにしか届かない髪を、侍女の皆さんが上手に髪飾りで覆ってくれて、化粧もしてくれた。

ロンググローブは、長めで、左腕の傷跡がちょうど隠れるぐらい。


おじ様とおば様も見に来た。

「綺麗じゃないか、モニカ」

そうお世辞を言ってくれた。


父上が領軍の軍服を着て迎えに来た。

母上はおば様に流行りのドレスを借りたらしい。

モニカはここにきてさすがに…これは王城の舞踏会に行くのだと気が付いた。こうでもしないと、殿下にお会いできないほど、私は遠くに来てしまったんだ。


王城で門番に父上が招待状を出すと、渋滞している通路を外れて、違う通路を案内された。馬車を降りると、母上が私の手を握る。

「さて、モニカ。ワインは届けてあるわ。乾杯していらっしゃい。」

「モニカ…いつでも帰ってきていいんだからな!」

そう叫んだ父上が、母に耳を引っ張られている。


「モニカちゃん、いらっしゃい!待ってたよ!」

迎えに出てきてくれていたフリッツさんに手を取られて、王城の長い廊下を歩きだす。慣れないドレスのスカートのすそを持って歩く。

ホールに続く、使用人用の長い廊下だ。


「殿下に会いに来たんでしょう?良かった、来てくれて」

変わらない笑顔で、フリッツさんが笑っている。


「え?なんかあったんですか?」

「いやあ…元気なくてさ。近くにいてあげてよ。」


「…フリッツさん?でも…」


「大丈夫。モニカのお家の調査は殿下付きになったときに済ませてあるし、モニカは実技試験も最後のお茶会も出ているしね。今日の名簿にも載ってるんだ。王太后陛下にも了承いただいてるよ?」

「…え?」


「まあ、僕が言うことじゃないけど…殿下だろうがエリクだろうが、モニカちゃんがまだ大事だと思ってくれてるんだったら…手を取りなよ?100年続く竜の加護の中で、あの人が一人っきりにならないようにさ。」

「……」


「来たわね、モニカ。良かったわ!」

ドアの前にイルマさんが立って、にっこり笑っていた。


「綺麗よ、モニカ。さあ、殿下とワルツを踊っていらっしゃい!」


イルマさんが開けたドアから明かりが漏れる。ぽんっ、と背中を押された。




***


王太后陛下の椅子の斜め後ろに、マテーウス卿が立って、諸侯が集まってきているのを眺めていた。愚息はまだ段取りに忙しいらしく、席に戻ってきていない。

エリーアス殿下は陛下の隣の席に座って、ぼーっとしているようだ。


雛段の下の左端には、着飾ったご令嬢がお二人。そわそわして先ほどからお待ちだ。


「あなたたちって…モニカが大好きよネ?」

振り返らずに、半ば皮肉の様に、呆れたように陛下が扇越しに小声でそう言った。


「いえいえ。私たちはこのブリア国が好きで、エリーアス殿下のことが好きなんですよ。くくくっ。もちろん、陛下のことも女王陛下のことも好きですね」

「…親子そろって、とんだ狸ね」

「そうですね。あいつも立派な狸になれる様に、もうちょっと努力せねばなりませんね。」

ふふふっ、と陛下が笑う。


使用人用のドアがそっと開いて、エメラルドグリーンのドレスを着たご令嬢が入ってきた。ドアが閉まる前、イルマが俺にウィンクをするのが遠目に見える。そのご令嬢がスカートの裾をつまんで、お辞儀をして…顔をあげる。



ガタッ、とエリーアス殿下が椅子を立たれた。

雛段を駆けおりていく。…若いって、いいねえ。



殿下が「きゃあ!」と顔を赤らめるご令嬢方をすり抜けていく。














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