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第33話 夢。

「なぜ?ここまでのことを?」


短剣で、シャンタルが繰り出してくる暗器をよけながら、モニカは彼女に聞いた。

私は…シャンタルが好きだった。面倒見のいい、姉御肌の女の子。そう思っていた。


「なぜ?あんたもじきわかるわよ。あんたも愛する人のためにその手を血で染めるようになるわ!」

「……」

シャンタルの血走った目が、私を獲物の様に見る。


「愛する人が欲しいものがあれば手に入れてくるし、いらないと言われれば消すわ。それだけの事」

「…それが、あなたの幸せなの?その人と一緒に作っていくわけにはいかないの?」

目を狙って突っ込んできた彼女を、ぎりぎりでよけながら、背中を蹴る。

自分の額から流れ落ちる血で、見えにくい。


「あははははっ。なに寝ぼけたこと言ってんのよ?」

構え直したシャンタルが、じりっと前に出る。


「本気で愛されたこともないくせに!」



はっ、

ガバリと起き上がったモニカは、また同じ夢を見ていたことに気が付く。

そんなはずはないのに、今の今まで短剣を握っていた感覚が右手に残っている。爪が食い込んで、血が出ていた。


ドキドキするほど怖い夢だが…同じくらい、寂しい夢。


モニカは息を整えて、ベッドから出て、水差しから水を注いで飲む。


ベッドに腰かけて、カーテンの隙間から見える月を眺める。


あれから2か月たった。まだ夢は見るけど。

折れていた左腕の固定も外れて、あちこちに巻かれた包帯もいらなくなった。

左手が細くなっていることにびっくりした。



シャンタルの愛した人は、シャンタルの亡骸を見て泣いただろうか?


泣く間もなく、イザベル様に誅されたのかもしれない。


あの後すぐに王位についたイザベル様はラルフ様と体制を整えている真っ最中だ。東部卿、マテーウス卿も手伝いに入ったらしい。落ち着いたら、ラルフ様と盛大に結婚式を挙げるのだそうだ。


今日、エリーアス殿下あてに届いた手紙を見せていただいた。


「モニカの言った通り、竜の加護は効いているみたいだな?」


殿下はそう笑っていらした。



*****


「フリッツ、そろそろエリーアスの婚約者選定に入って頂戴。貴族院が騒いでいるわ」

王太后陛下の政務室に呼び出されたフリッツは、ぎょっとして陛下の顔を見る。


「フルールも何とかなりそうだし、あとは王太子の嫁選びよ。あの子が18歳になったと同時に即位させるから、その時結婚式もできるようにスケジュールを組んでちょうだい。国内で揉めたりする前にさっさと選んで。」

「え?陛下…でも…。モ…」


そこまで言いかけたフリッツにかぶせるように陛下が言う。

「…あの子は護衛騎士よ。気が利く護衛騎士は今までだっていたわ。愛だの恋だので、そのくらいの覚悟で王妃は務まらないことぐらい、あなたも分かるわよね?」

「え?…はい。」


有無を言わせない陛下の言葉に、フリッツは頭を抱える。


対フルール国のことで、ここ半年以上時間を取られて、国内の状況把握も滞っている。マテーウス卿が東部に行かれたことで、のびのびしている貴族も多い。まあ、正直なところ、なめられている。


部下を育ててはいるが、ラルフさんの様に打てば響く反応をしてくれる人はまだいない。まあ、殿下は別だが。この件は相談しにくい。

モニカちゃんに相談したいところだが…なんかそれも微妙だ。


そんなことをぐるぐる考えながら、フリッツが陛下の政務室を出る。


…さて、どうしようかな?



***


春に正式に宰相職に就いたフリッツは、貴族院を黙らせる苦肉の策を発表した。


この国の王太子、エリーアス殿下の嫁選びである。

さっさとご自分で決めてしまわれればいいものを、決めあぐねている優柔不断な王太子のために、国を挙げての嫁選びになった。


①まず公募。条件はエリーアス殿下の年齢の±5歳の女性。

      (まあ、女性ってわざわざいる?)

     貴族籍であること。

      (身元の保証って大事よネ?平民じゃ苦労が目に見えているし。)

     現在未婚で婚約者のいないこと。出来れば乙女が望ましい。

      (これは…5代前のやり手だった王妃が再婚者であったことから)

    

②書類審査及び調査。

ここで身上調査が漏れなく入り、その家門の5代先までさかのぼって犯罪歴や治思想犯、本人の素行調査、家族の調査、家系図、家の財政状況、付き合いのある商家の調査まで。領の経営は健全か…などなどが調べ上げられる。        

    

…欲を張って応募したばっかりに…堂々と調査されて指導が入ったり追徴課税されたり、検挙されたりする家が出てくる予定だ。


③本人の実技試験。

最終的に審査で残ったご令嬢に実技試験。

お一人様あたり1週間。日曜日は休日なので正味6日。

日曜日のたびに次の方と入れ替えになる。

ご令嬢方は王城の侍女がついて、1週間王城の客間に缶詰。


採点を兼ねての教官は、王城のベテラン教師。


①語学

②歴史・地理

③教養

④マナー

⑤ダンス

そこに、⑥特技の披露。


実技選考に残った方の中から、12月の大舞踏会に王太子殿下が自ら選ぶことにした。

今年の12月まで決まれば、一年準備期間を置いて、翌年の戴冠式に結婚式も間に合う。


(いやいやしかし…国を挙げての嫁選びも大変だな?)


フリッツはこの書類に王太后陛下の確認印を頂き、春の貴族院開催に合わせて、公告した。





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