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第25話 お姫様抱っこ。

なかなか人前に出てこないと噂されているエリーアス殿下が、正装してつまらなそうな顔でイザベル様と踊っている。対するイザベル様は微笑みを絶やさない。今日も赤いドレスがよく似合っている。


二人で踊りながら何やら話しているが…さすがに何も聞こえない。

会場の脇で控えながら、モニカはぼーっと会場を眺める。

今日は内内の歓迎会らしく、関係者ばかりだ。あと10日もすると、エリーアス殿下のお誕生会が予定されている。


一曲終わったあたりで、会場がざわつく。

なんと、エリーアス殿下がイザベル様をお姫様抱っこして、退場なさった。

モニカは小走りで後を追う。今日は正装されていたラルフさんとフリッツさんも、後を追う形になる。イザベル様のお付きの人たちも後を追おうとして、近衛に止められている。


「あらまあ。若い者は困りましたわね」

と笑いながら王太后陛下が場を納めている。


***


「降りて、自分で歩け」

「いやーん。エリーアス殿下がせっかくその気になってくれたのに」

「いや。なっていないから」


東宮に着くと、さっさと降ろされたイザベル様が、笑いながらスカートを直す。


殿下が使っている東宮の廊下を閉鎖させて、警備を増やす。

「誰も入れるな」

殿下が念押しして、執務室にイザベル様を連れ込んだ。


「え、と…私は入っていいんでしょうか?」

モニカが遠慮がちに聞くと、

「当たり前だ!護衛が離れてどうする!」

と、殿下に叱られた。


「どうしたの~?殿下、その気になっちゃったの??」

フリッツさんが笑いながら入ってきた。

ラルフさんが、ドア前の護衛を増やしている。

「冗談でもやめてくれ。」

「でもまあ、周りの人はそうは思わない状況だったなあ。で?どうしたの?」


殿下が私をちらっと見たので、思わず、背筋を伸ばす。


「交換条件で、内情を話すらしい。イザベルの条件は、フルールからこいつの命を守ること、だ」


殿下がそう言うと、こりゃまた面倒なことを請け負ったね?と言いながらフリッツさんが椅子に座る。

「大体、この子自体信用していいの?殿下の寝首を掻きに来たのかもよ?」


警備を増やして戻ってきたラルフさんも会議用の席に着く。


「そうよ、私、エリーアス殿下を殺してくるように、特訓を受けてきたのよ?」

椅子に座りなおしたイザベル様が、ぎょっとするようなことを言いだした。が、私以外は驚いてもいないようだ。


「3番目の兄が頭がおかしいのは知ってるでしょ?あの人の恋人も頭おかしいのよ。少年にも少女にも、妖艶な娼婦にでも貞淑そうな貴婦人にでもなるわ。誰とでも寝るし、誰でも殺してくるのよ。その人に殺し方を教わってきたわけよ。」

「…やっかいな恋人だな。そいつ、短い金髪か?」


イルマさんとお茶を出して配っていたモニカは、話の内容に戸惑う。果たして、護衛騎士が聞いていてもいい内容なんだろうか?イルマさんは…へっちゃらみたいだが。


「そう。良く知っているわね?東部にだって、下女で潜り込んであっという間に愛妾よ?失敗したのは、エリーアス殿下の父親ぐらいね?」

「……しかし、なぜ父上だったんだ?」

「だって…ほしいのは子種だったらしいわ。あのころ殿下はまだお子様だったし、ラルフは近寄りがたいし…王配陛下は女王陛下の従兄、王位継承権3位よ?アヘン入りのワインで良い気持ちにしてその気にさせて子種を貰って、ついでにブリア国も貰っちゃう算段だったのね?直系の子供さえ手に入れば、女王や殿下は別に後でもいいかって思ったんじゃない?」

「……」

「ちょうど土砂崩れで女王が視察に出ているところを狙って…まさか、いい具合に中毒症状になった王配陛下自ら塔に閉じこもるなんて予想外だったみたいよ?」

「…さすがに塔では手出しができなかったか。でも、あの後ワインを持ち込んだ侍女をくまなく探したが見つからなかった。それは?」


「…ネズミは…地下の穴から入ってくるのよ?そう言って二人で笑ってたわ。その意味までは私にはわからないけど。」

「……」


イザベル様が、出されたお茶を美味しそうに飲み始める。


「それで?お前の目的はなんだ?」

「私?私まだ死にたくないのよ。あの兄の命令通り殿下を殺しても、継承権を持っている私はいずれ殺されるわ。さっさと嫁に行って継承権を放棄したいのよ。上の兄二人は、もう廃人よ?弟は…今謀反の疑いで幽閉されているけど、もうこの世にいないかもね。父上は戴冠式までは生かされていると思うわ。それに…あの兄では…いずれ戦争になるでしょ?そんなこと誰も望んでいないのに。」


「ってことは?殿下と結婚して生き延びたいってこと?ブリアに守られて?都合よくない?」

フリッツさんがそう聞くと、イザベル様が嫌そうに目を細めて横目でフリッツさんを睨んだ。


「バカのふりして、何でもあいつの言うことを聞くふりをして生き延びてきたわ。もう、無理よ。しかも、殿下が兄上のお気に入りのお花畑を燃やしちゃったもんだから…機嫌が悪いったらないわ」

「……」

「……」


「まあ、そう言うことならこの棟の客間を用意いたしますね。殿下のお隣の部屋でよろしいですかね?」

沈黙をあっけなく破って、イルマさんがにっこり笑ってそう言いだした。


「イザベル王女殿下のお着替えはこちらで用意いたしますが、その前にお風呂に入っていただいて…持ち物の点検をさせていただきますね。モニカちゃんは今日はその控室に待機してね?」


なるほど…殺しに来た、と堂々と言う人の持ち物検査は大事だわね…。


感心してイルマさんの言うことを聞いていたモニカは、こくんと頷く。






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