第15話 ドラゴンを探しに。
ここのところモニカは機嫌がいい。
先日、ラルフに夏季休暇の申請を出していた。行く気満々だな。
いつもは俺の執務の手伝いをさせている。
名目上は”王子妃の護衛騎士”ということにしたので、今のところモニカに守るべき人はいない。今のところ予定もない。
何でそんな面倒な立場かというと、こいつも一応貴族令嬢で、王太子の近くにいることに問題が生じるといけないから、らしい。
女性問題ねえ…。
それよりもまずは塔から母と父を引っ張り出さないといけない。
モニカはフリッツに聞きながら、書類の整理をしたり、指示書の清書をしたり…させたかったが、こいつがまた、フリッツより字が下手だった。
「モニカ?お前のじい様は学者だったよな?」
「はい」
「それで…なんでそんなにお前は…字が下手なんだ?」
まあ、何とか読める、位の字。
「おじい様も、字は上手じゃありませんでした。分かればいいんだとおっしゃってました」
「……」
不本意か?不本意だよな?騎士だしな?
字が下手なことを指摘されるとは思っていなかったよな?…モニカはほんの少しふくれて、不服そうだ。
「それより殿下も、もう少しわかりやすく指示書を出してください。自分一人がわかっていても周りの者には理解できなかったりしますので」
うんうんうん、と、頷いているフリッツを睨む。
***
短く切ったふわふわの銀髪。
エメラルドの瞳。
レースがたくさんついた白のブラウス。
噂通り、本当に外にも出ずに、王城の3階に生息されている王太子殿下、エリーアス様。
体が弱いなら、走ったり歩いたりした方がいいと思うけどなあ。
まるで天使のような見た目の王太子殿下は、モニカが思っていたより…毒舌な少年だった。
(黙っていたら、天子様みたいなのに)
そんなことを思いながら、モニカは自分の部屋で、フリッツさんに貰って来た反古紙の裏に書き取りの練習をする。
(ビックリするほど上手な字になってやる)
モニカは…負けず嫌いだった。
王子ともなると書き取りの先生もいるんだろうけど…下手くそ、と言われたのはかなりの屈辱だった。
(ああ、エリク君で癒されたい。)
モニカは手を真っ黒にして書き取りの練習をしながら…もうすぐ来る夏休みのことを思って、鼻歌を歌いだした。
***
「いや~もーちゃんはやっぱり面白いよね?」
軍の手配を終えたラルフが、報告書を書きながらフリッツと話している。
「今日もね、こそっと…何が聞きたいのかと思ったら、王家に秘宝の魔石がはめ込まれた聖剣とかあるんですか?って真面目に聞いてきたからね?」
「え?あるんですか?」
「いや…多分ないだろう?あっても貸してもらえないよ?」
「ですよね。なにか…ドラゴン退治の変わった本でも読んだんですかね?」
「な?鍛冶屋で、光属性の剣とか注文してたりして」
がははっと二人で楽しそうに笑っている。
「定番は、あれですよね?勇者と魔法使いと、鍛冶屋?」
「え?姫と賢者と僧侶じゃなかった?」
「武器は剣で大丈夫なんですか?やっぱり槍ですかね?」
「いや…近づくと危ないから、弓矢なんじゃない?」
「ほら、よくあるじゃないですか…岩とかに突き刺さっていた誰も抜けない剣を抜いて…」
「それが勇者、だろう?」
「あれ?王子ではなかったですか?」
この二人の凄いところは、こんなバカ話をしながら、書類を爆速で仕上げていくところだと思う。
エリーアスは半ば呆れながら…モニカが下町の鍛冶屋に頼んだのは、やっぱり槍かな?そう思った。




