聖女騒動4
「お嬢様、そのお姿は・・・」
葵が現実世界に戻ると何故か転移門の設置されてる納戸に雪永が居て、異世界から戻った葵の姿を見て驚いたようだった。
「ああ、変装よ。これなら向こうで違和感が無いかなって思って」
「お一人でお出かけになったのですね」
責めるような雪永の口調に葵は一瞬怯むが、負けずと言い訳をする。
「行くって言ったよ」
「伺っておりません」
「あれっ、雪永が今日はやり溜めた仕事を捌くって言うから、じゃぁ私は出かけるって言ったよ」
「異世界へ行くとは思っていませんでした」
なんとなく反対されるような気がしたから敢えて異世界行くとは言わなかったのは確かだ。所謂確信犯と言ったところだったので葵は素直に頭を下げた。
「ごめんなさい」
「心配いたしました」
雪永がこの納戸に居たのは葵を心配しての事だと気づき、バレなきゃ大丈夫と思っていた自分の浅慮愚かさを反省した。
今まで一人で気軽に異世界の冒険をしていて面倒な結果を招き、今はそれでなくともまったく知らない国で面倒くさい聖女騒動に巻き込まれている最中なのだから心配するなと言うのが無理だった。
葵は雪永が本気で心配してくれているのだと実感し、不謹慎ながら嬉しさが込み上げる。
「もうしません」
「ええ、本当にそうなさってください」
葵は雪永の向こうで何かありましたかという質問に、街であった事考えた事などとルーベンと領主の息子のやりとりを特に詳しく話して聞かせた。
「だから私はルーベンを少しは信用してもいいかなって思うんだ」
「信用するかどうかは私が自分で決めます」
雪永の頑なな返事に葵はなんだか自分が信用されていないような気分になるが、それも当然だろうと納得する。
「まぁ、当然そうだよね」
「はい」
しかしそれからの雪永は馬車の中でルーベンを頭から警戒する様子を見せなくなり、世間話をするようにスイトール国の情報をあれこれと聞き出していた。
このスイトール国は所謂信仰国で、星の末裔という占いに長けた一族を崇めていて、その長の発言力は国王よりも大きいそうだ。
その星の末裔に予言される聖女はその実力如何ではやはり国王に次ぐ力を持つ事もできるらしい。
葵はそれじゃ国王の立場はと思ったが口には出さずにいると、星の末裔の発言力は予言に関することだけで国の政に参加することは無いと聞き、ふんふんと一人密かに納得していた。
「しかし力のある聖女様となれば話は別ですぞ。聖女様のお力に縋るしか無い現状ともなれば国王はその実権のすべてを渡してもかまわないと考えておいでです」
いきなり葵に話を向けるルーベンに、のほほんと話だけを聞いていた葵は思わずたじろいだ。
「だ、だから私は聖女じゃないってば」
「しかし見たところこの国が聖女に縋らなければならないようには思えませんが」
「いえ、この辺で言いますと深層の魔物は年々強くなり数も増え、今や討伐が追いついていない状況。いつ魔物が溢れ出すか戦々恐々と言ったところです。しかしこの地は深層の森が近いお陰かまだ作物に関しての影響は少ない。しかしこの地を離れると枯れゆく土壌が広がっていくのが確認できましょう。今一番の問題は広がりゆく枯れた土壌の問題です。今はまだ近隣との貿易や蓄えでどうにか凌いでいますが、このままでは近い将来破綻を来すのは目に見えています。ですから聖女様のお力に縋るしか無いと必死なのです」
ルーベンの必死さは伝わってくるが、深層の魔物は普通に討伐すればいいし、土壌の問題は現代知識的に解決策を見つけられるんじゃないかと思うと、たいした問題でも無いだろうと葵は軽く考えていた。
葵のそんな考えを雪永も感じたのか葵の思いを代弁してくれる。
「もしその問題を聖女でなくても解決できたらこの国に聖女は必要なくなりますね」
「ふん、聖女様のお力無くしてこの問題が片づくですと。何をたわけたことを仰るのか話になりませんな」
「そうですね。今まで聖女に頼る事しか考えてこなかったあなた方には無理な話なのでしょう。しかし私の国では色々な研究が盛んでして、土壌の復活だけで無くその土地に合った作物の開発など土壌の問題など既に解決されているのですよ」
そうよね。あと問題があるとすれば天候の問題だけだよねと葵は雪永の言葉に頷きながら思っていた。
「な、何。本当か!」
「ええ。お疑いでしたら私達でその問題解決して見せましょう。ただし結果を出せた場合お嬢様の聖女認定は諦めてください」
「そ、それは・・・」
ルーベンはかなり長い時間あれこれと考えを巡らせ悩んでいるようだったので、雪永はルーベンが再び口を開くのを待っていた。
多分雪永はオリヴィア様に会って万が一にも聖女認定されてしまった後の事を考えているのだろうと思っていた。
そして葵はただ漠然と外の景色を眺めながら、深層の魔物の討伐ならお金にもなるだろうし手伝ってもいいかなと考えていた。




