カステヘルミ様とロニア様は私の天使様 29
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!
御礼企画としてカステヘルミとロニアの帝国での物語を毎日掲載します。お話はどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
ラハティ王国は夏が短く、冬が長い。厳しい環境だからこそ男も女も同じだけ働かなければ生きていくのも難しい。そんな国だからこそ女性だったとしても優秀な人材だと認められれば抜擢をされるし、それを周囲の男性たちも認める傾向にある。反対に冬はさして寒くならないし、夏は暑くてやたらと期間が長い帝国では、有力な家であればあるほど女性を家の所有物として扱う傾向にあるようだ。
帝国ではたとえ働かなくても道端に生えている棗椰子の実やマンゴー、バナナ、柘榴を食べていれば生きていけるので、
「君たちが働いてくれないと、俺たち死んじゃうんだよ〜!」
と言い出すラハティ王国とは実情が違うのかもしれない。帝国では気候が原因で切実な状況に陥ることがほとんどないから、女性の権利というものが疎かになってしまうのではないのかな〜と、カステヘルミは考えている。
金持ちや有力貴族であれば複数の妻を娶るのが当たり前。複数の妻と複数の腹違いの子供たちを纏めるのが第一夫人の役割(実家の太さや夫の寵愛によって変更はあるみたいだけれど)となるので、石に齧り付いてでも手放したくないのが『第一夫人』という立場なのだ。
ラハティ王国では妻も重要な働き手として重要な役割を持つので発言力もあるのだが、帝国では妻の中でもその他大勢の中に入ってしまえば、生きていく上での権利そのものが縮小される。
だからこそ、夫も認める第一夫人の座というものは一度掴んだら決して離さないものなのだが、
「まあ〜!本当にバカな女っているのですわね〜!」
新聞を読んでいたカステヘルミは大きなため息を吐き出した。
「名門家の正妻という立場でいつまでもいられたというのに、愛した男の甘言に騙されて、自ら破滅の道を進んでしまったなんて・・自分が当主になったらお前を第一夫人にしてやるだの何だの言われていたのでしょうが!そんなの嘘に決まっているじゃない!本当に!女っていうのは愛って言葉に騙されちゃうものなのね〜!」
「お嬢様、それってアクトゥム家の元女主人の話でございましょう?」
侍女頭のヘラはカステヘルミの前に淹れたての紅茶を差し出しながら言い出した。
「噂によると、兄であるバッサム様の妻になりながらも、弟のカーズィム様への恋慕の情を消すことが出来なかったとかで、カーズィム様に会いたいがゆえに、夫であるバッサム様に毒を盛って殺してしまったのだとか」
「カステヘルミ様!私が街で聞いた噂話はもっと違うものですよ!」
焼き菓子を手に取ったロニアが言い出した。
「お姉様のものなら何でも奪う強欲すぎるアタファが、姉のことばかり気に掛ける当主様に嫌気がさして、満面の笑みを浮かべながら毒入りの紅茶を用意した。自分の娘が毒の紅茶を用意しているなんて知りもしない御当主様はまんまと毒入りの紅茶を飲んでしまって、憐れ、この世を去ることになってしまったというのです!」
「どっちにせよ、娘さんだけで毒を用意することなんて出来ないでしょうから、マウザっていう女がいつかは夫を殺そうと考えて毒を用意していたということなのでしょう」
ヘラは肩をすくめると言い出した。
「葬儀が終わってしばらく経ちますが、恥ずかしくって、マウザとアタファの親子は外を歩くことも出来ないのだという噂耳にしたんですがね?」
「噂、噂、噂」
カステヘルミは紅茶をひと口飲むと言い出した。
「毒殺したのだろうという噂が流れるばかりで、誰もお咎めを受けていないというのが面白いわよね」
「面白いですか?」
ロニアは血相を変えて言い出した。
「ちっとも面白くないですよ?だってそうでしょう?お亡くなりになったのはダラール様のお父様だっていうのに、未だにそのことをダラール様は知らないのでしょう?」
「それはまあ、血の証明をするためにバヌー・ハヌランに行ってしまったから知らないでしょうねえ」
「その血の証明って奴、遠くにある砂漠地帯に行かなくちゃ出来ないことなんですか?」
ロニアは拳を握りしめながら言い出した。
「元々は私が偽物の絵画を本物だと偽るなんて出来ませんっていう話でしたよね?」
皇帝が寵愛するファティマ妃の懇意にする貴族たちが軒並み贋作被害をこうむることになり、裏で糸を引いていたであろうザーフィラ妃に対しても、同様の損害を与えるために偽物を売りつける画商を用意しようという話になったのだ。
そこでロニアのことが気に入らない官僚や美術界の重鎮たちが、ルオッカ家が所有する画廊にやらせれば良いだろうと進言をした。その為、ロニアが窮地に陥ることになったのだが、
「ダラール様を使って〜という話をカステヘルミ様が皇帝陛下とし始めて、それじゃあまずは母親の故郷であるバヌー・ハヌランにダラール様を送ってみようという話になったんですよね?」
ロニアはカステヘルミに向かって疑問の声をあげた。
「ウィサーム様がダラール様の付き添いをすると言って一緒に行っちゃいましたけど、ウィサーム様がダラール様のお父様が亡くなったということをダラール様に伝えると思います?」
「しないでしょうね」
カステヘルミは紅茶を飲みながら言い出した。
「そんな面倒くさいことをあの方がするわけがないわよ」
ウィサーム第二皇子は『第二皇子』という言葉も嫌いなのだが、面倒臭いことも大嫌いなのだ。今回、わざわざダラールに付き添ってバヌー・ハヌランに向かったのも、皇家の目が無いところで検証が行われたとか何とか、後から文句を言われるのが面倒臭いからだ。
「私の所為でバヌー・ハヌランまで行くことになってしまった上に、私の所為で実の父親の死に目にも会えなかったなんて!」
ロニアは亜麻色の髪を両手でかき回しながら言い出した。
「どうしよう!どうやってお詫びをすれば良いのかしら!あの時、私が家に帰った方が良いですよと言っていれば!」
「そのまま家に帰っていたら、きっと父親と一緒に殺されていたわよ〜」
カステヘルミはコロコロと笑い出した。
「噂によると、アタファという娘はバッサム様の子ではなくバッサム様の弟のカーズィム様の子供だったらしいのよ?」
夏が短くて冬が長いラハティ王国に住む人々は噂話が大好きなのだが、帝国人だって同じように噂話が大好きなのだ。
「亡くなったバッサムの血筋が残るとカーズィムは困るので、いかなる手を尽くしてでもダラール様を殺していたと思うわよ」
「ええ〜?そうですかね〜?」
「アタファがバッサムを殺したという噂や、実はアタファはカーズィムの子供だったという噂が流れているけれど、ここで彼らが言いたいのは、アタファが正当なる血筋の娘ではないということ。バッサム亡き後、自分たちがアクトゥム家を継いでも何の問題もないと主張したいだけなのよ」
「それじゃあバヌー・ハヌランから帰って来たダラール様が『サプラ〜イズ!』と言いながらアクトゥム家に帰って行ったら?」
「どうなるのかしらね?興味はあるわ」
「カステヘルミ様ったら酷いですよ〜!」
猪突猛進状態のロニアが贋作をスィラージュという男の頭に叩きつけたところから、ダラールの運命は大きく変わることになったのだ。常々、アブデルガデルの女主人であるビルギッタから、
「生き物を拾って来たら最後まで面倒をみる覚悟を持ちなさい」
と言われているロニアは、ダラールが無事であるためにはどうしたら良いのかと考え、頭を悩ませているのだが、
「何を悩む必要があるのかしら?」
カステヘルミは肩をすくめながら言い出した。
「これはダラール様がグアラテム王の子孫かどうかで結末が決まってくる話なのよ」
「というと?」
「血の証明が出来たのなら、後は皇帝陛下が良きように計らうだろうし、もしも血の証明が出来なかった時には、平民としてラハティ王国に亡命させれば良いだけよ」
「そういえば最初は亡命するって話になっていましたもんね?」
八年間、虐げられ続けて来たダラールは帝国を出てラハティ王国に逃げることも考え、語学の勉強を一生懸命頑張っていたのだ。
「帰りたくないって言っていたから、何も知らずに家には帰らない方が良いってことですか?」
「私はそう思うけれど・・」
小離宮のサロンで二人はお茶をしていたのだが、廊下に顔を出していた侍女頭のヘラが一通の手紙を銀製の盆に載せて戻って来た。
「お嬢様、ザーフィラ妃殿下からのお手紙でございます」
ヘラはごくりと生唾を呑み込みながら言い出した。
「明日のお茶会にお嬢様とロニア様を招待したいとのことでございまして、お嬢様のお返事を使いの者が待っています」
「「明日のお茶会ですって?」」
カステヘルミとロニアは大きく目を見開きながら、互いの顔を見合わせた。
「「それってファティマ妃じゃなくて??」」
「ザーフィラ妃です」
カステヘルミとロニアはそのまま身動きも出来ずに、互いの顔を見つめ続けることになったのだ。
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!現在掲載中のロニアとカステヘルミの五年後の物語が3巻のお話となりますので、合わせて読んでも面白い!!掲載中のお話もどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
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