カステヘルミ様とロニア様は私の天使様 30
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!
御礼企画としてカステヘルミとロニアの帝国での物語を毎日掲載します。お話はどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
「無理ダス、無理、無理、無理ダス、無理ダス」
目の前には女性の官吏が立っており、
「ムリダス、ムリダス、ワターシにはムリダス」
伸び切った前髪でイザベルの顔は完全に隠れているのだが、
「ムリダス、ムリダス、夫とハナレルムリダス」
縋りつくようにダビトの腕を掴んだところ、
「それじゃあ本宮に移動しますか?」
官吏の言葉にイザベルは体を強張らせた。
「夫と一緒に居たいのでしょう?だったら本宮に行くしかないと思うのだけれど?」
本宮とは皇帝陛下が執務を行う宮になるのだが、
「ムリダス、ムリダス」
イザベルはシクシク泣きながら俯いた。
鉄の天才と呼ばれるイザベルがムリダス、ムリダス言っている間に、カステヘルミは手紙を五通したためていた。
そのうちの一通を侍女頭のヘラに渡すとカステヘルミは言い出した。
「明日のお茶会にはロニアと私、二人揃って参加をすると言ってザーフィラ妃の使者に渡してくれるかしら?」
「三時間以上待っているので、完全に怒り心頭の状態になっておりますが?」
「私は陛下にこの小離宮を与えられているけれど、後宮を取り仕切るファティマ妃の客人なのだもの。第二妃から招待を受けたとなれば、ファティマ妃に承諾を得なければならないのは相手も分かってのことでしょう?」
カステヘルミはザーフィラ妃の使者に渡すようにと金貨を用意すると、
「ご主人様であるカステヘルミはファティマ妃とザーフィラ妃に北の女神から賜りし布(北の民族の婦人たちによる豪華な刺繍を施した素晴らしい布)を用意したけれど、ザーフィラ妃にはファティマ妃よりも素晴らしい高級品を、ファティマ妃には数ばかり多い駄作を用意したようだと、ここだけの話だと付け加えながら言いなさい」
と言って室内に用意した二つの箱に視線を向ける。
人が一人入れそうなほどの大きな箱と、両手で抱えられそうな小さな箱。
「イザベル、どれだけムリダスと言ったって、貴女、見知らぬ男の人たちと一緒に生活するのは不可能でしょう?」
「ムリダス!」
「それじゃあ、見知らぬ女の人たちと一緒に生活するしかないのよねえ」
カステヘルミは下に高級布を敷き詰めた大きな箱の方にイザベルを押し込みながら、
「何の問題もなければ、すぐに迎えに行きますからね」
と言って問答無用で蓋を閉めた。
「イザベル、移動中は声を出すな、俺が迎えに行くまで大人しくして良い子で待っているんだぞ?」
夫のダビトが箱の外から声をかけると、
「ムリダス・・」
小さな声で返事が返って来る。
その返事をカステヘルミとダビトは無視すると、揃ってソファに座るロニアの方を振り返ったのだった。
ファティマ第一妃が懇意にしている貴族たちが贋作を購入するという被害が相次いで起こった。そこで皇帝の要望によりロニアが鑑定を行うことになったのだが、
『私の親しくしている方々からも自分が購入したものが偽物ではないかと心配をする声が数多く上がったため、ロニア・ルオッカ嬢にはお茶会の前に絵画の鑑定を行なってもらいたい』
という旨が招待状に記されていた。
「妃殿下は絶対に明日のお茶会で何かを仕掛けてくると思うのよ。私が心配なのは、貴女は絵画を見ると偽物は偽物、本物は本物だと言わずにはいられないところよ」
「確かにそうですね」
ダビトは自分の眉間を指先で揉みながら言い出した。
「真珠宮でも『このやろう〜!』とラハティ語で叫びながら飛び出して行ってしまいましたしね。ロニア嬢は突然、前後見境なく行動をするところがあるから心配ですよ」
ダビトの後ろを、
「ムリダス、ムリダス、ムリダス」
と、小さな声で呟く箱が運び出されて行く中、
「大丈夫ですって!」
ロニアは胸を張って言い出した。
「ご婦人はゴシップが大好きなんです!私は画家のゴシップを子守唄代わりに聞きながら育っただけにネタは沢山ありますから!」
帝国にやって来てロニアは五年、カステヘルミは三年になるのだが、二人は祭典などでザーフィラ第二妃を遠くから眺めることはあったものの、直接顔を合わせて挨拶をするようなことは今までなかったのだ。
それは何故かというのなら、二人が大陸の北の端にあるラハティ王国からやって来た外国人だからだ。ラハティ王国を田舎国と蔑むのは有力部族や支配系と呼ばれる由緒正しい家の人々になるため、第二妃自身が相手にもしていなかったのだ。
鉄の天才と呼ばれるイザベルと共に帝国へとやって来たカステヘルミは、蒸気を使った機械の開発に深く関わっているため、新しい事業に投資を行うことで徐々に力をつけて来た新興貴族と接することが多い。その反面、由緒が正しく頭が硬くて、変化を嫌う人々とは交流を持つようなことをしてこなかったのだった。
皇帝が溺愛するファティマ妃が新興貴族の出身ということもあって皇宮ではファティマ妃の庇護下に置かれるカステヘルミは、今まで第二妃主催のお茶会に誘われることもなかったのだが、
「嫌な予感が的中しなければ良いけれど・・」
そう言いながらロニアの方を見ずにはいられない。
「カステヘルミ様!帝国式のマナーはビルギッタ様にきっちり仕込まれているから大丈夫ですよ!」
ロニアは胸を張って答えているのだが、
「そうじゃない、そうじゃないのよ」
と言ってカステヘルミは大きなため息を吐き出した。
アクトゥム家の当主だったバッサムの葬儀が終わり、バッサムの弟のカーズィムがアクトゥム家を継ぐことになった。
ダラールが行方不明になってひと月が経過し、アブデル皇子との婚約は解消。ザーフィラ妃は自分の息子に複数の妃を持たせるためにすでに動き出している。妃候補の中にはカーズィムの娘が上がっているというのだから、アクトゥムが第二皇子を支持することは決定しているのだろう。
ザーフィラ第二妃は息子であるアブデル皇子を使って皇位継承争いを引き起こそうと考えているだろうから、
「何か派手なことをするのなら、ウィサーム殿下が居ない今だと思うのよねえ」
明日のお茶会で何かを仕掛けられる可能性は非常に高いのだ。
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ③ が令和8年4月1日に発売となります!!現在掲載中のロニアとカステヘルミの五年後の物語が3巻のお話となりますので、合わせて読んでも面白い!!掲載中のお話もどんどんと展開していくので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!
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