時計と風鈴
私は、時計を探して歩いていた。
アナログタイプの腕時計で、文字盤が金色の何処にでもありそうな、そんな腕時計だったと思う。
辺りは畑の広がる片側一車線の、少し下った坂道。
左側には1m程の歩道があり、私は歩道を歩いていた。
そのまま歩いて行くと繁華街に行き着いた。
付き合ったって左に行ったところに、時計、貴金属を取り扱う店があった事を思い出した。
「あそこに、あるかも知れない」
しばらくの間、繁華街を歩いたが時計店は見当たらなかった。
そして、私は地下へと降りた…のだろう。
エレベーターの前に立っている。
この先に、何があるのかは分からなかったが、時計を求めてエレベーターへ乗り込む。
扉が開いた。
降りた先は、観光地のお土産店が両側に立ち並ぶ通りだった。
「降りる場所を、間違えたかな」
そう思い後ろを振り返ると、エレベーターのドアが閉まる寸前だった。
今、乗って来たばかりのエレベーターだったが、ドアが閉まると、そのまま消えてなくなってしまった。
どうやら前に進むしかない様だ。
通りには私一人しかいないのに、寂れた感じが全くしない、そんな不思議な感覚のする場所だった。
店舗に陳列してある商品は、煌びやかでは無いものの、とても綺麗で手入れも行き届いており、埃も無く輝いて見える。
中でも私の目を引いたのは、通りを抜けた店舗の店先に陳列してあった一つの風鈴だった。
風鈴は陶器で出来ていると思われ、飾りっ気は無いが、シンプルで私好みの形と音色も良かった。
「一つ300円かぁ。欲しい気もするが、今使うと時計が買えないかもしれない」
後ろ髪を引かれる思いではあるが、風鈴は買わずに再び歩き始める。
エレベーターで上がった観光地らしき場所は、随分と高い位置にあった様で、ずっと下りが続いている。
勾配が強くなると、ジグザグと斜めに下る石段へと道は変化した。
下からは観光客だろうか?すれ違う人達が、ちらほらと出始めた。
鳥居を潜り、石段を数段下りた時だった。
「そこの人、ちょっとこちらへ」
私は声のした方を見上げると、鳥居の横の石段に、宮司の格好をした人が座っている。
周りには、私以外は誰もいなかったが、一応尋ねてみた。
「私、ですか?」
「そう、貴方です。お名前を訊いて宜しいかな」
疑問には思ったが、名前くらいならと教える事にした。
「朔田朝緒です」
「良い名前ですね。神札を書いて差し上げましょう」
初対面で私の名前を、一文字も間違えず一度で書ける人は、今までお目に掛かった事は無いが、この宮司は何も訊く事無く、スラスラと神札に文字を書き入れ始めた。
私の名前を、書いているとは限らないと思いながら待っていると、書き上げた神札を私に見せて宮司の人は言った。
「はい、二千円です」
どうやら、無料では無かった様だ。
「持ち合わせが無いなぁ…どうしたものか?」
そう言えば、かなり以前に困った時には、何かの足しにしなさいと母が手渡した茶封筒が、あった事を思い出す。
中を覗くと、数枚のお札が入っていた。
「良かった。これで支払いが出来る」
茶封筒から、二千円を取り出して宮司に渡すと、今書いたばかりの神札を渡された。
栞大の神札には、細く流麗な毛筆文字が達筆に、びっしりと書かれてあった。
「何が書いてあるんだ?う~ん…読めない。私の名前…なのか?」
正しく何が書かれているのか分からないが、神札に書かれた文字は、何処となく霊験灼かに輝いて視えた。
そんな感想を抱いた時に、目が覚めた。
スマホを覗くと6時5分…休みの日に限って早く目が覚めるのは何時の事だった。
この頃は、目覚めると夢の殆どを忘れている事が多かったが、この夢はやけに鮮明に覚えていた。
「そう言えば、前にも夢の中で御札を貰った事あったなぁ…八番とか一三番だったか?」
そんな事を考えながら、二度寝を試みるが無駄の様だ。
そこで、寝床から這い出し、阻塞と着替えを済ませると、そこらにある物を適当にザックに詰め込み山へと向けて車を走らせた。
「そうだ。あの御札、落ちた時に使ったって言われた気がする」
右腕には、その時の傷跡が痛々しく、今でも残っている。
「次、落ちて生きてるって保証も無いし、もう落ちるのは勘弁だな」
コンビニで買ったサンドイッチで、軽く朝食を済ませると、山頂を目指し歩き始める。
もう、二度と落ちない事を祈りながら…。
夢の中で、買ったり貰ったりした物が、後にあなたの命を救ってくれる…かもしれません。
当てには出来ませんが(笑)




