第18話 エースの恋 最上級I like you(後編)
読者の皆様ごきげんよう。いかがお過ごしだろうか。私はこの王都フルマティにある七番町学園の高等部2年生にしてアイドルグループ“イセカイ☆ベリーキュート”の2期生メンバー、ジャコ・ギブン。今日も私の優雅なアイドル生活についてお話ししたい。
現在、私たちイセカイ☆ベリーキュートは三大大陸横断ライブツアーの真っ最中。我らがエースであるユキノ様17歳の誕生日を来週に控えているのだけれど、そこでユキノ様はなんとミキオPに誕生日のプレゼントとしてキスを要求。陰で聞いていた私とカレンはパニックになる。そして翌日、大型歌番組に参加した私たちは謎の軽薄男と遭遇するのだった。
イーノ「ユキノちゃんもティラミーちゃんもカワイイね。ビジュ最高だね!」
げ、変なのが来た。こいつは“G.E.S”という、最近デビューした男性ボーカル&ダンスユニットの3人組のひとりでイーノという男だ。こいつらはイケメンぶってるが3人とも実はたいしたことない顔面だし、すぐ共演者の女性に手を出すので私たちは陰で“ゲス”と呼んでいる。イーノはその“ゲス”の3人の中でもとりわけルックスも女グセも悪いと評判だ。
ティラミー「あ、じゃあわたしの出番もうすぐだから…ユキノ、じゃあね」
イーノから逃げたかったのだろう、ティラミー・ダイフックは話を切り上げて立ち去った。こいついろんなアイドルに嫌われてんな。だがイーノはめげずにユキノ様に話しかけてきた。
イーノ「ユキノちゃ〜ん、そろそろ鳩アドレス教えてよ、オレ何万回訊いてると思ってんのよ」
ユキノ「あ、はぁ…」
イーノの本命はティラミーではなくユキノ様らしい。最近しつこくされて困っているという話をこないだユキノ様本人から聞いた。
イーノ「ね、そろそろ覚悟しなよ」
うわ、手を握りやがったコイツ。覚悟ってなんだよ。ユキノ様がおとなしいと思って調子乗ってんな。本当ならこの人と握手するだけで料金発生するんだぞ。キャラじゃないけどここは私がガツンと言ってやらなきゃかな。
ジャコ「あのですねえ」
私が勇気を奮って声を出すと、横から別な声が入ってきた。
ミキオ「うちのタレントに何か?」
イーノの手をガシッと掴んで冷徹な声でビシッと言ったのはミキオPだ。えっ、いつの間に来たんだこの人。さっきまで局の偉いさんと談笑してたのに。
イーノ「あ、いや、別に」
“ゲス”のイーノはミキオPが一人で暴力団やカルト教団を潰した恐ろしい人だということを噂で聞いているのだろうか、すぐに手を離し真顔に戻った。
ミキオ「我々はプロとして仕事でこの場に来ている。そちらもそのつもりで臨んで頂きたい」
イーノ「あ、ああ、そりゃもちろん。オレもプロだからね、冗談冗談。ハハハ…」
ミキオPがキッとした表情でそう言うとイーノは苦笑いしながら競歩のような早足で尻尾を巻いて逃げていった。うーんこの小物感。ざまあみろ。
ミキオ「大丈夫?」
ユキノ「ハイ、ありがとうございます」
うわ、気づけば例の二人が接近遭遇してるじゃないか。目に見えない♡がいっぱい浮かんでいるよ…これもうカップルの空気感では…。
チズル「え? ユキノって他人との距離感こんな感じだったっけ?」
ノリ「どっスかねー」
リーダーたちも困惑しているが、私はその理由を言えない。うー…いつまで隠してたらいいんだ、これ。
配信番組が終わったのが第10刻半(※日本の21時くらい)。すっかり遅くなったので今夜は王都にある寮に戻り一泊することとなった。明日からはまたライブツアーなのでメンバーはみんな早く寝たが、私は何か眠れずに一人でリビングに出てきて漫画を描いていた。もう深夜の第零刻半(※午前1時)だ。
ユキノ「ジャコ、起きてたの?」
リビングに入ってきたのはユキノ様だ。ピンクのパジャマ姿可愛いなあ。ファンが見たら悶絶ものだろうな。
ジャコ「いや、何か目が冴えちゃって…ユキノ様はどうしたんですか?」
ユキノ「わたしも眠れなくて。ハーブミルクティー淹れるから一緒に飲も」
ジャコ「頂きます!」
後輩の私が淹れるべきだがユキノ様の淹れてくれるハーブミルクティーを飲めるのが嬉しくてつい甘えてしまう。据え付けの魔法レンジにユキノ様が指をスナップさせると一瞬で火が点いた。
ジャコ「さすが恋の魔法使い」
ユキノ「わたし一応、火属性だからね」
ユキノ様はそう言いながら温めたミルクをカップに注ぎハーブミルクティーを2杯作ってくれた。彼女はこう見えて中学時代魔法科の優等生だったのだ。
ユキノ「はい。熱いから気をつけて」
ジャコ「ありがとうございます!」
ユキノ様からティーカップを受け取る私。熱いと言っても適温だ。さすが火加減が上手い。
ユキノ「ジャコと夜更かしするの初めてだね」
そう言ってパジャマの萌え袖を口に当て微笑むユキノ様。可愛さが爆発してる。人類でこの人より可愛い人なんているんだろうか。
ジャコ「…私、ユキノ様のこと誤解してたかも。もっとクールで他人と適度な距離を取る人だと思ってました」
ユキノ「わたしは誤解されやすいから…わたし、中学の頃いじめられてたんだ」
まさかの独白に私は深夜だというのに大きい声を出してしまった。
ジャコ「えーっ!? あり得ない! こんな素敵で優しい人を?! 許せない、今からでもいじめてた奴ら怒鳴りつけに行きたいです!」
ユキノ「うふふ。ありがと。子供の頃から芸能やってたから目を付けられやすいんだよね。その頃のこと考えると今の生活が信じられない。友達もいなかったし、恋愛なんてしたことなかった」
そうなのか…そんな人があんな大胆なプレゼントをおねだりするなんて、わからないもんだな。
ジャコ「あの…このさい訊いていいですか? ミキオPに凄いプレゼントおねだりしてましたよね」
ユキノ「うん、キス…をテーマにしたわたしのソロ曲」
がーーーん!!! なんだそれは…じゃあ私また勘違いしてたのか。「キスを…」の後に「テーマにしたソロ曲を」と言ったのをユキノ様が小声だからよく聞こえなかったんだな…しょうもない…。
ジャコ「私、勘違いしてました。ユキノ様はプレゼントにキスそのものをお願いしたのかと思った」
ユキノ「うふふ。さすがにね」
そう言って小悪魔的に笑うユキノ様。キスをテーマにしたソロ曲か…そりゃそうだよな。キスをプレゼントにだなんて、そんな破廉恥なお願いをこの清楚な人がするわけないよ。
ユキノ「本当はキスくださいって言うつもりだったんだけど、さすがに言えなかったから言葉を足したの」
えーーーっ!?!? なら最初は本当にキスをお願いするつもりだったんじゃないか! もう何が何だかわからなくなってきた。この人のどこにそんな大胆さがあるんだろう…。
ジャコ「こ、このことカレンには何と言えば…」
ユキノ「話が大きくなるから、わたしとジャコだけの秘密にしよ。ティラミーにも言ってないから」
ジャコ「は、はい。墓場まで持っていきます…本当に好きなんですね、ミキオPのこと」
ユキノ「うん、大好き。好き過ぎて眠れない日もある。今夜みたいに」
ユキノ様はそう言ってニコッと笑う。月光に照らされてキラキラ光る薄紫色の瞳、なんて綺麗なんだろう。リアルに天使みたいだ。こんな美少女に想われてるミキオPはとんでもない果報者だよ。叶えさせてあげたいな、この恋。
1週間後、今日はユキノ様の誕生日だ。ライブツアーの演目も今日だけは“ユキノ・ヤード生誕祭”となっている。会場となる連合王国のセキメット・コンベンションセンターには既に1万人の観客が押し寄せていた。
オープニングのOvertureのあと、『イセカイズム』『SHY×SHYテレパシー』『弱気ねマイハート』と曲が続き曲間のコーナーとなった。MCはリンコ先輩で、直前の曲はユキノ様のソロ曲だったので舞台にはその二人が立っている。
リンコ「いえーい! 今日はユキノ・ヤード生誕祭にお越しいただきましてありがとうございます。凄いよ、こんな大っきい会場で生誕祭! あたしの生誕祭の時はライブハウスだったもんなw」
ユキノ「そういうこと言わないの」
リンコ「さてユキノ選手、次の曲はソロの新曲と聞きましたが。いつの間に!」
ユキノ「うん。この日のために作って頂きました」
観客「おお〜っ!」
リンコ「やるな〜。これはどういう曲なんですか?」
ユキノ「えっとね、年上の男性に恋をした女の子の曲です」
リンコ「おー、大人っぽい! わかりました! それでは準備をお願いします。ユキノfromイセカイ☆ベリーキュートで、『最上級I like you』」
最上級I like you
作詞:ムーブメント・フロム・アキラ
作曲:ジューゼン・ナッス
歌:ユキノfromイセカイ☆ベリーキュート
ふたり歩くプラタナスの並木道
急に雨の降る匂いがして
走ろって繋がれた手
秒で恋に堕ちた
いつも横顔を見ていた
ちょっと年上のPrince
もっとあなたに近づきたい
無愛想なとこも全部好き!
最上級I like you
loveにはまだ遠いけど
愛情急上昇中
追いかけていく
Give me a kiss for my birthday!
ふたりまるで北極星の導き
ふいに寄った駅でまた会えて
微笑んでくれたその眼
一瞬で胸焦げた
いつもため息で見ていた
わたし臆病でshyness
いつかあなたに告りたい
不器用だけど変わりたい!
最上級I like you
loveにはまだ遠いけど
完全大恋愛中
輝いている
Give me a kiss for my birthday!
最上級I like you
loveにはまだ遠いけど
愛情急上昇中
追いかけていく
Give me a kiss for my birthday!
観客「ワーーーッ!!」
うおお、可愛い…ユキノ様のスイートなボーカルにふさわしい素敵な曲だ。それにしても歌詞の内容がそのままミキオPのこと言ってるような気がするけど…出番待ちの私が舞台袖で見ていると突然背後から声をかけられた。
ミキオ「断っておくが」
ジャコ「わっ!? ミキオP、いたんですか?」
いつの間にか背後にいたのはミキオPだ。まあプロデューサーだから舞台袖にいるのはおかしくないけど、5秒前までいなかったのに。
ミキオ「あの歌詞を書いたのはおれじゃないし、ユキノとはそういう関係じゃないからな。誤解するなよ」
ジャコ「はあ」
ミキオ「わかればいい。変な噂を流すなよ」
そう言いながらミキオPは左手を挙げて去っていった。いつもながら神出鬼没な人だ。
次の日、夕方の情報番組に私とユキノ様とコマチパイセンが出演することになり、私たちは王都の大手魔法送局に来ていた。ライブツアーの告知が終わって帰りのタクシー馬車を待っていると、私たちを見かけにじり寄って来る者がいた。げ、またあいつじゃん。ゲスこと“G.E.S”のイーノ。ゲスもこの局に来ていたのか。
イーノ「ユっキノちゃ〜ん、縁があるねぇ〜!」
ユキノ「…」
イーノ「今日は変なプロデューサーいないんだろ? ラッキー。今夜こそ鳩アド教えてもらうからね」
完全にロックオンされてんな。こんな小物がユキノ様に相手して貰おうだなんて図々しい。今日こそはひとこと言ってやるぞ。
ジャコ「あのですねえ…」
だが私が行くまでもなく、ユキノ様はイーノが掴もうとした左手をぱちんとスナップさせてピンク色の炎を現出させた。
イーノ「ひいっ?! あ、熱っつ!」
火は一瞬で消えたがイーノは手に軽い火傷を負ったようだ。ヒーヒー言いながら手を冷やしにお手洗いに走って行った。
コマチ「うしゃあ〜あいつ手が一瞬燃えてたよ〜」
ジャコ「いい気味です」
ユキノ「わたし一応、火属性だからね。行こ」
クールにそう言って歩いていくユキノ様。私が出るまでもなかったな。でも恋っていいな、こんなにも女の子を輝かせるんだ。私もいつか三次元の人を好きになるのかな。




