第17話 エースの恋 最上級I like you(前編)
読者の皆様ごきげんよう。いかがお過ごしだろうか。私はこの王都フルマティにある七番町学園の高等部2年生にしてアイドルグループ“イセカイ☆ベリーキュート”の2期生メンバー、ジャコ・ギブン。今日も私の優雅なアイドル生活についてお話ししたい。
現在、私たちイセカイ☆ベリーキュートは三大大陸横断ライブツアーの真っ最中。南方大陸カキーザ藩王国でのライブを明日に控え、今日はカキーザに前乗りしてハンマナスホテルという大きなホテルに滞在していた。
アママ「ジャコ、ちょっといい?」
ジャコ「はあ」
ホテルのロビーで私を呼び止めてきたのはツアーを取り仕切る現場マネージャーのアママ女史だ。
ジャコ「えっ、私がミキオPとの座談会に出るんですか?!」
アママ「そ。チズルとユキノとカレンが聞き役に入る予定だったんだけどチズルが地元の番組に呼ばれちゃって」
ジャコ「で、でも、私みたいな人気最下位メンが…」
アママ「何言ってんの。新曲のポジションはジャコもフロントメンバーでしょ。順当だよ。もう少ししたらミキオPが来るそうだから、ロビーでユキノたちと待機してて」
うわうわうわ、えらいことになった。今日は移動だけなので実質休みみたいなものだから部屋でゆっくり過ごそうと思っていたのに…言われるままにロビーの一角にある喫茶エリアに行くともうユキノ様とカレンが座っていた。メンバー唯一の中学生カレンは無邪気にはしゃいでいるが、ユキノ様はいつものようにクールなすまし顔だ。ユキノ様は同じグループだけどこの世界では名実ともにトップアイドルであり、他人を寄せ付けないオーラを放っているので私もこの人の前ではついキョドってしまう。
ユキノ「ジャコはわたしと一緒じゃ嫌?」
ジャコ「そ、そんなことないです!」
珍しいな、他人に興味の無いユキノ様がこんなこと言うなんて。よっぽど私の挙動不審ぶりがひどかったのか。
ジャコ「ミキオPとの座談会なんで緊張してるんです。あの人、怖い噂聞くじゃないですか。なんか聞いた話だとカルト教団とか暴力団相手にひとりで戦ったとか…」
噂というものは往々にして尾ひれが付くものだが、ミキオPの場合は真偽不明の噂が本当に多い。他にも死者復活の大魔法を使うとか、邪神や巨竜を滅ぼしたとか嘘くさい噂がいっぱいある。
ユキノ「そうかな…でもわたしたちには優しいよ。いつも美味しいもの差し入れしてくれるし」
カレン「こないだの生ドーナツってやつ美味しかったよね!」
スイッチオフの時のユキノ様はいつもこうやって消え入るような小さな声で訥々と話す。対象的にカレンはスイッチが存在せず、いつでも突き抜けるような元気な声だ。
ユキノ「わたしはミキオPはすごく優しい人だと思う」
はっ、そうだった。この人はミキオPガチ恋勢なんだ。私と話しているのに私の方を見ていない。空中に浮かんでいる架空のミキオPをうっとりした目で見ている。完全に恋愛モード入ってる。アイドルとしてヤバくないか? この状態でミキオPとの座談会に入るのか?
カレン「もしかしてユキノさんってミキオPのこと好きだったりするんですか?」
コラコラ、核心突くようなこと言うな。
ユキノ「…そんなこと無いよ。かっこいいとは思うけど…」
ほら、わかりやすく動揺してるじゃないか。
カレン「ええー、ガチのリアクションぽい! ミキオPって独身ですよね。彼女とかいるんですかね?」
ユキノ「知らない」
空気を読まずあくまで天真爛漫なカレンと、その言動に拗ねて口を尖らせ向こうを向いてしまうユキノ様。うーん何をしてても可愛い。これが天性のアイドルってもんだよな。美少女ふたりのイチャイチャを見れて私は眼福だわ。
編集者「ツジムラ侯爵、入られました!」
ミキオ「待たせてすまない」
わ、急に来た。この長い黒髪を束ねた若い眼鏡のイケメンが私たちのプロデューサー、ミキオ・ツジムラである。彼はさっきも言ったとおり様々な噂のある凄い魔道士らしいけど、なんでそんな人がアイドルグループのプロデュースなんかやってるのだろう。
編集者「お疲れ様です。Bob!編集部のダンクと申します。侯爵様、今日はよろしくお願いします」
ミキオ「こちらこそ」
名刺を差し出す中年女性の編集者とそれを受け取るミキオP。
カレン「おはようございます!」
ジャコ「お疲れです」
ユキノ「よろしくお願いします」
ミキオ「うん、よろしく。編集者さん、時間がないのでさっそく始めよう」
こうしてハンマナスホテルの喫茶室でアイドル雑誌“Bob!(ボブ)”の企画座談会が始まった。仕切り役はさっきの女性編集者さんだ。
ーーーー今日はイセカイ☆ベリーキュートの3rd.シングル発表を記念しまして、イセキューメンバーのユキノちゃんとカレンちゃん、それにジャコちゃんに加えてプロデューサーのツジムラ侯爵にお越し頂いています。今回のシングルは初めて2期生が参加するということですが。
ツジムラ:そうですね、2期生は1期生にも増して個性派が揃っている。ここにいるジャコは歌唱力抜群、カレンはアイドル性抜群です。ノリはグラビアアイドルとしての活動も始めたし、モッチーも正統派アイドルとして頭角を現しつつある。
カレン:ジャコちゃんは漫画も描くしね。
ジャコ:うん。前の連載は残念な形で終了したけど…。
ツジムラ:そう言えば君、新連載の構想は決まった?
ジャコ:はい、次は怪盗と警官の恋の話にしようかなと思ってまして。
ツジムラ:ほう。ネームができたら一度見せてくれ。
ーーーー本当に2期生の皆さんは個性豊かですね。ところで、ユキノちゃんは来週が誕生日ですが。
ユキノ:ありがとうございます。ファンの方が実行委員をしてくださって生誕祭が行なわれるみたいです。今から楽しみです。
ツジムラ:そうか、知らなかった。おめでとう。
カレン:まだ早いですって(笑)。
ジャコ:これまでも何回かメンバーの生誕祭はやってるけど、ユキノ様の生誕祭は初めてだね。盛大なことになりそう。
ユキノ:ドッキリとかはやめてね。わたし心臓弱いから(笑)。
その後30分ほど新公演の内容などについて話し、何事もなく座談会は終わった。やる前はいろいろ心配していたけど杞憂に終わったといっていいだろう。編集者さんを見送り、3人で立ち話しているとユキノ様の生誕祭の話になった。
ジャコ「もちろんうちらも誕プレ考えてますんで」
カレン「ねー!」
ユキノ「そうなんだ…ありがと」
なぜかモジモジしているユキノ様だったが、やがて決意の表情を見せた。
ユキノ「…ジャコ、カレン、待ってて。わたしちょっと行ってくる」
ジャコ・カレン「えっ」
ユキノ「ミキオP、ちょっといいですか」
ユキノ様は私たちをかき分けてミキオPのところに歩いて言った。何だろう、何か物申したいことがあるのかな。ていうかミキオPまだ帰ってなかったんだ。
ミキオ「うん、何?」
離れてはいるが二人の声は聞こえる。私はユキノ様の唐突な行動が気になっていたので自然に耳がそっちに向いてしまう。
ユキノ「わたしの誕生日なんですけど…ミキオPからプレゼントが欲しいんです」
ミキオ「ああ、もちろんだ。何がいい?」
え、凄い度胸。ミキオPに直接プレゼントおねだりするんだ。私の時も言ったらくれるのかな…それにしても欲しいものを本人に訊くなんて、これじゃサプライズも何もないじゃん。女心わかってないなぁ。ユキノ様は言葉を選んでいるようだったが、やがて紅潮しながら言った。
ユキノ「…キスを…」
えーーーっ?!?! 聞いていた私とカレンは思わず声が漏れそうになったが必死で口を塞いだ。ヤバいでしょこれ、何言ってんのユキノ様、誕プレにキスをねだるなんて…みだら過ぎない?! ユキノ様ってそんな子だったの?!
カレン「ね、いまキスって言った?!」
ジャコ「しっ」
言われたミキオPは驚いたような顔をしてフリーズしていたが体感で5秒ほど経ったあと、何事でもないように答えた。
ミキオ「…いいだろう。じゃあまた連絡する」
オッケーしちゃったよ!!! どうなってるのこの二人、もしかして以前から付き合ってたとか??? いやいくら美少女でもユキノ様はまだ高校2年生の16歳だ、あんな大人のイケメンが相手にするか?? どどどうしよう、プロデューサーとアイドルが熱愛だなんて、下手したらグループ解散になる…絶対黙ってなきゃ…いや私のことよりもカレンだ。この子思ったことすぐ口に出すから絶対喋ってしまいそう。
カレン「ジャコちゃん、あたしどう受け止めていいかわかんない…」
ジャコ「それはそう。私だって完全にパニクってる。とにかく一旦落ち着こう。深呼吸しよう」
ミキオPとの話を終え帰ってくるユキノ様。顔は真っ赤だがあきらかに口角が上がり嬉しそうにしている。
ジャコ「あ、あの…」
ユキノ「良かった。OKしてくれた…二人とも、このことはメンバーには内緒にしといてね」
ジャコ「あ、もちろん言いません! マネージャーにも言いません!」
カレン「言わない!」
ユキノ「♪」
うきうきを隠せない様子で自分の部屋に行くユキノ様。珍しく歌なんか口ずさんでる。うえー何かわかんないけどまじショックだ…私は頭上にぐるぐるの渦巻きを何個も浮かべてふらふら歩きながら3階にある私の部屋に行った。今日はリンコ先輩と同室だ。
リンコ「おつかれー。座談会盛り上がった?」
ジャコ「いやー、ちょっと私いまパニクってて…」
ばたん。私はベッドに倒れ込んだ。
リンコ「どした?!」
リンコ先輩には言えないけど、なんかもうとんでもないものを見てしまった…そりゃ私だってユキノ様がミキオPに憧れてるのは知ってたよ。でもあんな清楚な感じなのに誕プレにキスだなんて…いま思い出しても他人事ながら顔が赤くなる。完全に自分のキャパ超えてる。私は悶々としながらベッドの上で脚をじたばたしていた。
リンコ「おーい、まじ大丈夫?」
リンコ先輩が心配げに私をのぞき込んできたので、私は抱いた枕の下から目だけ出して言った。
ジャコ「リンコ先輩は男子に告白したことあります?」
リンコ「急になに!? ええーまあ中1の時にあったかなぁ。一応友達から始めよって言われて、何回か会って自然消滅したけど」
ジャコ「あるんですね…キスとかしました?」
リンコ「なに、ジャコ! 欲求不満?? ノーコメントだよそんなの! シャワー浴びてスッキリしてきたら?!」
ジャコ「そーします…」
翌朝、私はグループメンバーと共にハンマナスホテルの朝食会場にいた。バイキング形式なのだが昨日はあまり眠れず、半覚醒状態のまま料理をチョイスしたので揚げ物だらけの変なプレートになってしまった。
チズル「…ジャコってこんなヤンチャな朝食取る子だっけ?」
リンコ「昨日からずっとおかしくて」
ジャコ「いや、あの、そんなことは」
私が昨日から変な理由は言えるわけがない。もごもご言い訳していると隣のモッチーが言ってきた。
モッチー「カレンちゃんも昨日から何かソワソワしてるよねぇ」
カレン「え?! や、それはその…」
カレンは落ち着き無くもじもじしている。普段から大人にも言い返すし、大きなステージでもがんがん観客を煽るからくそ度胸のある子だと思っていたけど、隠し事があるとこんな感じになるのか。
チズル「で、ユキノは昨日からずっとニコニコしてるし」
ユキノ「してないよ。普通」
とは言うが普段あんなにクールなユキノ様がご飯を食べてるだけなのに終始嬉しそうにしている。まあそうだろうな、憧れの人とあんな約束したんだもんな…私はモヤモヤを抱えたままプレートの上の全部茶色い料理をむりやり胃の中に放り込んだ。
私たちイセカイ☆ベリーキュートはその日の午後にカキーザ地方でコンサートを終えた。その日の夜には王都で大きな歌番組の生配信があるのだ。なかなかのハードスケジュールなのでミキオPが転移魔法で迎えに来て王都の魔法送局まで送ってくれたのだが、こういう時は関係者に転移魔法の使い手がいることのありがたみを実感する。何しろ他のアイドルたちは馬車を使って移動しているのだから。
私たちが歌唱パートのリハーサルを終え休憩しているとひとりの女の子が近付いてきた。この中央大陸では有名なソロアイドル、“国宝級美少女”の異名を取るティラミー・ダイフックだ。彼女もこの番組に参加しているのだろう。
ティラミー「ユキノ、やほ♡」
ユキノ「やほー♪」
小さく手を振り華麗に挨拶し合うユキノ様とティラミー。この二人は学校の同級生で友達なのだ。さすがお嬢様学校の生徒は違うなぁ。私の友達なんか会った瞬間に何も言わずニヤニヤ笑いながらエロい絵見せてきたりするのに。
ユキノ「昨日の鳩見てくれた?」
ティラミー「見た見た! すごいね、楽しみだねっ」
さすが全アイドル総選挙1位2位の美少女同士のイチャコラは見応えがあるなぁ…でもその鳩手紙の内容って何だろ。まさか…。
ティラミー「最高の誕生日プレゼントだねっ」
ああ…やっぱそうか。親友だからそりゃあのこと報告するよな…でもあんなプレゼントのことをそんなはっきり言わなくても。芸能記者が聞いてたらどうするんだ。
ティラミー「当日はわたしも見に行くね」
ええっ?! 憧れの人とキスしてるとこを見せるのか?? いくら親友でもそれは破廉恥過ぎないか??
ユキノ「うん、来て来て。絶対盛り上がるよ」
盛り上がるって、そりゃあんたたちの愛は盛り上がるだろうけど、キスを見せ物にするなよ…二人ともおとなしいと思ってたけど案外イケイケだな…。
私がそんな二人の会話を見ていると、私の背後から出てきて彼女らに早足ですたすたと近づいていく者がいた。
男「ユキノちゃんティラミーちゃん、お疲れー!!」
ユキノ「あっ」
ティラミー「どうも…」
えっこれ誰だっけ。この位置だと顔は見えないけど若い男のようだ。だがその男の顔を見た途端に二人の表情が曇っていった。世界最高のアイドル二人がこんなにも嫌がるこの男は何者? そしてユキノ様の恋の行方は? 次回へ続く。




