第二部五章『ゲームエンド』6-4
これは反応に困る……というか、何でこんなものが?
そんな感情を込めた視線を五十嵐に送ると、もじもじ赤面しながら小声で答えてくれた。
「その……、美恋先輩に強制されたんですよぅ…… い、色んなコスプレを……」
涙目ながらも必死に堪えて、震える声でそんなことを告げられた。
そう。俺の手元には、五十嵐が様々なコスプレをして恥ずかしがっている写真があったのだった。
バニーガールはもちろんのこと、ケモ耳メイドや果ては水着姿などなど。それはもう様々なシチュエーションで撮られていた。なんか、えr……いや、そうじゃなくて。
「んー? んんんんんん? つまり……?」
「そ、その写真は、美恋先輩にパワハラされて撮られた写真です」
「お、おう…… えっと。つまり、この写真を見られたくなかったって、要するにそれだけのことか?」
俺が問うと、五十嵐が噛みつくような声音で反論してくる。
「それだけのことじゃないですよ! 私は美恋先輩が死んで、代わりにAクラス運営に昇格したんです! なのに、遺品整理でその写真が白日の下に晒されでもしたら……、私の威厳や権力が揺らぐんですよ!? デスゲーム運営は舐められたら終わりの世界なんですぅ!」
「そ、そうなのか……」
まさか、そんな不良や政治家みたいなことが……あるんだろうな。デスゲーム運営なんてアングラな世界だろうし。
で、美恋。何か弁明はあるか?
【あー、えとー、段々と思い出してきたけれど……、弁明は無いわね。そういえば、罰ゲームでそんなことをした気もするわ】
じゃあ、最初から最後までお前が悪いじゃねぇか! 俺たちはいったい何をさせられてたんだよ!?
【し、仕方ないじゃない! 記憶が無かったんだから! それに、火花に仕掛けたゲームだって、彼女を立派な運営にする為にフェアなルールで戦ったのよ!? 実際、火花はAクラスとして認められるくらいの実力がついたわけだし……】
そうかそうか。まあ、五十嵐はパワハラって言ってたけどな。
【そ、そそ、そんなの捉え方の問題でしょ!?】
どうせ悪戯の延長だったんだろうが。五十嵐の立場にもなれ。それでこの話はお終いだ。
さて、もし最後に言いたいことがあれば聞くが……?
【……お騒がせしてごめんなさい】
最後はしおらしく(?)、素直にそんなことを口にする美恋。まあ、少しばかり口を尖らせていたが。
まあいい。俺がゾンビだったから許してやろう。結果的に、加子も白華も無事だしな。
傷ついたのは黒服と五十嵐のメンタルだけだ。
すると、隣の加子が首を傾げて俺に問うた。
「一斗くん、これにて解決ですかね?」
「うーん……、そうなるのか? まあ、骨折り損な気もするけど、この過程が無かったら美恋の記憶は戻ってないわけだし……」
「でもまさか、コレに命を賭けることになるとはねー」
「それはまったくだな」
まあ、終わり良ければ何とやらか。
拍子抜け感もあるが、これがゾンビクオリティってことで。
【ねえ、一斗。火花と話をさせてほしいのだけれど……】
話を? 俺は構わないけど。
【たぶん、私は『迷宮』には戻らないわ。だから、運営として最後に話をしておきたいの】
戻らない、か……
ホントにいいのか? ゾンビであれば、『迷宮』にだって戻れるはずだけど。
【いいのよ。私の立場は、火花が受け継いだの。あとは死人らしく託させてもらうわ】
そうか。お前がそう言うなら、そうするといい。
デスゲーム運営なんてやめて、せいぜい普通の生活を送るんだな。
【ゾンビが普通の生活ってのも、おかしな話だけれどね】
それもそうだな。
っと。じゃあ、主導権は渡すから、五十嵐と話して来いよ。
【ええ、そうさせてもらうわ】
そして、美恋は俺の口を通じて自らの言葉を紡ぐ。
「【火花……】」
「え、何ですか急に下の名前で呼んで……」
うわー、とジト目で俺を見やる五十嵐。まあ、そうなるよな。
「【わ、私よ! 美恋! わけあって、魂がこいつの中にあるのよ!】」
「ああ、美恋先輩でしたか。……って、美恋先輩!? 姿が見えないと思ったら、そんなところに居たんですか!?」
「【諸事情あってね。ま、火花は元気そうで何よりだわ】」
「み、美恋先輩……」
驚く五十嵐に、悪戯に微笑みかける美恋。というか俺。
その表情が余程印象的だったのか、思いの外すんなり受け入れた様子に見えた。
「【まあその、色々と迷惑掛けたわね…… 悪かったわよ】」
「そ、そんな迷惑だなんて……! 確かに迷惑でしたけど……」
「【否定するフリだけでもしなさいよね、まったく…… まあいいわ。私が伝えたいことは一つだけよ】」
「…………」
一拍置いて、美恋がゆっくりと言葉を吐き出す。
「【火花は強かったわ。今回はあと一歩、私には及ばなかったみたいだけど…… あんたなら、きっと私を越えられるはずよ。頑張りなさい】」
「美恋、先輩……!」
それだけ言って、美恋は【もういいわ】とだけ俺に伝えた。
ま、これ以上の干渉は野暮か。
俺は加子と白華に視線を向け、この場を去ることを促す。すると、二人とも静かに微笑んでから頷きを返してきた。
俺は手に取った写真をロッカーに戻す。そして、五十嵐に背を向け、扉の外へ向かった。
「美恋先輩……ッ!」
背後から、未練を呼ぶ声が投げかけられる。
「わ、私ッ! 美恋先輩のこと、大っ嫌いでしたけど! 死んだと知った日、すっごく泣きました!」
足を止め、俺はセリフの続きを聞く。
……美恋は何も言わなかったが。
「それで、私がAクラスに上がって…… 音黒教授のことを知って! 生き返らせたけど、魂は無くて! だから、こんなの美恋先輩じゃないって……!」
そうか、だからあの日……
「美恋先輩が生きていると知った日、すっごく驚きました! でも、その美恋先輩は様子がおかしくて……! 空っぽの死者を好き勝手されるのが何か嫌で……、保護しようとしたんです。逃げられちゃいましたけどね、あはは……」
乾いた笑い声を響かせながら、五十嵐は尚続ける。
「その後、別の先輩からゾンビの仕組みを知りました。だから、もしかしたら本物の美恋先輩なんじゃないかって……! もしそうなら、きっとまた私と遊んでくれるって、そう思って準備していたんです……ッ!」
そして、最後に五十嵐はこう締めくくった。
「だから、また遊べて楽しかったです! 負けちゃいましたけど、私はもっと強くなります! だから、また絶対に私と遊んでくださいねっ!!!!」
俺の足は、再び前へ動き出した。……俺の意思とは関係なく。
いいのか? 何も言わなくて。
【死人に口なしって言うでしょ。伝わってるわよ、全部】
そうか……
一枚だけ、こっそり抜いてきた手元の写真に視線を移す。
そこには美恋と五十嵐の二人が、したり顔と不機嫌顔で映っているのだった。
……はは。あんまり、楽しそうには見えねぇな。
何だかんだ言いつつ、五十嵐が本当に取り戻したかったのは、こんな美恋との思い出だったのかもしれない。
そして、未練も……、こんな日常をもう一度楽しみたかった。そんなことが心残りだったのかもしれない。
まあ、その真意は本人たちだけが知っていれば十分か。俺が踏み込むことじゃない。
だから、俺は五十嵐に背を向けたまま振り返らないことにした。
立ち止まることも振り返ることも無く、前へと進み続ける。
とっくに終わってしまった人生なんて、それしか出来ないのだから。




