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第二部三章『迷宮の火花』3-2


 なに言ってんだ!? み、美恋がこんな美少女のわけねぇだろ!


【どういう意味よ! いえ、今は話が逸れるから勘弁してあげるけど…… とにかく! そこのマッドサイエンティストに話を聞きなさい! どうして、私の肉体がここにあるのかを!】


 この反応……、こいつマジで言ってるのか。なんか夢が壊れたな。責任取ってほしい。


【いいから早く聞けっつってんでしょ! 呪うわよ!】


 むしろ身体が見つかったんだから祝えよ。はぁ…… まあいいや。

 とりあえず、聞くだけ聞いてみるか。事情が知りたいのは俺も同じだし。


「どうしたんですか、一斗くん。さっきから顔が面白いですけど?」

「うるせぇ、余計なお世話だ。……いや、それどころじゃなかったな。あの、音黒せんせー」

「ん、何だ? どうかしたか?」


 俺が声を掛けると、音黒せんせーは相変わらず気だるげな表情で俺を見やる。


「なんか、この身体、美恋が自分のものだって言ってるんですよ」

「まあ別に、私は二億で売れるんなら相手は誰だって構わねぇけど」

「いえ、そうじゃなくて。これ、生きている時の自分の身体だって……」


 そこまで言うと、加子も白華も「ええ!?」っと声を漏らし、目を丸くして驚きの表情を浮かべるのだった。


「……そうか。それは面白そうな話だ。議論を続けてやろう。いちおう確認だが、マジなんだろうな?」

【大マジよ。驚くことにね】

「あー、マジだって言ってますね」


 俺がそう伝えると、音黒せんせーは「ふむ」と考え込むようにして適当な椅子に腰かけた。そして、思考を続ける。


【でも、どうして『迷宮』は私を蘇生しようとしたのかしら? 何か知っているか聞いてみて】


 確かに、それは気になるポイントだな。


「あの、音黒せんせー。どうして『迷宮』は美恋を蘇生しようとしていたのか、その理由って、知ってたりします?」

「事情に興味は無かったからな。詳しくは聞いてねぇが…… 確か、そいつは『迷宮』のAクラス運営とか言ってた気がするな」


 音黒せんせーは顎に手を当て、そんなことを口にしたのだった。


「Aクラス、運営だって……? え、こいつプレイヤーじゃなくて運営側だったんですか?」

「ま、あくまで聞いた話だ。確証はないがな」


 おーい、美恋。

 お前、ホントに『迷宮』運営側の存在だったのかよ?


【えっと、そうね…… 段々、靄のかかっていた記憶が晴れてきたわ。……そう、思い出した! 私は確かにデスゲーム運営委員だったわ! それも超エリートのAクラスよ! 道理で自分がお金持ちの気がしたのよね!】


 ふふーん、とテンション高めでエリート金持ち自慢を始めやがるクソ悪霊。

 つーか、何だよAクラスって?


【『迷宮』のデスゲーム運営委員には明確な階級制度があるのよ。下はFクラス、上はSクラスまで。私はAクラスだから、かなりのエリート運営なのよ。ふふん】


 ほーん。お前がエリートねぇ……


【何よ? 文句でもあるわけ?】


 いや、別にー。んなことより、死因は思い出せたのか? それが蘇生したい理由の手掛かりになるんじゃねぇの?


【死因は……、分からないけど。まあ、私が居なくなったことで、運営側も苦労しているってことでしょ? 換えの効かない人材だから、ゾンビだとしても必要だったとか】


 ふーん、そんなもんかねぇ。

 俺はまだ社会人じゃないから、その辺の感覚は分からんけど。


「おい駄犬。四居は何て言ってる?」

「自分はAクラス運営で必要とされてるから、生き返らせたかったんじゃないかって。そう言っています」

「それはねぇだろ。普通に考えて」

【なんでよ!】


 ばっさり切り捨てる音黒せんせーに、美恋が人知れず噛みつく。


「『迷宮』は、こいつのゾンビを二億で買い取るって言ってんだぞ? どう考えても、コストの方が重いだろ。あの組織は人手不足ってわけでもねぇし」

「あー、なるほど。そういう理屈なら、確かに二億かける道理はありませんね」

【きっと愛されてるのよ、私は! そこの美少女を見れば分かるでしょ? 二億払ってでも生き返らせたかったに違いないわ!】


 どうだかな。見てくれが良くても、中身はこれだし。

 むしろ、恨みを買って殺されたとかの方がしっくりくるな。


【そ、それは……! 無いとは言い切れないけど……】


 言い切れないんかい。

 まあ、悪霊を自称するくらいだからな。自分の性格くらいは理解してるか。


【うっさいわね……!】


 否定できないなら、もうちっとお淑やかに振舞うんだな。

 なんてやり取りをしていると、白華が横から口を挟んでくる。


「あの、音黒せんせー。思ったんですけど、せんせーと『迷宮』って、どんな関係なんですか? なんか、内部事情にも詳しそうだし」

「私にとって『迷宮』はただの客だ。こっちが技術提供をすることで、研究資金を稼いでいるに過ぎない。デスゲームで使う器具とか、あと何に使うのかは知らねぇが特殊メイクの材料とかバイオメトリックジャマーとかだな」

「アングラな技術提供者…… なんとなくカッコいいですね!」


 出てくる感想が平和ボケしていて安心さえ感じるなぁ。

 しかし、何か気づいたことがあったのか、音黒せんせーは「そういえば……」と小さく声を漏らして続けた。


「あの依頼主、パスワードがどうとか言ってたな」

「パスワード、ですか?」


 俺が聞き返すと、音黒せんせーはゆっくり頷きを返してくる。


「ああ、こいつの魂が無いと分かった途端、パスワードの記憶が無いなら金は出せないと言ってきやがったな。つまり、『迷宮』が本当に欲しかったのは、その情報なんだろうよ。四居に心当たりは無いのか?」


 どうだ、美恋?


【パスワード…… 『迷宮』本部に入る際に使うけど、そんなもの個別に全運営委員が持ってるはずよ。私個人のパスワードが欲しい理由は分からないわね】


 と、そのことを俺は音黒せんせーに伝える。


「理由はハッキリしねぇか。ま、それなら建設的な話をしよう。今回は特別に原価でこいつを売ってやる。魂が無いと分かった時点で、ペンダントは作成していねぇ。つまり、直ぐにこの身体に戻れるわけじゃねぇってことだ。それでも買うか?」

【当然でしょ。いくらだって買うわよ。あ、それと一斗。いくら美しいからって、私の身体に触らないでよね】


 へいへい。お前の身体って時点で、興味は失せたよ。まあ、見た目は良いんだけどなぁ。


「おい駄犬、四居はなんて言ってる?」

「美恋は買うって言ってますね」

「クク、それなら都合が良い。四居に売ってやろう。ああ、そうだ。いちおう直ぐにこの身体へ戻れる方法はあったな」

【え、そうなの!? なら戻るに決まってるでしょ!】

「…………」


 うーむ?

 その方法には、俺も心当たりがある。でも、何故か嫌な予感がするな。


「よし、特別サービスだ。一時的に元の身体に戻してやろう。おい駄犬、そこに寝ろ」

「うわー、やっぱり……!?」

【???】


 過去の記憶が……、いや加子の記憶が蘇るなぁ。こんなこともありました、っと。

 しゃーない。今回だけは付き合ってやるか。不本意だけどな。


【え、どういうこと?】


 まあ、直ぐに意味が分かるだろうよ。


   ◇



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