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四章『ゾンビ&ガンズ』4-1


「着いたぞ。ここが例の会場だ」


 車を降りて数分。

 都心から離れ、閑散とした夜道を歩いていると、その場所が見えてきた。


「あれって……、廃校かな?」


 目を丸くした白華はっかが呟く。

 そう。目の前の建物は見るからに学校のような外装をしているが、色んな箇所が崩れ落ちていて廃墟と化していた。しかし、所々で修繕がされているのか、中途半端に補修の痕跡が見られる。


【なんか不気味ですね。ゾンビが言うのもアレですけど……】


 まったくだな。まあ、地下研究室に比べたら幾分かマシだろ。あっちはマジの化け物が住み着いてるしな。


「廃校でのデスゲームかぁ。船の時もそうだったけど、形はそれっぽいよな」


 敢えて雰囲気を演出しているのだろうか。ま、何でもいいけどな。

 なんて、無駄口を叩いていると、前回のデスゲームと同様に運営らしき黒服が歩み寄ってくるのだった。


音黒ねくろ様。お待ちしておりました」

「おー」

「全員分の参加費は振り込みで頂いております。こちらにテーブルをご用意致しました。プレイヤーの方々は、袋を一つ取って三年一組へ向かってください」


 見ると、校舎の一角に長テーブルが設置されていた。その上には三つの袋が。

 この三つから一つを選んで校内へ入り、三年一組の教室へ向かえということらしい。


【袋の中身はそれぞれ違うんですかね?】


 そうなんじゃないか? わざわざ分けてるくらいだしな。


【なら左のやつにしましょう! きっとSSRです。勘ですが】


 じゃあ敢えて右で。……なんだこれ、意外と重いな。ごつごつしてるし。


【もう、そういうところが一斗いちとくんがモテない理由だと思います】


 う、うるせーな。ほっとけっての。正論なんぞ聞きたくない。


「んー、私はこっちにしようかな」


 と、加子かこが取りたがっていた一番左の袋を白華が手に取った。

 まあ、これでどの道、袋の中身が何だったのか分かるわけか。何でもいいけど。


「まだゲームまで時間はあるな。ま、お前らは指示通りに行動しておけ。私は暇だから秘境のラーメン屋でも探しに行ってくるわ」

「あ、相変わらずのマイペースっぷりっすね……」

「そりゃそーだろ。深夜に食うラーメンはうめぇんだから。あとの事は駄犬と三國が頑張るんだよ。分かってると思うが、ここで負けたら、次の高レートデスゲームまで時間が空く。その間に二人の魂はペンダントに定着して融合するだろう。他の方法で一億を稼ぐのは不可能に近い」


 うぐっ。そう言われるとプレッシャーを感じるんですけどねぇ……

 次も絶対に負けられないデスゲームかぁ。


「んで、三國も母親の医療費が不足する。そっちのタイムリミットは知らないが、目標が遠くなるのは間違いない。既に一〇〇〇万円の参加費は支払い済みだからな。負けたらゼロから再スタートだ」

「そうですね。分かってます」


 いつになく真剣な表情で返事をする白華。その表情は緊張感に満ちていた。

 しかし、次の瞬間には音黒せんせーが破顔して言葉を続ける。


「だが、お前らには圧倒的なアドバンテージがある。ゾンビは死なねぇ。これだけは常に覚えておけ」


 そう言って、不敵な表情を浮かべて嗤った。さすがマッドサイエンティスト。

 音黒せんせーなりに自信を持たせようとしてくれているようだ。ま、せんせーがそう言うなら、俺は気楽にやらせてもらおう。


【そうですね。それに、一斗くんの身体なので、どうなっても私には関係ないですし】


 そこはちょっとでも気にしてくれ。

 男の身体の方が戦いで有利だからと決まった時から、うっすら思っていたことだった。


「ま、なるようにしかならねぇか。頑張りますよ」

「ああ、良く言ったぞ、駄犬丸。三國のことはしっかり守ってやれよ?」

「分かってますって」


 俺たちとは違って白華は生身の人間だからな。それに、無駄な医療費を増やさせるわけにもいかないし。最大限、サポートしてやるつもりだ。


「さてと、そんなもんか。じゃ、あとは勝手にやれ。私は行く」


 ひらひらと片手を振って踵を返す音黒せんせー。やっぱり、いつものマイペースだ。

 まあいい。俺たちも行きますかね。

 白華の方を見ようとして、右腕に抱き着くような力が込められた。


「……どうした、白華?」

「いや、その……、ちょっと緊張? しちゃってさ。あはは。こうしてても、いいかな?」


 少しばかり震えた身体で、白華が抱き着いてきていた。ひょえー、可愛い……!


「ま、まあ、サポートするって決めてたしな。うん。とりあえず、三年一組の教室には向かおうか」

「そ、そうだね!」


 空元気みたいな笑みで答える白華。ま、普通の女の子だもんな。ゾンビになると、その辺は鈍くなるみたいだが。


【役得…… ふふふ】


 加子は相変わらず気楽な様子。お前は逆に、もうちょっと緊張感を持て。俺もだが。

 そんなことを考えながら、昇降口へ。上履きとか持ってないし、土足で良いだろう。

 にしても、深夜の学校ってテンション上がるな。

 この非日常感は嫌いじゃない。まだ一五歳だったら窓ガラス割って回りたい気分だ。

 ……しかし何故か、校内の窓はすべて板で塞がれていたのだが。あと、廊下は蛍光灯のお陰で意外と明るい。


【行き先は三年一組の教室でしたよね…… あ、私は実際の高校でも三年一組なんですよ】


 などと軽い話題を振ってくる加子。

 ふーん、そうなのか。そういえば、俺も高校生の頃は三年一組だったわ。偶然だな。

 どうせだし、白華にも聞いてみよう。


「なあ、白華は高校、何組だった? 俺と加子は一組だったらしいんだけど」

「私? 私は二年D組だけど……」


 まさかのアルファベット。絶対に一致しないじゃねぇか。

 いや、それより気になったのは――


「え、白華って二年生だったのか? てっきり、加子と同じ三年生かと」

【ほほう。まさか、白華ちゃんが後輩属性だったとは】


 ちょっとした衝撃の真実。雰囲気は加子の方が年下っぽいとさえ思ってたのに。


「そっか。加子って年上だったんだ。……今更だけど、敬語とか使った方がいいのかな?」

【いえいえ。いつも通りの方がいいです。もう仲良しですからね!】

「てめ、後輩のくせに生意気なんだよ。コンビニで今週のジャンプと焼きそばパン買ってこい、だってさ」

「あーはいはい。一斗の嘘ね。分かりやす過ぎだから」


 ジト目で俺を睨む白華。

 騙される気配すらなく俺の嘘を見破るとは…… 白華も俺の性格をしっかり理解してきたようだな。一斗検定三級は合格にしておいてやるか。


【私、ジャンプよりマガジン派です】


 クソどうでもいい情報が入ってしまった。心底どうでもいい。


「くっ、ふふ……」

「ん? どうした急に?」

「いやー、なんか緊張していた私がバカみたいに思えてさ。というか、むしろ一斗がバカ。あはは」


 などと言って、けらけら笑い出す白華。ったく、酷ぇなおい。


「でも、ありがと。もう大丈夫。私、本気でデスゲームできそう」

「……さいですか」


 にひひと、どっかの性悪サイエンティストを思わせるような自信たっぷりの笑みを浮かべる白華だった。ま、元気が出たならいいけどさ。


【ふふん、良い感じに好感度が上がっているみたいですね。エッチなイベントに発展したら変わってください】


 こっちも平常運転である。ったく……、もう何でもいいや。んなことより、早く指定の教室に向かうべきか。

 俺たちは廊下に貼ってある案内に従って、階段を上がる。


 窓の塞がれた廊下を進み、暫くが経過した。

 すると、ようやく目的の三年一組教室へ到着。

 ちょっと緊張しながらも、俺は教室の扉をガラガラ開け放つ。きっと転校生ってこんな気分なのだろう。俺はずっと地元だから知らんけど。



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