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三章『ゾンビな日常回』3-6


 ということで、ゲームセンターにて。


「とぉっ! せやぁ!」


 バンバンとリズミカルに墓場から蘇る画面のゾンビを、右手側の銃で撃つ俺。


【ひゃっほーう!】


 とにかく画面に湧いて出たゾンビを、俺の左手側の銃で撃ちまくる加子かこ

 さて。一度、状況を整理しよう。

 まず、ゲーセンのシューティングゲームをしたいと言った俺だったが、こういうのは大抵が二人プレイに設定されている。

 そこで、もちろん白華はっかを誘ったのだが、びっくり系の怖いのは嫌だから、後ろから見ていたいということで断られたのだった。理由が可愛い。


 んで、すると今度は、加子が自分もやりたいとノリノリで言い出した。

 そこで、ふと俺は考えた。

 俺が両手に1Pと2Pの銃を持ち、それぞれが別々の銃の操作をすることも、ペンダントの力で可能なのではないかと。

 まあ、実際にやってみた結果としては……


「おい、ちょ……、んぁー!?」

【わー! 一斗いちとくん邪魔ですー!】


 ぜんっぜん上手くいかねぇな、これ。

 やっぱり身体の主導権はどちらか片方が握るシステムらしく、一方が部分的に動かすというのは無理っぽかった。


 結果的には、連続した主導権の入れ替えみたいな感じになっていたのだと思う。

 あと、ゲームの銃は上下に振ることで弾丸がリロードされる仕様なのだが、右手で銃を振ると、左手でも無意識に振ってしまうなんてこともあった。

 通常の身体で例えるなら、両手にペンを持ち、右で丸を、左で三角を同時に書くような感覚だろうか。


 思い付きでやってみたが、俺と加子の同時プレイは実践的に使えるものではないようだ。

 当然、画面にはGAMEOVERの文字が躍る。ちっ、やってらんねぇな。


「はぁーダメだ。次のゲームするぞ」

【そーですね。あんまり上手くいきませんでしたし】


 銃をゲーム機に戻して、振り返る。

 すると、自販機のアイスをぺろぺろして佇む白華の姿が視界に入ってきた。


「あれ、もういいの?」


 アイスを舐めつつ、首を傾げる白華。


「そうだな。俺も加子もお手上げだ。やっぱ身体の同時操作は無理だな」

「ふーん、そっか」

「アンデッドとして格の違いを見せつけてやるつもりだったんだが」

「一斗だって同じゾンビじゃん。同族嫌悪みたいな感じ?」

「まったく違うな。俺たちは人工的なゾンビであって、墓から蘇るのはリッチという種類に近い。つまり、マッドサイエンティストとネクロマンサーの違いだ」

「へー。じゃあ、音黒せんせーはどっちなの?」

「自称、前者だ。知らんけど」

「一斗も曖昧なんじゃん……」


 呆れ顔で俺を見やる白華だった。

 ま、音黒せんせーについては、俺としても謎が多いからな。もしかしたら黒魔術的な何かを使って、俺を蘇らせた可能性も否定はできない。だから何だというわけじゃないが。


「あ、ねえねえ、私あれやりたい!」


 俺との話に余程興味が無かったのか、嬉々としてゲームを指さす白華。その先には某ダンスゲームの筐体が。

 ちなみに俺はやったことがないものだった。加子はどうだ?


【私も、あのタイプのリズムゲームはやったことないですね】


 そうか。じゃあ、今回は観戦に回るとしよう。


「今度は俺が見てるから、白華はやってみてくれよ」

「そう? じゃあやってくるね! あ、アイスあげるね」

「え? ……え?」


 食べかけアイスを押し付けられる俺。

 そんな俺を放置して、白華はゲーム機を操作してから、上下左右のアイコンがある床パネルを踏み踏み。

 曲が流れてからはリズムよく踊って踊ってレボリューション。

 上手いものだなぁと感心しつつ、白華が身体を動かすと大きな胸とか短めスカートとかが揺れて視線が釘付けパイルバンカー。毎度のことながら。


【あ、一斗くん、アイス溶けてますよ?】


 加子に言われて手元を見ると、アイスからどろっと液体が溢れそうになっていた。

 驚いて咄嗟に口に含むが……、貰ったものだし問題ないよね? 甘い。もう食べちゃったし、こうなったら堪能させてもらおう。うん、仕方ないね。


【へんたい……】


 お前に言われるのだけは納得いかねぇが、ここは甘んじて受け入れよう。何故なら正論だから。

 そんな風に開き直って、暫くアイスに集中することに。間接キスはソーダの味がした。


「ふーっ。一斗、どうだった?」


 やがて、やり切った感を出した白華が、服の胸元をパタパタしながら振り返る。


「おう、めっちゃ美味かったぞ」

【一斗くん、字が違います。アイスじゃなくてダンスの感想です】


 しまった。そっちか。

 でもまあ、発音は同じだから大丈夫だろう。きっとばれない。


「ふふ、ありがと。今度は一斗も一緒にやるー?」

「あー、そうだな。じゃあ、お言葉に甘えて……」


 俺も一緒にゲームをさせてもらおう。と、そう言おうとしたのだが、スマホからSNSメッセージの通知を知らせる振動が。そのままポケットから出す。

 その内容に目を通して、ついつい顔をしかめる俺。ちなみに白華もグループに入っているので、同じメッセージを見ることが出来る。


「どうしたの?」

「スマホ、見てみれば分かるよ。音黒せんせーからだ」


 首を傾げる白華に、俺は憂鬱さを隠さずに告げた。

 そして、同じくスマホを見た白華がげんなり呟いた。


「これまた、急だね」

「まったくだな。はぁ……」


 遅かれ早かれだと思ってはいたが、もう少し余裕を持ってほしいものだ。

 白華と相談し、この日は一時解散ということに。

 その理由は……、まぁ直ぐに分かるか。


   ◇


 さらに翌日(?)のこと。まだ深夜だけどな。

 この日は月曜日。

 普段ならば、鬱気分で元気に通学する週の始まりなのだが、この日はそうもいかない。


「お前ら、準備は良いな?」


 音黒せんせーが車に荷物を乗せながら言った。

 そう、この日がついに到来したのだ。

 高レートデスゲーム、その当日が。


 今日は月曜日と言ったが、もっと正確に言うならばまだ日付が変わったばかりのド深夜。

 つまり、白華と一緒に遊びに行った後ということだ。

 まったく、いつも事が急なんだよなぁ……

 今夜これから、俺たちの運命を決めるデスゲームが始まる……らしい。あんまり実感沸かないけど。


「俺は大丈夫です。ゾンビに準備とか不要なんで」

【準備は不要でも、身支度は必要ですからね。ファブリーズしましたか?】


 そっちも大丈夫だ。

 研究室を出る前に、白華が執拗にファブってくれたからな。汚物を見る様な目で。

 余程、あのベッド下での出来事が嫌だったのだろう。


「私もだいじょーぶでーす!」


 白華も元気に手を上げる。制服を着ているのは、一応平日だからということだろう。

 遊びに行ったあの後、しっかり仮眠と休息は取れた様子だった。

 でも、これからデスゲームに挑む人間のテンションじゃなくね? 日帰り旅行くらいのテンションに見えなくもない。まあ、変に緊張してるよりはいいか。

 それはそれとして、


「にしても、教授って簡単に有給取れるんですね。急に月曜休めるなんて」

「んなわけねーだろ」

「あはは、そうっすよね。…………え?」

「私は優秀だからな。多少のワガママは通るんだよ。マッドサイエンティストだしな」


 小さい胸を張ってドヤる音黒せんせー。

 よく分からないが、横暴が許される特権でもあるのだろう。なら、俺が気にすることじゃないな。それに、休講になれば多くの学生は喜ぶ。なら別にいいだろう。


「んじゃ、改めて。お前ら二人……、いや三人はこれから高レートデスゲームに挑んでもらう。詳しい内容は会場で説明されるはずだ。あとは上手いことやって、賞金を攫ってこい。以上だ」


 と、これ以上ないくらい簡潔な説明をされる俺と白華。

 これだけ内容が無いなら説明は不要だったんじゃねぇか、と思わなくもない。まあ、音黒せんせーなりの気合を入れろというメッセージなのだろう。知らんけど。


「頑張ろーね、一斗!」


 隣で白華がぐっと拳を握る。やる気十分である。


「そうだな。アンデッドの俺が白華を守らないといけないわけだし」

「頼りにしてるからねー!」


 ちょいちょいと俺の肩を小突いてくる白華。可愛いのでやめてください。

 俺がまだ高校生だったら間違いなく勘違いして告白していた自信がある。現実の厳しさを知っていて良かったぜ。


【やれやれですね。もっと素直な心を持っていれば、女の子の意思をしっかり受け取れていたかもしれないのに…… ま、一斗くんには無理な話ですけど】


 おいこら。なんかバカにされてるのだけは伝わってるからな。ったく……


「うしっ、車に乗れ。会場に行くぞ」

【はーい! 行きましょう、一斗くん】


 落ち着いた加子の声が、俺の背中を押す。

 きっと、次のデスゲームが終わった頃には、俺たちの魂は別々の器を得られていることだろう。

 この数日、騒々しい日々が続いたが、そう悪い気分でもなかったな。……なんて、感傷に浸るのは無事にデスゲームが終わってからでいいか。別に死ぬわけじゃないし。


「一斗! 早くー!」


 白華が車の後部座席から俺に声を掛けた。メッシュ入りの前髪が風に揺れる。

 さてと、それじゃ……、


「行くか」


 小さく呟き、俺は車に乗り込んだ。

 いざ、デスゲームへ。



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