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幻想の魔導剣士

 アンクは力を一部解放する。

 呪いの影響を最小限に抑える為に人間態になっていたが、この場では解呪ができるマスター認定された俺もいるし何より出し惜しみする理由もないだろう。

 手足がヒポグリフォ形態の物に近くなり背中から翼が展開される。

 その瞳は紅い輝きを放ち目線はただ一人の敵を捉えている。



「いいねいいね……! 面白いよキミ! 神獣って言うんだからこうでなくっちゃね。ボクもキミに敬意を表して全力を……」


 クラウスは剣を構え魔力を溜めだす。

 その隙を見逃さなかったのかアンクは不意打ち気味に爪を立てて喉を掻ききろうとする。

 そして、その爪が見事に首に命中……かと思いきや首が切れたクラウスは幻のように消え去る。

 次の瞬間、アンクの後ろから剣を突き立てるクラウスが何もない場所から飛び出す。

 アンクは咄嗟に反応して剣を爪で捌いて体勢を立て直す。



「酷いなー、そっちの力を解放した時にこっちは手出ししなかったのに逆の状況だと不意打ちを噛ますなんて……騎士道精神って奴はないのかな?」


「……戦いは常に死と隣り合わせです。それに私は騎士などではありません。目的を遂行するために如何なる手段も使うのが私です。……それに貴方は私が不意を突くことを前提にして予め幻影魔法を使ったのでしょう? 一時的とはいえ私の心眼を誤魔化すとは大したものです」


「あはは……そうだね、ボクはあらゆる状況を対処できるように予め幾つもの戦闘パターンを想定しちゃう頭でっかちだからさ……巷では天才だとか言われてるけどこう見えて結構努力家なんだぜ?」



 ……全く自虐になってない自虐風自慢を戦闘中にしてきやがる。

 だが戦闘センスや魔法はやはり凡人のそれではない。

 魔法と剣を使いこなし神獣であるアンクと互角に渡り合う実力……戦闘面だけなら勇者に適正があると言える存在だろう。



「お喋りはこの辺にしようか……それじゃあ今度こそ本気で行かせてもらうよ……!!」


 魔法を唱えずに何かの魔法を展開し出す。

 無言魔法までできるのか、あれでは魔法の正体が掴めないぞ。

 クラウスは魔法の影響かその場から姿を眩ます。

 アンクは咄嗟にクラウスがいた場所に飛びかかり回し蹴りをするが虚空を裂くだけで何もおきない。


「……!!」


 アンクは死角から飛び出す剣の一撃を心眼で読み取ったのか紙一重に回避を行う。

 だが飛び出した剣は持ち主となる者が存在してなかった、まるで剣自体がその場から現れて向かったみたいだった。

 その攻撃に夢中になっているとさらに剣が二つ、三つとアンクを貫こうと虚空から姿を表す。

 剣を受け止めたり弾こうとするが剣はするりと抜けて再び闇に隠れ出す。

 避けるしかないアンクはその攻撃を辛うじて避けて行くがその内の一本が右翼を貫く。



「あはは……!! 神獣すら貫くボクの剣技は如何だったかね……!? キミの心眼もボクには通用しない……これこそがボクの究極の戦術……幻影剣舞(ファントムナイツ)さ……!!」


「ぐはっ!? ふ、不覚……!!」


「アンク!!」



 虚空から剣を突き立てるクラウスの姿が現れる。

 アンクは貫かれた右翼を剣から切り離してその場から離れる。

 クラウスは不敵に微笑み再び魔法を展開し出す。



幻影剣舞(ファントムナイツ)……奴の攻撃の正体が掴めない……! 剣を虚空から召喚する魔法なのか……!?」


「そんな陳腐な発想じゃボクの幻影剣舞(ファントムナイツ)は永遠に突破できないよ。さぁ、もう一撃さ……!」



 クラウスは再び闇に姿を隠す。

 このままじゃアンクが一方的にやられてしまう。

 俺が奴の攻撃の正体を看破しないと……!

 考えろ……よく目を凝らして……心眼なんてものが無くても……!

 そして無慈悲にも攻撃は再開される。

 アンクの周りには再び剣が虚空から飛び出しアンクを貫こうと飛び出してくる。

 アンクは防戦一方だが同じ手は食らわないと先ほどよりも周囲に注意を払い出現する剣を素早く避けて行く。

 だがあのままだといづれ先ほどど同じ結果になってしまう。

 だから俺が奴の攻撃の正体を探るんだ。


 観察してる中でそれらしい法則が段々わかってくる。

 剣はアンクの周りをぐるりと一周するように時計回りに出現している。

 アンクもそれに気づいたのか次に出る位置を予測して回避する。

 が、その法則もすぐに乱れる。

 剣が出現するタイミングがずれ始めたのだ。

 半時計周りになったかと思えばまた時計回りに戻り、さらにしばらく出現がしなくなったかと思えば今度は一方から連続で剣が出現してくる。

 法則が……掴めない……どうすれば……。

 アンクも体力はあるだろうがいづれ限界が来てしまう、俺は頭を抱える。


 ふと、ある発想を思い付く。

 今まで法則があるものだと思ってばかりいたが、その考えを逆転させてみる。

「法則なんて初めから存在していない」と…………。

 法則性がないということは……!

 そう考えると幻影剣舞(ファントムナイツ)の全容がどんどんと解き明かされてくる。

 そして俺は一つの作戦を思い付く。

 アンクにテレパシーを送る。

 作戦の内容を伝える。

 返事はすぐに来た、“マスターの作戦ならば私は従います”と。

 一種の賭け……だが決まれば決定的な一撃が決まるだろう。

 俺達は作戦を実行する。





「アンク……!! 前だ!! 」


「……!!」



 アンクが正面に来ると思った攻撃を避ける為に横に大きく右に避ける。

 そして、その死角から剣がアンクを貫こうと飛び出す。


「ハッ……!!」


 大きく避けたように見えたアンクは自身の死角部分となる場所を弧を描くように回し蹴りをする。

 そして、その蹴りが剣に当たる。

 剣と共に剣を持っていた右腕が爪によって引き裂かれる。


「ぐはぁっ……!! ボ、ボクの幻影剣舞(ファントムナイツ)が……!!」


 闇から右腕に重傷を負ったクラウスが現れる。

 そしてクラウスはその場に膝を突く。



「……あんたの幻影剣舞(ファントムナイツ)の正体は心眼を誤魔化せるほどの幻影魔法を使ったトリックだろう? 幻影の剣で周りを囲むように相手がギリギリのタイミングで避けられるように攻撃させて、本物の剣を持つ自分が相手の隙に死角から一撃を入れる戦術なんだろ。予め法則性のある攻撃だと思わせて対応させて頃合いを見計らってタイミングをズラして隙を作らせるのは上手い作戦だったが……先に幻影魔法を使う所を見せたのが悪手だったな。おかげで攻撃の正体を見抜けた。能力名や異名で性質がある程度予測できたのもある。今度からは名前もよく考えてみたらどうだ?」


「くっ……! ボクの究極の戦術が……! これではあの御方に……」


「……それに疲れきった相手に死角から一撃を入れるなんてそれこそ騎士道精神って奴に反するんじゃないか? まぁ、図書館の管理を勤める魔法使いだろうし本当は騎士道とかはどうでも良さそうだがな……」



少し挑発気味に煽るとクラウスはピクリとして一瞬動きが止まる。

そしてその後静かに怒りながらこちらを睨み付けてくる。



「……どうでも良いだと? おい……ボクに騎士道精神がないと……騎士としての資格がないと……そう言ったのか!? このボクがどれほど……騎士の名家の長男として生まれて……苦悩したか……!! 貴様はそのことをわかってて口にしているのか……!!?」



 なんだなんだ……何か逆鱗に触れたのか急にブチギレたぞ。

 キレ出したクラウスは自分語りを続ける。


「頭にカビの生えた老害共は魔法の偉大さを知らない……! 今でこそ魔法を受け入れてる体だが、偉大さや高尚さも知らずにただの便利な道具ぐらいにしか思っちゃいない! 父上はその筆頭だ……頭が固くて己の腕っぷしとバカみたいな図体のデカさしか信じちゃいない! あの男はボクが魔法に一番適正があったというだけで露骨に弟たちと比べて差別しやがった……! 魔法なんて物に頼るなど騎士の恥さらしだと……見返してやろうと努力した今じゃ息子のボクに媚びへつらう父親のプライドもへったくれもない憐れな男さ。だが奴は……奴らは昔から根は何も変わっちゃいない。新しい物を受け入れずに拒否し、それらが広まれば大した理解もせずに拒否した事実などとうに忘れて恩恵だけを得ようとする浅ましさ……ボクはそんな奴らを正さねばならないんだ……! あぁ、主よ……ボクに罪深い奴らに与える裁きの鉄槌をお貸しください」


 何だか複雑な家庭事情があるみたいだが……。

 その歪んだ家庭環境の最中で勇者聖教なんかに感化されてどっぷり浸かってしまったみたいだな。

 アンクは崩れ落ちたクラウスを捕らえる準備をし出す。



「……マスター、彼を拘束してよろしいですか?」


「あぁ、頼むよ。聞きたいことは山ほどあるしな……」


「かしこまりました……では拘束を…………っ!?」



 アンクはロープで縛ろうとするがクラウスの姿が霧のように散ってしまう。

 辺りを見渡すが見当たらない、いつの間に逃げたのか……!?

 奴の幻影魔法は強力だ……周囲の確認を…………。


 そう思った矢先、俺は口を何者かに抑えられる。

 抵抗しようとしたがすぐに喉元に剣が突き付けられる。

 クラウスだ……あの自分語りも油断させる為の作戦だったのか!?



「言っただろう? ボクは予め戦闘パターンを想定してるって……最後まで油断しちゃいけないよ。こうすればそこの神獣ちゃんも手を出せないよね?」


「ぐっ……! 卑怯な……!」


「お、俺のことは構わない! こいつを仕留めてくれ!」 


「ふふ……形勢逆転だね。キミを仕留めればあの御方は喜ぶしね。悪いけどこの場で死んでもらうよ……」



 剣を喉元へさらに近づける。

 それを見たアンクはクラウスに向かって真っ直ぐ飛び込んでくる。

 その瞬間、クラウスは俺を離して向かってくるアンクの額に手を当てる。

 アンクの額に魔方陣が展開される。

 その後、アンクはうめき声を挙げて苦しみ始める。

 クラウスは魔方陣から何か力のような物を吸収する。

 そして魔方陣が収縮して消滅するとクラウスは空を飛び上がる。



「あははは……! これで計画の障害はなくなった! “心眼”の奇跡は厄介だからね……ボクの物にさせてもらったよ! キミ達にもう用はないさ……計画はもう最終段階だ……!! キミ達にできることは……何もない……!!」


 クラウスはそう言うと空を飛び去って行った。

 クソッ……! 奴の言ったことが本当ならアンクから“心眼”の奇跡が奪われてしまった……。

 アンクはまだ眠りについてる……一体どうすればいいんだ。

 クラウスの言う“計画”の話も聞き捨てならない。

 だが、今の俺達にそんな大きな陰謀を阻止できるのか……不安を感じながらその日の夕暮れを迎えていた。










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