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クラウスという男

「ど、どういうことだアンク。彼……つまりさっきのクラウスって人に何か怪しい点があったのか?」


「……別に行動から見抜いたのではありません。私には“心眼”というものがあります。簡単に言えば魂の状態を見る“奇跡”の一種です。ある程度の魂の輝きや大きさを見て、その人物がどのような思考や感情を持っているのか分かる能力です。さっきの彼は……話しかける前から気づくほどの不気味な輝きが放っていました。カムイさんのことをわかってて話しかけたのも何かしらの目的があるものだと思われます」



 “心眼”……奇跡の一種か。

 リアンは持ってはなかった物だな。

 神獣であるアンクが持っててもおかしくない能力だと思うが……本当に彼は黒い目的があるのか……。



「クラウス……本当にそうなら何故俺に話しかけたんだ……。アンク、奴の腹の内の目的まではわからなかったのか?」


「申し訳ありません、マスター。彼が何かしらの策略があって近づいたのは魂の状態でわかったのですが、何せほんの一時の会話で相手の思考を読むことができませんでした……」


「いや、彼が俺に目的があって近づいた……それも良からぬ目的でって言う情報が掴めただけでも十分な収穫だよ」



 アンクから言われてクラウスという男の行動を振り返ってみる。

 確か俺達が勇者に関する本を探してた時に彼は横から来たんだっけ。

 タイミングが確かに臭かったな……ちょうど勇者の情報を調べようとしてた時だったし。

 この本も彼が選んで渡した物だ……もし彼に策略があるとすればこの本だろう。

 あのタイミングに俺達の邪魔をしようとする行動は無駄な情報の提供と不都合な情報を読ませないことだ。

 なるべく時間を浪費させて不都合な情報は遠ざけて処分する……それがベストだろう。

 そして、そのような行動をとると仮定するなら彼の正体は……勇者聖教……及びそれに関係する人物である可能性が高くなってくる。


 そう仮定すると辻褄が合ってくる。

 名前を知ってたのもエリザベスや仮面の女から通して聞いてる可能性は高いし、何より俺の名前を出したのに表向きは勇者ライアの功績になってるはずなのにライアの名前は彼から一言も出なかった。

 それに風の噂で伝わるにしては早すぎる……あれから一週間を過ぎたぐらいなのに一つの街の事件の脇役の名前が遥か遠く離れた要塞都市に届くのは不自然である。

 魔法などを通じてギルド関係や憲兵団に伝わるのは簡単だろうが……そうだとしても図書館の副管理人がそれらの情報を手にするとは考えにくい。

 これらのことから考えると勇者聖教という団体から俺達の情報が漏れた可能性が非常に高くなる。




「……私はやはりあの本棚の本を片っ端から読むべきだと思います。彼やその関係者に情報が書かれた著書や資料が処分されていたとしても……残った物からほんの僅かでも繋がる情報があるなら私はやりたいです。融通が効かなくても、曲がったことができなくてもこれが私のやり方です。マスター、よろしくでしょうか?」


「……あぁ、本についてはアンクに任せるよ。俺は……クラウスのことを追ってみるよ。怪しい要素があるなら疑いは晴れるまで追うべきだと思う」


「……! マスター、それは大変危険でございます! それなら私が付いて……!」


「大丈夫さ。調査や潜入とか裏工作とかは得意だからさ。それに俺も何か一つぐらい仕事したいしな。ダメな時は……呼んだら助けにこれる?」


「マスター……わかりました。マスターの魂を常に“心眼”で捉えておきます。危機の際にはすぐに駆けつけますがどうか無茶をなさらないように……」


「わかった……お互いに頑張ろうな」






 アンクと別れてから俺はクラウスについての調査をし出す。

 街の人や酒場、ギルドに聞き込みをかけてある程度の人物像がわかってくる。


 本名クラウス、年齢19才。

 名のある騎士の名家の長男でありながらセブナット魔術学院を当時最年少で主席で卒業した将来有望とされる天才魔術師。

 剣の腕も最高レベルであり『幻想の魔導剣士』の異名を持つ男。

 非の打ち所のない完璧超人である彼であるが……近年は怪しい団体との黒い噂も絶えないという。

 中でも人攫いに加担してライバルや邪魔者を葬ってきただとか……今の地位もそれによって手にしたものであるだとか……。

 だが表向きの外面はそんな素振りは一切見せない為にこれらの噂は彼を貶める為のデマだという噂もある……。


 うーん……わかったことだけだと曖昧な噂レベルのものしかないぞ。

 人攫いの件はちょっと引っ掛かるけど所詮噂だしな。

 それにしても街は人混みで一杯だな……。

 街中で調査を進めるが有益な手掛かりは得られずにいた。




「…………っ!!」


「おっとすみません……」



 考え事をしていながら歩いてると通行人とぶつかってしまった。

 咄嗟のことだったので軽く謝るぐらいしかできずに通行人はそそくさとその場を去る。

 俺はぶつかった部分を軽く払うと何か違和感を覚える。

 何か……なくなってるような。



「…………あっ!?」


 違和感の正体がわかった。

 何とポーチに入れておいたアスタトの魂がなくなってるのだ。

 もしかしてさっきの通行人は……。


「だ、誰かそこのスリを捕まえてください!」


 スリの人物は既に人混みに紛れて見えない。

 クソッ……あれはそう簡単に扱っていいものじゃないのに……。

 幼少の頃にスリをしてたツケが回ってきたのか……。

 だが、今はそんなことよりも奴を追わなくちゃいけない。


 人混みを掻き分けて進む最中、その道中で見知った顔と会う。

 アンクだ、もしかして俺を“心眼”とやらで見て危機だと思って駆けつけて来たのか。



「マスター! 敵襲ですか!? お怪我はありませんか!?」


「怪我はない……だけど俺の所持品を引ったくられてしまった。アンク、お前の心眼で探し出せないか!?」


「かしこまりました……“心眼”解放……!!」



 アンクの目がカッと光り出す。

 人混みの中でもその位置を特定できるのだろうか。



「見えました! 西南西の方角にそれらしき者が高速で移動しております! 向かいますか!?」


「あぁ、向かおう!!」



 アンクの心眼を頼りに街を駆ける。

 そして街の裏路地まで入り、逃げたスリの行方を追う。

 裏路地は一目に付きにくく暗い。

 浮浪者や柄の悪そうな連中がチラホラと見える。

 そしてついにスリの潜むアジトを発見する。



「あの中に奴の仲間がいるかもな……」


「すぐにでも突撃すべきでしょうか」


「確かにすぐにでも向かいたいが……相手の戦力が見えない状況で飛び込むのは危険だ。もう少し様子を……」



 奪い返す計画を立ててる最中にこちらに向かってくる足音が聞こえてくる。

 俺達は咄嗟に身を隠し、足音の正体を探る。

 そろりと物陰からアジトの前を通る人影を見る。

 あれは…………!!




「……おや? カムイくんではないですか。図書館での調べものは終えましたか? ここは少々治安の悪い所ですし別の場所へ移動したほうがよろしいですよ?」


 物陰の俺達を見抜いた人物……それはクラウスだった。

 図書館の副管理人が何故こんな場所にいるかという疑問は先ほど調査した噂によって解決する。

 あのスリとクラウスには何か関係があるはずだと、そう確信した

 クラウスは飄々とした態度でこちらに話を続ける。



「あはは……ここはボクの友人の家でね。あまり立ち寄って欲しくないんだ。それにカムイくんはボクのことを調べてるみたいだけど……もしかして何か聞きたいことでもあるのかい? ボクが答えられることなら答えるよ」


 白々しい……やはり噂は本当みたいだったな。

 俺はクラウスに応じて物陰から姿を表す。



「クラウス、一体何が目的なんだ。少なくとも俺達の邪魔をしようって魂胆はわかっているぞ」


「ふーん……それはお隣の女の子の力だね。“心眼”って奴かな? だけどそれだけじゃボク等の計画の全容は掴めない、そうだろ?」



 何だコイツの態度は……この場を切り抜ける自信があるというのか。

 この場で奴の身を拘束して情報を吐かせば有益な情報が得られるはずだ。

 臨戦態勢をとりながら少しずつ会話を交えて近づく。



「……そうだな、確かに今の時点では掴めない。だが、お前を捕らえれば計画とやらも全容が把握できる。覚悟するんだな、何が目的でアスタトの魂を奪ったのかは知らんが……後ろの家にいるお仲間に助けて貰わなくていいのか?」


「キミ達ぐらいなら一人でも相手できるさ……ボクのことを調べたのなら異名ぐらい知ってるだろう? 『幻想の魔導剣士』のボクがキミ達を軽く捌いてみせよう」


「……マスター、ここは私にやらせてください。マスターは後ろで待機をお願いします。こう舐められては神獣としてのプライドにキズがつきます。大丈夫です、一瞬で片付けてやりましょう」



 俺は少し下がってアンクを見守る。

 アンクは構えて今にも飛びかかりそうだ。

 クラウスもいつでも来いと言わんばかりに不敵に微笑む。

 そしてアンクが空中を高速で飛び、足を鳥のような爪を持つ形状に変化させて鋭い蹴りを入れる。

 クラウスはその動きを捉えて剣でさっと防ぐ。



「……ただの人間にしては中々やりますね」


「あはは! 神獣と名乗るからにはこれくらいの力はなくちゃね! 勝負はこれからさ……!」



 アンクとクラウスの決戦が始まった。








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