プロローグ
掲載量は少ないですが、早めのペースで更新出来たらと思います。
現世において、人間が魂と肉体とをつなぐ架け橋を失った時、肉体は現世に残され魂は別の世界である、いわゆる『あの世』という場所へ向かう。あの世は、よく知られているように2種類の場所が存在する。天国と地獄だ。そのどちらかへ行くためには、その境目で魂の価値をはかり、それ相応の場所へと送る必要がある。そして今、うぃんうぃん音を立てながら、延々とベルトコンベアで流れ続ける魂を、天国行きと地獄行きの2つの穴に仕分けるバイトに勤しむ地獄の若い鬼娘が2人いた。若いと言っても年齢はゆうに500を超えている。だが成長的な面から見ればその年齢は現世での16~18歳といったところだ。二人共ジャージに軍手、まったくもって華のない光景である。
「はぁー、ほんと嫌になるわね」
「冥ちゃんそんなこと言わないでよ、余計辛くなってきたじゃない」
彼女らは流れてくる魂の色から、天国か地獄に行くかを判別し穴に放り込んでいく。白く輝きを帯びた魂は天国行きの穴へ、黒く霞を帯びた魂は地獄行きの穴となる。白と黒の魂にもそれぞれ差があり、生前でした善い行いの積み重ね、いわゆる『徳』の質によって輝きや霞は一層増す。白か黒かは一目瞭然なので小学生でもできる作業だ。だがその簡単さとは裏腹に、かなり責任の重い仕事と言える。彼女らの手によって魂の今後の運命を左右することができるのだ。よって時給も高い。
「うっわ、眩しいわねー。ギラギラ光って鬱陶しいってーの、こいついっそ地獄送りにしてやろうかしら」
冥が白い魂を掴んで細い目で睨む。
「冗談でもやめてよね、そんなことバレたら私達どうなることやら」
「わかってるわよ」
持っていた魂を天国行きの穴へと放り投げ、続けて冥が喋り出す。
「しっかし、こんなのいちいち鬼にやらせんなって話よね、機械化しなさいよ機械化」
「そしたら私達バイトなくなっちゃうよ?」
「うっ・・・、それもそうね」
呆れたようにもう一人の鬼が続ける。
「冥ちゃんて結構アホだよね・・・」
「うっさいわね!ちょっと気づかなかっただけじゃない!そもそも死依がこんなバイトみつけてこなきゃよかったのよ!」
気づけなかった恥ずかしさに、冥は顔を赤らめながら文句を言った。
「なんで私のせい・・・?ていうか冥ちゃんもノリノリだったじゃない」
「そんな昔のことは忘れたわ!」
プイっと顔そむける。まるで子供のそれである。いつもながらのことに少し気疲れした死依は、会話を止め作業に集中しようとする。
「あっ、あの魂麻酔解けてるわよ!」
冥が向こう側に続くベルトコンベアに浮遊する白い魂を指差す。魂はこの選別の間に来る前、勝手に移動しないように、対魂用の麻酔を空気中に充満させた場所で10分ほど放置される。大抵の魂はそこで動かなくなるのだが、極稀に例外が存在し、このように移動中に麻酔が解けてしまい、ベルトコンベアの列から外れてしまうのだ。
「ほんとだ、一旦停めるね!」
死依はベルトコンベアが作動するレバーを逆側に倒し、動作を停止させる。冥は、この例外のために常備されている『魂叩き』を近くのロッカーから取り出す。形状はハエ叩きそのものである。魂を気絶させるべく冥は移動する魂へと走りだす。
「おりゃあああああああああああッッ!!!」
男勝りなその叫びとともに、右手に掴んだ魂叩きを思いっきり振り下ろす。魂はその攻撃から逃れるかのように素早く横に避けた。冥はスカッという音が聞こえてきそうな見事な空振りを見せる。全体重を乗せた渾身の一撃だったため、勢いあまり激しく転ぶ。
「あちゃー・・・」
死依は頭を片手で抑え、ため息をつく。冥の元まで歩み寄り手を差し伸べた。
「大丈夫?冥ちゃん」
そんな死依の手は取らず、自力で冥が立ち上がる。
「あんにゃろ~~っっ、ぶっ殺してやる!!」
「もう死んでるよ??」
死依の見事なツッコミを流し、周りをゆらゆらと浮遊する魂に向かって突撃する。またも空振り。素早く方向転換し、再び空振り、冥はその後も2、3分格闘したが、意外と素早い魂は仕留められずにいた。
「やばいよ冥ちゃん、このままだと選別できなくて今日のノルマ達成できない!」
「えっ?嫌っ!残業だけは嫌ぁあああ!」
ノルマを達成できないとその日は通常営業に休憩なしの8時間が加算される。さらに時給は通常時と同じという、ブラックな掟がある。冥は一度この残業をしたことがあるが、もはやトラウマとなっている。冥は魂叩きを捨て、拳を握りしめる。
「こんのっ、くたばりなさいよ死に損ないがーーっ!!」
全力で踏み込み、肩を入れた美しいパンチを浮遊する魂にぶち込んだ。拳はクリーンヒット、その勢いを受け、魂はベルトコンベアの進行方向へぶっ飛んでいった。もちろんその先にあるのは、天国と地獄を仕分ける穴である。冥にぶん殴られた白く輝く魂は地獄の穴へと向かっていた。
「やばっ!」
気づいた冥は口に手を当て、顔を青ざめさせる。死依は冥がリアクションしている間に、行動を起こしていた。血相を変えるどころか、いつもの死依からは想像がつかないような冷たい表情をし、全速力で飛んで行く魂を追いかける。普通、魂が飛んで行き、その先が地獄であるとわかった時、大多数の人間は諦めるだろう。だが死依は鬼である。鬼の瞬発力と身体能力を持ってすれば追いかけて魂をつかむのは決して不可能なことではない。それを死依は一瞬で判断した。その常軌を逸した速さで、穴に入るすぐ寸前で見事魂に追いついた。手を伸ばし、もう穴に少し入り込んでいる魂を掴むがため、勢い良く腕を穴に突っ込んだ。冥は死依の行動に驚き、少しの静寂の後、口を開く。
「ど、どう?」
死依はゆっくりと穴から腕を抜いていく。その手の先には、何もなかった。
「逃がしちゃった」
死依はもう、とびっきりの笑顔だった。
「冥ちゃん一人のせいだから、残業頑張ってね!」
死依はすぐさま責任を押し付ける。間違っているわけではないが、さすが鬼である。
「え、冗談よね?一緒にざん...」
「頑張ってね?」
「はい......」
選別の間に冥の鳴き声が響いた。
閲覧していただきありがとうございました。




