猿と鳥の初対面
ここは、『バルムンク』の作戦会議をする為に設けられた、個室である。
ここに集まった理由は、『深淵の樹海』のレアエネミーの討伐だけではなく、あの時イレギュラーが発生した事で燐が出来なかった二層もクリアしてしまおうという話しになり、その打ち合わせをするためである。
そのため、その会議という名目の顔合わせである。
そして、そこで互いに火花を散らす猿と鳥がいた。
「まさか、こんな早く会えるとは思わなかったわ!奏の宿敵マナ!!」
「ふーん、カナカナちゃん程度がウチを宿敵ってそれマジで言ってんの?空を飛べるせいで頭まで飛んじゃった?ウチの兄ぃの弟子なら口ではなく実力で証明してよ。カナカナちゃんはまるでピーチクパーチク囀る鳥みたいで可愛いでちゅねー」
真那華はこれでもかと奏を煽り散らかす。
「くっ、これが奏のファンまで虜にしたというマナの煽り・・・・・・これでこそ奏の宿敵にふさわしいよね。でも、残念ながら今回は奏の枠で配信するからマナはゲストだねー。まさか、マナのゲストじゃなくてマナをゲストに呼べるなんて、管理局公認の配信者で良かったー」
奏は管理局公認の配信者であるため、管理局の許可が必要な配信の場合、許可が出やすいのである。
そして、この配信は三層攻略の募集をするためのイメージ改善として行われる。
「それはもう散々聞いたから知ってるしー。そう何度も言われなくてもウチは憶えられるから、三歩歩くと忘れるあなたとは頭の出来からして違うんだよねー。鳥頭で可愛そー」
「へー、奏の枠でやる事には触れないという事は本当は枠取る許可取れなかったから、悔しいんだ!悔しいんだ!!」
「別に悔しくないし、カナカナちゃんの方こそウチを呼んだら、リスナー達に売名行為と思われないかという心配をした方が良いんじゃないかなー?」
「別に売名行為するほどファンには困ってないし、むしろそれの心配をするのはマナの方じゃないの?」
真那華と奏は出会った瞬間から煽り合いをしている。
「この様子なら、掴みはバッチリだな」
「「どこが!?」」
真那華と奏の様子を見て安心する承に黒鉄姉妹はツッコミを入れる。
「真那華ならこうなる事分かってたよね!」
「奏ちゃんもマナちゃんに会ったらこうなる事は分かってた事だと思うけど」
潤は敬語を忘れる程になっており、燐は奏が真那華に対抗心を燃やしてるのは知っていたのでこうなる事は目に見えていた。
「むしろ、今日はこの対面も目的の一つだったからな。本番にこれをされるよりはマシだろ」
承としては真那華と奏を会わせてお互い言いたい事を全て言わせて本番を迎えた方が変なトラブルが少なく済みそうなので、ここで対面させる事にした。
「さて、アイツらが煽り合ってる間に打ち合わせをしよう」
「え?あれ放置で良いんですか?」
潤は真那華と奏を放って置いて大丈夫なのか疑問だった。
「そうだね、殴り合いに発展しそうなら止めるんだけど、アレはただじゃれあってるだけみたいな感じだから止めなくても良いとは思うよ。だけど、彼女達も打ち合わせには参加させないのかい?」
「お互い気が済んだらこっちに来るだろ。だから、どちらかと言うとお互い知ってる事の情報交換をして、重要なところは二人の煽り合いが終わったら、話しあえばいい」
承は重要な話しをする前にお互いの情報交換を先にしてしまおうと判断した。
「僕はあの二人が心配だから見守ってるよ」
潤は二人の話にはついていけないことを判断し、真那華と奏を見守る事にした。
「確かにこればっかりは潤ちゃんでは分からないかな。僕から聞きたい事は二層についてだろ?」
「いや、それはあんたを助けるついでに下見をしたから問題ない。俺が聞きたいのは、二層のボス『ツインウッドゴーレム』についてだ」
承は燐を助けた時に二層についてはある程度は把握済みのため、欲しいのはボスの情報だった。
「それに関しては僕より、実際に戦ったことのある佳奈ちゃんの方が分かると思うんだけど、聞いてはいるからね。討伐するのに多くの犠牲を払ったというのは有名な話だ。その『ツインウッドゴーレム』は片方倒してももう片方が生きてる限りしばらくすると何度でも起き上がる。それと同時に一層のボス同様に自動回復を持っていてね。そして、コイツらの厄介なところは片方が遠距離特化、もう片方が近距離特化になっていて、遠距離を狙えば近距離が邪魔して来るし、その逆もまた然り、一層の『ウォーリアウッドゴーレム』がまだ可愛く思えるほどに厄介な相手だと佳奈ちゃんは言ってたね。僕は実際に戦ったことはないからそれくらいしか知らないけどね」
燐も実際に戦った事はないので詳しくは分からないこともあるようだった。
「ちなみに二層のボスがレアエネミーになったという話しはあるか?」
「一層で出現するっていう『ウィザードウッドゴーレム』だっけ?それに関しては、君から聞くまで知らなかったんだ。それさえ知らない僕が知るわけがないと思うけど一層で出現するなら二層で出現してもおかしくはないかもね。でも、少なくとも僕はそんな話し聞いた事ないね」
燐は『深淵の樹海』の各層のボスがレアエネミーに変化するというのは分からなかった。
「一層の条件は『モスボア』の群れの一番後ろにいるデカい『モスボア』と『シェルダーブル』を倒す事が条件だと俺の知り合いは予想している。二層にも似たような条件があるということか・・・・・・」
その知り合いとは北条誠一のことであった。
「そういえば、二層にある巨大な『マンティスホーネット』の巣には絶対に近付くなと佳奈ちゃんに注意された事があるね」
『マンティスホーネット』とは前脚がカマキリの鎌のようになっている大きな蜂の怪物である。
「針には猛毒があるから解毒薬は必須と言われてるし、巣の近くに行くと恐ろしい数の『マンティスホーネット』が襲いかかって来ると聞いてるよ。そうなると解毒薬がいくらあっても足りなくなるから厳しい・・・・・・ん?」
ここで、燐は何かに気付く。
「たしか、奏ちゃん魔法で解毒できたよね」
「【除去魔術】の中にあると奏が言ってたな」
二人は奏が魔法で解毒出来ることを知っている。
「毒を受けてもそれで解決するが、奏の負担を考えると一応いくらか解毒薬は持ち込んどいた方がいいな。・・・・・・たぶん、その巣を破壊するか、蜂ということはおそらく女王がいるだろうから、そいつの撃破という可能性もある」
「まさか、レアエネミーを出す気かい?」
燐は承が二層のレアエネミーを出す気じゃないかと心配になるのは当然でS級ダンジョンのレアエネミーとなるとどうなるかは、燐ですら分からないのだ。
「逆だ。真那華がレアエネミーを出す条件を満たすことを阻止する為に必要なことなんだ。あまり、攻略時のリスクは増やすべきではないからな」
承は一層の『ウィザードウッドゴーレム』が、いかに強いかを知っているため、挑むリスクを考えるとそれは回避したいところではあるのだ。
「それなら、『カイザーグリズリー』も注意した方がいいかもね」
『カイザーグリズリー』とは『ブラックグリズリー』と見た目はほとんど変わらないが、歴戦の証なのか傷だらけといった怪物である。
「二層内にいる『ブラックグリズリー』を襲いながら徘徊している傷だらけの『ブラックグリズリー』をそう呼んでるらしいけど、目撃例が二回しかないのと、その目撃したパーティがほぼ壊滅させられてるんだ」
燐はこの『カイザーグリズリー』も条件のうちに含まれてる可能性を感じたのである。
「そいつにも一応、注意を払っておくか・・・・・・あっちもそろそろ終わりそうだしな」
承は真那華と奏の方に視線を向ける。
「あのさ、カナカナちゃん。ウチらハブられてるのに気付いてる?なんか、話し合い始めてるっぽいよ」
「はぁ!?マナを省くならまだしも、奏が省かれるなんてあり得ないんだけどー」
「そうだよねー。カナカナちゃんを省くのならまだしも天才のウチを省くなんてあり得ないよねー」
「うわぁ、自分で自分のこと天才って言っちゃうんだ。誰も言ってくれないから自分で言うしかないんだね可愛そー。奏が言ってあげよーか?マナって天才なんだねってさー」
二人は相変わらず煽り合っている。
「本ッ当、カナカナちゃんは面白いねー。ウチはカナカナちゃんみたいに気の強い子は大好きだよ。特に負けず嫌いなら尚更だよね」
「奏も実際話してみて分かったよ。奏の好敵手とふさわしいのはマナしかいないってね」
そう言うと二人は何故か熱い握手を交わす。
「え?今のところのどこに握手する要素があったの?」
それを見守っていた潤は訳が分からなかった。
「ん?ウチがカナカナちゃんを気に入っただけだけど?」
「奏も好敵手ではあるけど、敵対する気は失せちゃったからね。ねぇねぇ、今度仙台でカフェ巡りしない?良い店知ってんだー」
「いいね。ウチの友達も連れて来るけど良いかな?」
言いたい事を言い合った二人は何故か意気投合していた。
「僕には訳が分からないよ」
「いいねー、若いねー青春だねー」
困惑している潤と二人の友情を感じ取った燐は盛り上がっていた。
「お姉ちゃんも充分若いよね」
「そういう話じゃないよ。お姉ちゃんの学生時代はそんな青春なかったからね」
「だって、学生時代からお姉ちゃん強過ぎて誰も相手が出来なかったんでしょ」
燐は父母が亡くなり、父母を殺した『ナイトメアアウル』への復讐心のみで己を鍛え上げる事しか学生時代はしてなかったのである。
「それは僕の黒歴史だから触れないで欲しいな。それじゃあ、打ち合わせを始めるから集まってよ」
燐が集合をかけるとそれぞれ席について打ち合わせが開始される。
「さて、まずはこの『深淵の樹海』二層までの攻略は真那華と燐さんの我儘から始まって、管理局側に相談したら、三層攻略の人手が集まらないから、『深淵の樹海』攻略のイメージ改善の為に是非との事と同時に『ウィザードウッドゴーレム』の情報の解禁も同時にやって欲しいという依頼として『深淵の樹海』に挑めるようになったという経緯だ。そのイメージ改善の配信は管理局公認の配信者である奏が行い、俺は皆のバックアップを行う。俺がやってしまうと配信の主旨に反するらしい、分からんことではないがな。その為、事前の打ち合わせのために集まってもらったわけだが、自己紹介は・・・・・・」
「いらない、いらない、そんな前置きよりポジションの確認からしようよ」
承の長い前置きを燐が割り込みをかける。
「確かに知らない仲ではないからな。でも、奏が知らない奴が一人いるだろ」
それは潤のことである。
「奏、知ってるよ。燐ちゃんの妹であの龍のブレスを二回も防いだ最強のタンクでしょ。まぁ、奏がいれば何度だって防げたでしょうね」
実際にこれは虚勢ではなく、あの後更に承との特訓により、実際にそれを可能にすることが出来るからである。
「僕はアイドルとしては知ってたけど、まさか本人が真那華と同じくらいのクソガキだとは思わなかったけどね」
「いやー、潤ちゃんもなかなかのクソガキだと思うけどね」
燐は分身体との戦いと龍の肉の件でそのクソガキの片鱗を見たのである。
「僕をこの二人と一緒にしないで欲しいんだけどな」
「言われてるよ。マナ」
「それはカナカナちゃんもなんだけどねー」
「それを分かった上で言ってるんだけど」
潤の発言により再び二人の間に火花が起きていた。
「・・・・・・いや、二人ともやっと打ち合わせも始まったんだしさ」
「「誰のせいだと思ってるのかな?」」
潤は真那華と奏の二人同時に睨まれる。
「なんで、こういう時に息ピッタリなの!?」
潤はあまりにも二人の息が合ってるので驚く。
「それで、ポジションだったっけ?ウチはオールレンジのアタッカーだよ」
真那華は打ち合わせに戻すために自分のポジションを話す。
「奏はサポーター兼ヒーラーだね。でも、回復はほとんどこの子に任せるかも。ね、ソウル」
奏は【従魔】を使い小鳥のソウルを出現させる。
「それって、スキル?初めて見るタイプなんだけど・・・・・・」
真那華は生き物を出すスキルを見たことがなかった。
「やはり、真那華でも分からないか?」
「・・・・・・今、調べてる。・・・・・・へぇ、面白いスキルだね。ウチの【従魔剣】と似てるけど、全くの別物かな。似てるといっても魔力は共有してるとこが一緒くらいだね。だって、その子ウチの【従魔剣】と違って自分の意思で動いてるから」
真那華は魔力感知と自分の中にある知識である程度の目星を付けて調べている。
「へぇ、僕の禍津玄龍ほど可愛くはないけどね」
潤は頭の上で休んでいる相棒にかなり愛着が湧いている。
「お姉ちゃんとしてはその潤ちゃんの頭の上でふてぶてしく休んでるよく分からない生き物の方が気になるんだけどね。それにその名前から凄く不愉快な感じがするんだ」
燐は潤の頭の上にいるよく分からない生物に嫌な気配を感じている。
「ん?これは僕の盾だよ」
「はぁ?」
「どこが!?」
その潤の答えに燐と奏が反応する。
「僕の友達である聖蘭が作った盾に『禍津』の持つ権能の力の結晶を混ぜたら・・・・・・この禍津玄龍が産まれたってわけだね」
「禍津ってまさか・・・・・・あの・・・・・・」
奏は禍津が『深淵の樹海』に現れたシークレットエネミーで『生命と再生』の代行者なのを承から聞いて知っている。
「それで、潤ちゃんにはなんの影響もないの?」
「うーん、そういえばこの前変な夢を見たね。なんか、龍の討伐を望む者だとか・・・・・・代行者の継承とか・・・・・・『生命と再生』がどうかとか訳が分からない夢だったね」
その潤の答えに場が静まり返った。
「ねぇ、潤ちゃん・・・・・・おかしなことがあったら言ってと言ったよね」
「いや、変な夢のことだから良いかなって・・・・・・」
「これは我が妹ながら呆れるしかないね」
真那華と燐はその夢の意味するところを理解した。
「え?どういうこと?」
奏は当然のことながら理解できない。
「・・・・・・つまり、今は潤が『生命と再生』の代行者なんだ。正確には代行者の代行者だが、代行者の目的は力を示す事と龍の殲滅だからな」
承が真那華と燐の代わりに答える。
「それはどうして龍を倒す必要があるんだい?」
燐は代行者の目的を聞いた時からずっと疑問だった。
「龍は旧世代の権能であり、新たな権能にとっては邪魔であって、有害なものだ。それは世界の摂理を揺るがしかねないウィルスみたいなものだからな。代行者はそれを除去するために生み出される存在だが、龍に対して己の存在を誇示する必要があるからこそ力を示す必要があるんだ。だが、この状態じゃ力を示すことは出来ないから、潤を代行者にしたんだろう。一応、確認するが何かスキルが変化してたり増えたりしてないか?」
承は潤に何か変化がないか質問する。
「・・・・・・特に何も変化も無さそうですね」
「一応、【闘気】を使ってみろ」
「意味が分からないけどやってみます」
その時だった。
「ッ!!これはまさか!!」
「やはり、そうか・・・・・・」
その変化に気付いたのは実物を実際に見てる燐と承だった。
その【闘気】は正に禍津が放っていた禍々しい暗緑色のオーラであった。
「え?僕の【闘気】ってこんなだったっけ?」
潤は何が起こってるか分からなかった。
「こうなると確定だな」
承は潤が代行者に選ばれたことを確定した。




