劣等竜はただの蜥蜴
真那華はこの先にB級指定の怪物である『劣等竜』の存在を【感知】で確認した。
「え?冗談よね。ここD級ダンジョンよ」
聖蘭は真那華が嘘を言ってるとは思ってないが、D級ダンジョンにB級指定の怪物がいる事が冗談としか思えなかった。
「ウチの感知だと三匹くらいいるんだよね。大して強くはないけどこの先のボスがかなり不安かもね」
「真那華、どうするの?」
潤は真那華の指示を待っている。
「『劣等竜』くらいなら、問題なく倒せそうなんだけど、問題はその先にいるボスなんだよね。『劣等竜』って竜種の下僕みたいなものだからねー」
「竜種となると場合によってはS級判定なのよね」
「だから、聖蘭のセルフスキル【レアハンター】が反応したのか」
潤は聖蘭のセルフスキルに勝手に名前を付ける。
「そんなスキルないから!」
「いや、あながち外れてはないかなー。竜は鱗から牙、骨から臓器にかけて余す事のないレア素材の塊だからねー。前まではほとんど価値はなかったけど【錬成鍛治】によって更に価値が上がったんだよねー」
聖蘭本人はセルフスキル【レアハンター】を認めないが、真那華は竜=レア素材なのは間違いないので外れてはいないと感じている。
『確か『劣等竜』ってB級ダンジョン『雷雲渓谷』のボスじゃなかったか』
『大阪にあるダンジョンで『ゴールドタイガー』のギルメンが腕試しで行くダンジョンで有名だよな』
『確か東京にあるB級ダンジョン『焦土荒野』のボスも『劣等竜』だったな』
『え?そのボスが三匹もいるのか!』
『でも、大して強くないと言ったぞ!』
『いや、一匹でも『ゴールドタイガー』の配信者は苦戦してたぞ』
リスナー達にとって『劣等竜』はボスのイメージが強く、ダンジョン内で徘徊してるイメージはないのである。
「どうするかは二人で決めていいよ。流石に今回は厄介な相手なのは間違いないからねー」
真那華は倒せる自信はあるが、聖蘭と潤は別である。
「え?私、D級よ。挑んで大丈夫なの?」
「それはダンジョンが基準になってるからね。この場合はそれを想定してないから大丈夫じゃないかな」
資格証のランクは入れるダンジョンのランクを基準となっている為、中にいる怪物は基準としてないのである。
「そうなんだよね。責めるならここをD級判定にした連中なんだけど、こんなイレギュラーで責任取れって無理な話しだよね。だから、ここで挑むか引き返すか聞いてるんだよ。ここから先は自己責任だからねー」
「断っても一人で挑みに行くでしょ。それに『劣等竜』と言っても竜なんでしょ。私の実力を試すのにはお誂え向きだわ!」
「『劣等竜』はお姉ちゃんがソロで討伐してるから、それくらい倒せないとお姉ちゃんの妹として出来ないと駄目だよね」
聖蘭も潤も挑む気満々である。
「確かにウチ一人でも十分なんだけど、二人が『劣等竜』相手にどこまで通用するかやらせてみるのもいいかもね」
『一つ疑問なんだが、『劣等竜』はどうして竜種と別種で扱われるんだ?』
「うんうん、良い質問だね。その理由は正確には『劣等竜』は竜じゃないんだよね。どちらかというと蜥蜴とか蛇に近いんだけど竜の要素もあるから別種として扱われるんだよ。『劣等竜』は竜種同様に魔力のブレスは吐けるんだけど竜と違って鱗に魔力を減衰させる力と心臓に魔力を生み出す力がないんだよね。だから、魔力ブレスは放つと魔力が足りなくなるから一回放っちゃうと数日は放てなくなっちゃうから、その隙が絶好の効果チャンスかなー」
真那華は『劣等竜』の一番危険な技は魔力ブレスであるが、一回やらせればやらなくなるのであえて使わせてから攻撃するという手をよく使っていた。
『竜というより竜のなりそこないみたいな怪物だからな』
『実際に強さも別物で珍しさも別物らしいからな。世界中探しても竜がボスとして出現するダンジョンは五つしかないらしい』
『残念ながら日本には竜はいないんだよな』
日本には『劣等竜』がボスのダンジョンはあるが、竜種がボスをやってるダンジョンが存在しないのである。
そんなこんな話していると真那華達は『劣等竜』の目の前に到着する。
「ブレスは一発しか撃てないとしても、その威力は竜種と遜色ないから注意してね」
「初めて見たけどどう見ても大きい蜥蜴よね」
「見かけに騙されちゃ駄目だよ。こいつは土属性の『劣等竜』だからそう見えるだけだからねぇ」
真那華は属性ごとに竜種が違うように『劣等竜』も同じく見た目と能力に違いがある事に注意する。
「土属性の『劣等竜』のブレスは砂塵ブレスだから当たればただでは済まないよ。聖蘭ちゃんは注意して」
「え?なんで、私だけ?」
「僕は盾と結界魔法使えば防げるからね」
「私に結界魔法使ってくれないの!」
「使っても極級じゃないと竜種のブレスって防ぎ切れるか怪しいんだよね。出来ても威力の減衰くらいかなぁ。潤ちゃんにそれを求めるのは結構厳しいと思うよ」
「うん、そもそも僕、極級は使えないんだよね。聖蘭なら速いんだから気合いで避けられるでしょ」
真那華と潤の発言で聖蘭は砂塵ブレスを気合いで回避することが確定した。
「まったく、簡単に言ってくれるわね」
「分かりやすい予備動作があるから大丈夫だって」
『空気を大量に吸い込む動作が来たらブレスの合図だよ』
『まさかの黒鉄燐からのアドバイス』
聖蘭は燐からアドバイスをもらう。
「それじゃあ、潤ちゃんのお姉ちゃんのアドバイスももらった事だし劣等竜を狩り始めよっか」
真那華がそう言うと先頭の潤が先頭を進む。
「シャーー!」
劣等竜は潤の存在に気づくと威嚇をした後に突進をする。
「いいね!君みたいな相手を求めてたんだよ!どいつもこいつも軽いからね!だけど、攻撃が単純過ぎるかな」
潤は盾で劣等竜を弾き体勢を崩した瞬間、メイスを振るうと劣等竜は壁に激突する
『劣等竜が吹っ飛んだんだが』
『アレで倒せるなら他の連中は苦労してないんだよな』
劣等竜は今の一撃を受けたが、ゆっくりと起き上がろうとしている。
残りの二匹は体を丸め潤に転がり突っ込んで来る。
「二匹同時は流石に抑えるので手一杯かなぁ。良いね。良いね。僕の筋肉達が喜んでるよ!」
「まったく、一人で楽しんでんじゃないわよ」
聖蘭は跳躍し潤の真上から劣等竜二匹の胴体数カ所を撃ち抜き、劣等竜を一瞬怯ませる。
「聖蘭ナイス!」
その一瞬の怯みにより潤は力任せに劣等竜の体勢を崩し、メイスを全力で振り二匹を壁にぶち当て起きあがろうとしてた劣等竜も一緒に巻き込まれていた。
『何だよ。今の』
『二匹同時の転がり突進ですらびくともしないのかよ』
『聖蘭ちゃんのサポートありきだとしても二匹の劣等竜を吹っ飛ばすって出鱈目だろ』
『流石、潤ちゃんだ!!劣等竜ですら潤ちゃんを崩す事は出来ない』
『これS級クラスの実力はあってもおかしくないだろ』
『セイラちゃんも凄い動きしてたが【軽業】ってあんな無茶苦茶な動き出来るもんなのか?』
『俺も【軽業】持ってるけどあんな体勢変えながら空中で常に狙い定めるようなイカれた動きできねーよ』
『どうなってんだよ。この面子は!』
『この二人でこれだもんな』
リスナー達は潤だけじゃなく、聖蘭の空中での人間離れした動きに驚きに溢れていた。
「二人にやらせるとは言ったけど手を出さないとは言ってないんだけどなぁ」
真那華は剣から三匹重なった状態の劣等竜に電撃の光線を放つ。
『この光線はまさか!』
『ああ、『グラフェンナーワル』のレイピア、『ホワイトサンダー』だ』
『今、三匹一気に貫いたように見えたんだが?』
『あの剣は一体なんなの?』
『え?今のって魔法じゃないの?』
『ホワイトサンダー』の事を知らない初見のリスナーは当然何が起きたか困惑している。
『初見のお猿さん達は知らないと思うが『ホワイトサンダー』という剣からは電撃の光線が放たれるんだ』
『しかも、その武器が初配信見た視聴者の中から抽選で百人に配布されたんだよな』
『は?今回の浮遊ユニットだけじゃなかったの?』
『噂には聞いてたけど本当だったんだ!それを知ってたら、俺も最初から見とけば良かったな』
『カナカナちゃんが勢い任せのヤラセや嘘に決まってるとSNSで必死に抵抗していたの思い出したわ』
『それ知ってるけど相手が悪いわ。マナ様は本来なら九本の配布だったところを百本に増やした上にヤバい性能の武器になって配布したからな。ちなみに俺も愛用させてもらってる。これ使うとこれ以外の剣が使えなくなるくらいだ』
『分かる。この剣、強過ぎて自分が強くなったと錯覚するくらいにヤバいんだよな。この前、光線の耐性持ってる奴出て焦ったけど剣としても普通に強いのかあっさり倒せたよ』
『カナカナちゃんではダンジョン配信じゃ勝てない要素があり過ぎるんだよな』
『ああ見えて師匠はファンに優しいからな』
『確かに決闘で負けたのに罰ゲームは無しにしてもらってたけど猿のカチューシャを付けて配信してるのはなんで?』
『この猿のカチューシャは俺の誇りであり、シンボルだ』
『確かにそのカチューシャ付けてから強くなってるから面白いのも事実なんだよな』
コメント欄は和気藹々となってる中、劣等竜の一匹が空気を吸い込む。
「ウチがそれをやらせると思う?」
既に距離を詰めていた真那華は空気を吸い込む口に剣を突っ込む。
「【ウィンドスピア】」
その瞬間劣等竜の喉を風の杭が貫き劣等竜の一匹は倒れた。
「うん、これで二対二だね。後は任せたよー」
真那華は数を合わせる為だけに劣等竜を瞬殺してみせた。
『劣等竜を瞬殺か。とんでもないね』
『普通、ブレスを撃つ瞬間に空いた口を狙わないからな。危険過ぎだろ』
『流石、師匠だ!俺もその域に達するよう精進しないとな!』
『ミツルギも同じこと出来るようになったらそれはそれでヤバいけどね』
劣等竜ですら真那華の相手にならない事に驚愕するリスナーと歓喜するリスナーのコメントが溢れる。
「あー、なるほど。そうすればいいのね」
「まさか、聖蘭同じ事しようとしてる!?」
「そうね。私の『フェンリル』を口に突っ込んで撃てば良いだけでしょ。タイミングがシビアな事を除けば出来ない訳では無さそうね」
「その自信がどこから来るのか教えて欲しいもんだけどね」
「うーん、勘って奴ね。確かにブレスは脅威だけどあの予備動作の一瞬だけは一番肉質の柔らかい口腔内を狙える」
「言いたい事は分かるけど、聖蘭に真那華と同じ事が出来るとは思わないかな」
潤は今のやり方は真那華だから出来た事だと思っており、聖蘭に同じ事は出来ないと思っている。
「でも、潤が最初に殴った奴は既に満身創痍・・・というかそのメイスの針が刺さってるわね」
「うん、また生えて来てるけどね」
「・・・・・・動きが鈍くなってる?」
聖蘭は針が刺さった劣等竜に違和感を感じていた。
「・・・・・・まさか、あの針自体にも重さがあるの?」
「どうしたの?」
「たぶん、あの針自体にも超重鉱石の影響があるからゆっくり重力に引っ張られるように刺さっていってるのよ」
「なにそれーー」
それに関しては潤は想定外だった。
『やっぱり、思った通りだ。こうなるのは目に見えたよ。相変わらずエグい力だよ』
燐は素材を聞いた瞬間にこうなる事は目に見えていた。
何故なら『禍津』の脅威を知ってるのは直接戦った燐だからである。
『つまりあの針が刺さると場所によっては重力に引っ張られて更に刺さるって事?エグくないか』
『それだけじゃない。気付いたら折れた棘が戻ってる。まさか、『禍津』の力って』
『うん、あの棘と再生力、もしかすると耐久性もあるかもしれないね。そして、超重鉱石の特性が合わさった事により針が重力に引っ張られるようになっている。もしかすると超重鉱石は重いんじゃなくてそういう特性があるから重いのかもしれないね』
『どこがしょぼいだよ!!やっぱりヤバい素材だったじゃないか!!』
『あの説明じゃ、そうなるのも無理ないかもね。直接戦った僕だから分かった事だし』
潤の使う『緑鬼』の性能は『禍津』と戦った燐だから分かっただけの話しであった。
「でも、アレでも倒せそうにないね」
「・・・・・・!!」
何かを感じ取った聖蘭は棘の刺さった劣等竜に接近するとその劣等竜は息を吸う為に口を開けた瞬間、口に聖蘭の『フェンリル』が突っ込まれる。
「【万物貫通】」
聖蘭は真那華と同じように喉から尻尾まで消滅の光線を貫通させ劣等竜を倒した。
「ほら、出来たでしょ」
「なんで、できちゃうの!!」
「真那華がやってるのを真似しただけよ。来るのが分かれば口に突っ込んで撃つだけ何も難しくないわ」
「やっぱり、聖蘭って人間やめてるんじゃないかと思うよ」
「なんでよ!」
聖蘭は直感という名の野生的な勘でブレスを撃つ予備動作が来る気がしたのである。
聖蘭が潤にツッコミを入れたほぼ同時にもう一匹の劣等竜も口を開けたので、反対の手でガルムを持ち口に突っ込み銃弾を撃ちその場から一気に離れると劣等竜は自爆した。
「何をしたの?」
潤は聖蘭が何をしたか分からなかった。
「ん?【感知】で魔力探って集まってるとこに銃弾をぶっ放してブレスを吐く為の魔力で自爆させただけよ」
「真那華より、ヤバい事やった自覚ないでしょ!!」
聖蘭は真那華より危ない倒し方をしている。
「猟犬が聖蘭以外じゃ再現出来ないという理由がよく分かったよ。野生の勘に任せた誰も真似できない危険で完全にイカれた戦い方が出来ないと無理だよ」
「失礼ね。私はいたって正常よ」
「そういう事にしておくよ」
潤は適当に呆れながら答え、聖蘭とハイタッチをする。




