誘導作戦は楽じゃない
真那華はリスナーと会話する余裕を見せつつ『ボンバーヘッド』のいるエリアに到着する。
「うん、いるねいるね」
『今まで分からなかったけど、ここに来た瞬間に全て察したよ。これ、死にに行くようなもんじゃないかな?』
燐は『ストーンヘッド』と『ボンバーヘッド』の姿を見て理解した。
『俺も分かったわ。もし、このガキが出来ても他の奴はどうすればいいんだ?』
『いや、私はいまだに分からないんだが・・・』
『分からないけど、難しい事をするという事は分かった』
この場所に着いた途端、初見の中にも分かった者が現れ始めた。
「うん、分かった人がだいぶ増えて来たからそろそろ答え言うよー。答えはここにいる『ボンバーヘッド』の爆発をさっきの音が違う壁に当てるでしたー。流石にお猿さん達は分かったよねー」
『流石に分かるウキ』
『簡単だったウキッ』
『いつもより優しいウキキッ』
『猿が出たんだけど!』
『気にするなウキッ』
コメント欄は歓喜の猿で溢れる。
「分からなかった初見のお猿さんは、ウチの過去動画でも見て勉強して欲しいかなぁ」
『いや、隠し通路の出し方は分かったがどうやって誘導するんだ?』
『そもそも判別出来るのか?』
『ちょっとの段差でも爆発するんだぞ!』
リスナー達はどうやって入口近くまで『ボンバーヘッド』を誘導するのか心配になっている。
リスナー達が心配するのは当然で『ボンバーヘッド』は『ストーンヘッド』や『ボンバーヘッド』の接触でも爆発する。
そして、ちょっとした衝撃で爆発し、その繊細さはスペランカー並だと言われており、道端の小石程度の段差での衝撃ですら爆発する為、普通に攻略する場合は手近の石を投げて爆発しないかを確認しながら先に進むというのがこのエリアを進む時の正攻法である。
「『ボンバーヘッド』の誘導にはコレを使うよ」
真那華はポケットから小さな小瓶を取り出す。
『誘引剤ってまさか・・・・・・』
『馬鹿な配信者が昔よくネタで使ってた記憶しかないが・・・・・・』
『確か、瓶の蓋を開けると怪物が寄って来る薬品だよな。配信のネタでしか使ってるの見た事ないが』
『はっきり言って、持っててもリスクしかない物だからな』
『たまに【挑発】がないタンクの人が持ってる程度かな。かなり扱いにくくて不評みたいだけど』
真那華の持つ誘引剤という薬品はダンジョンにいる食虫植物系のドロップする精油で怪物を引き寄せる効果があり、潜行者専門の店なら何処にでも置いてある物である。
「ちなみにこれ、最高純度まで精錬してるから、誘引効果凄いんだよねー」
『低純度でも効果あるのに』
『専門店でさえ扱ってない代物を出すな!』
『出さないんじゃなくて、出せないんだよ。今、マナ様が言ったように誘引効果がヤバいから。ダンジョン内の怪物が雪崩のように集まって来る地獄を見たいなら話しは別だが』
『だから、『ストーンワーム』を駆逐していたのか』
リスナー達は真那華がわざわざ最高純度の誘引剤を用意した理由を考察していた。
「誘引剤ってあの独特な臭いで誘引してるんじゃなくて、精油に含まれる特殊な魔力で誘引してるんだよね。その効果の効きの強さが怪物ごとに差があるんだけど、コイツらはよく分からないから最高純度にしたんだよね。道中のワーム系にはかなり効くから道中にいる奴全部倒したってわけ」
真那華はこの誘引剤を使うと『ストーンワーム』が引き寄せられ『ストーンワーム』で溢れ返り誘導どころじゃなくなるので先に『ストーンワーム』は駆除しておいた。
「さて、瓶のフタを開けたら隠し通路前までダッシュするからね」
『いや、逃げてる間にも爆発しそうなんだが?』
「最悪一体は残ればいいんだよね。でも
ウチもあんまりこういう手は使いたくないんだよ。このやり方は分の悪い賭けみたいなものだからね。でも、コイツに関してはこの方法しかないんだよね。押したら爆発するからね。だから偶には趣向を変えてこういうのもいいよね。そんじゃ、完全な運ゲーはっじまるよー」
真那華が叫ぶと同時に瓶の蓋を開けると『ストーンヘッド』と『ボンバーヘッド』の頭が一斉に真那華の方を向く。
『怖っ!』
『ホラーかな?』
「確かに捕まったら終わりのホラゲーみたいな展開だよねー♪」
真那華は隠し通路の入口を目指し走り抜ける。
「流石に振り返るのが怖いんだよね。既に爆音が轟いてるからさ」
『背後か地獄絵図なんだが』
『既に爆発してるんだが・・・・・・』
「分かってはいたけど結構遠いんだよね」
『ちなみにさっきの場所に着いたらどうするんだ?』
「壁に上手い具合に激突させるんだけど、かなりギリギリまで誘い込まないと方向転換して面倒な事になるんだよねー」
『ストーンヘッド』と『ボンバーヘッド』は速い速度が出ていても急な方向転換に対応した動きが出来るので上手く誘導しないと壁まで誘い込めないのである。
ダンジョン内で追いかけっこをしている真那華に対して聖蘭と潤は水筒に入れて来た麦茶を飲みながら話している。
「今、お姉ちゃんと真那華のお兄ちゃん、須藤管理官そしてカナカナちゃんでダンジョンの調査を任せられてるんだって」
「私、よくカナカナちゃんの事は分からないのよね。潜行者というイメージよりアイドルってイメージが強いから」
「僕もよく分からないけど、カナカナちゃんって、バフ系の固有スキルを持ってる事くらいなら知ってる。移動の車内で真那華への愚痴ばかり話してたってお姉ちゃん言ってたよ」
燐は潤と連絡をとっており、よく話しをしている。
「だって、真那華の配信って刺激が強いでしょ。それに強いし、一応解説もするから、バフ一辺倒の配信ではダンジョン配信者としては弱いのがあるわね。そもそも、サポーターやヒーラー系の配信が伸びにくい傾向にあるのはただ単純に実際に戦うアタッカーやタンクと比べて刺激が弱いからなのよ」
「確かに役割的には目立つポジションではないからね」
サポーターやヒーラーは配信者に向かないのは、昔から言われておりダンジョン配信以外のコンテンツも用意しなければならなくなり、源奏はその為にアイドルをやっている。
「でも、真那華のお兄ちゃんも配信向きでは無いかなー」
「何でよ!承さん、いいじゃない!」
「一瞬で終わっちゃうからだよ!!まったく、聖蘭って真那華のお兄ちゃんが好きなの隠す気無いでしょ!」
「真那華にも言ってるけど、人として尊敬してるだけよ」
「まぁ、そういう事にしておくよ」
聖蘭の誤魔化しを潤は聞き流す。
「前から聞こうと思ってた事だけど、聖蘭ってどうして真那華とつるんでるの?全く違うと言うか正反対のタイプだよね」
「確かに出会った当初はなんだこの我儘で傍若無人な問題児はとは思ったわよ。でも、真那華って私が出した無茶振りにもしっかりやってくれるのよね。それで結構無茶するから放っておけないのよ。見れば分かるでしょ。それに真那華には返し切れない借りがあるし、何だかんだ言っても相棒だからね」
「でも、一番意外なのは頭脳担当が真那華で特攻仕掛けるのが聖蘭なとこなんだよね。最初は逆だと思ったよ」
潤は聖蘭が頭脳担当だと思っていた。
「いや、私もどちらかと言うと頭脳派よ。でも、真那華はある程度相手の能力や弱点に目星を付けて見破っちゃうから、真那華に任せれば私は攻撃に集中すれば良いだけだからね」
「確かに怖いくらいに先が見えてる時があるから。あれは完全にスキルとかではなく経験の差というものだよね。僕等の知らない事まで知ってるし一体どこまで知ってんだろうなって感じがするよ」
「確かにそうなのよね。それは承さんにも当てはまるんだけど、承さんの方が真那華より多くの秘密を抱えてそうなのは、あの動画を見て感じたわ。だって権能の眷族の倒し方に関しては真那華も知らなかったのよ」
「権能の力を尽きるまで使わせるって奴でしょ。それは真那華のお兄ちゃんだから出来たようなもんで常人には苦戦は避けられないんだよね」
潤も動画を見てるので眷族を倒す方法は知っているがいざやるとなったら苦戦は避けられないのは分かっている。
「お姉ちゃん言ってたんだ。真那華のお兄ちゃんは自分達より遥かに強いって、真那華のお兄ちゃんがいなければ確実に須藤管理官とカナカナちゃんは死んでたみたいだからね」
「既にそんなヤバい事になってるの!!」
「詳しくは説明してくれなかったけどダンジョンに入っていきなり奇襲を仕掛けられたらしいよ」
燐は獣人以外の事は潤に話している。
「はっきり言って今回は対策なしじゃかなり厳しいみたいでさ。お姉ちゃん含め特訓中らしいよ。特に須藤管理官とカナカナちゃんの特訓はキツめらしいね」
「え?サポーターでしょ?」
「今回はサポーターが真っ先に狙われる可能性が高いから自分の身は自分で守れないといけないという見解らしいよ」
聖蘭はサポーターやヒーラーは後方に控えてるので狙われる事はないと思っていた。
「今回の怪物は結構特殊みたいでね。話では人間みたいな知能が備わってるらしいんだ」
「それ、実は真那華から聞いてるのよね。秘密にしてと言われたけど」
その話しは以前、聖蘭は真那華から聞かされた獣人や鳥人の話しをされたから知っていた。
「やっぱり、真那華は知ってたんだ?」
「真那華の話しでは、例えS級でも厳しい相手と言ってたのを覚えてる」
「だから、撤退指示を出したのが真那華のお兄ちゃんだったんだね。正直意外だと思ったよ。あんだけ強いんだからさ」
潤にとって承のような手だれが撤退指示を出すとは思わなかった
「たぶん承さんの事だから自分じゃなく周りを優先して撤退指示を出したんじゃないかしら」
聖蘭は周りが危険に晒されるから撤退指示を出した可能性が高いどう思っていた。
「でも、まさか休みまで取って配信見に来るとは思わなかったよ」
「貴女のお姉さんって結構自由人なのね」
「最近は精神的にも時間的にも余裕が出来たからね。お姉ちゃんが楽しそうで僕も嬉しいよ」
自分のスキル【分身】の異常による苦しみから解放された燐は以前と比べ精神的余裕が出来たと同時に時間的な余裕が出来たので、配信をやってみたいと度々潤に話しをしているのだ。
「最近じゃ、配信をやってみたいと言ってるけど。お姉ちゃん若干機械音痴だから一緒に出て欲しいって言われてるんだよね」
「私も宣伝も兼ねてやってみようかしら、流石に真那華のチャンネルでやるのは気が引けるし」
聖蘭は最近、配信用のカメラを買ったがどう配信すればいいのか分からずにいる。
「聖蘭は宣伝しなくても口コミで充分なお客さん来てるじゃん」
「来るのはいいけど、素材持ち込みなのを分かってないお客さんが多いのよ!そこの注意も兼ねて宣伝しないといけないの!むしろ、そっちが目的だからね」
聖蘭は来るのはいいが依頼を受ける為の条件を分かってないお客さんが遠方から多く来る事があるのでその注意を兼ねた配信をしないと考えているのだ。
「まさか、口コミだけでこんな有名になるとは思わなかったから、やる必要が出て来ちゃったという訳よ・・・・・・なんかヤバい音が近付いてない?」
聖蘭は遠くから聞こえる爆発の音に嫌な予感を感じた。
聖蘭と潤は真那華が『ボンバーヘッド』を誘導するとは聞いてはいたが、その具体的な説明まで聞いていない。
「まさか、あの馬鹿!!」
聖蘭は真那華が何をしたのか何となく予想が出来た。
「どうしたの?」
「ここから少し離れるわよ。真那華ったらなんて方法考えてるのよ。確かにそれを考えなかった私も悪いけど、普通そんな方法やる?」
何だがんだで、真那華を側から見ていた聖蘭は真那華が何をしたのか察した。
「え?どういう事」
まだ、付き合いの浅い潤は真那華が何をしたのか分からないのである。
「あいつ、ここに『ストーンヘッド』と『ボンバーヘッド』を引き連れてやって来るわ!!」
「そんなに引き連れて来るとは思わなかったんだけどー!!」
潤は誘導するにしても数体くらいだろうと読んでいた。
聖蘭と潤がその場から離れてしばらく経つと手を振って合図する真那華が見えて来た。




