姉の全てを肯定してやる
二人は平地に到着する。
「うーん、懐かしいね。お姉ちゃん」
「ここ、僕達の為に父さんが買った土地なんだよね。管理費と維持費、税金、その為諸々で僕の収入がどんどん減るから早くなんとかしたいけど、父さんの事を思うとなかなかね」
「お姉ちゃん、そんなに収入あったんだ」
「危険な任務やダンジョンばかりだったからねぇ、そう考えると悪くなかったかも」
(あのさ、本気?やめない?)
分身体は燐を止めようとする。
「潤ちゃん、この分身体いつもは使え使え言って来るんだけど、今はそれをやめろというんだ。どうすればいいかな」
「無視すればいいんじゃないかな。だって、そいつお姉ちゃんに散々嫌がらせをして来たんでしょ。それなのに今更、やめてって随分と都合良すぎない?」
二人は分身体がどうなろうと知ったこっちゃなかった。
「ふざけるな。一体誰のおかげでS級になれたと思ってるんだ!恩を仇で返すとは正にこの事だね・・・・・・だそうだよ」
「お姉ちゃんのスキルの分際でよくそんな偉そうな事が言えるね。今ではお姉ちゃんに使ってすらもらえない産廃なのに」
燐が分身体の台詞を代弁して言うと潤はそれに返す。
「産・・・・・・廃・・・・・・、今、産廃って言ったかい?・・・・・・だそうだ。相当効いてるね。産廃って言葉はスキルにとっても嫌みたいだよ」
「うん、言ったよ。それ以外何があるの産廃ちゃん」
「取り消して・・・・・・今の言葉・・・・・・だってさ」
分身体にとって産廃という言葉は取り消して欲しいくらいに屈辱的な言葉だった。
「確かに昔はお姉ちゃんにとって自慢のスキルだったけど、今は使わなくても昔より強いのは僕が一番知ってるからね。君は所詮、お姉ちゃんのスキル、君が強いんじゃなくてお姉ちゃんが強いから君も強いんだ。そこを君は勘違いしている。使わなくても強いならもう既に産廃なのは事実じゃないかな?」
「潤ちゃん、容赦ないね。分身体だまっちゃったよ」
潤にとって分身体は愛する姉を長い間苦しませて来た。
だからこそ、同じ苦しみを与えなければ気が済まなかった。
「この際だから、はっきり聞いておきたいんだけど、潤ちゃんから見てお姉ちゃんは強いの?」
「何おかしな事言ってるの?誰がなんと言おうとお姉ちゃんは僕の自慢の最強のお姉ちゃんだよ」
潤の言葉には嘘偽りなどなかった。
「潤ちゃん、それは僕を買い被り過ぎ・・・・・・」
「ううん、違うよ。お姉ちゃん。僕はタンクで最強、お姉ちゃんはアタッカーで最強なんだ。最強姉妹なんだよ僕とお姉ちゃんは」
「・・・・・・潤ちゃん、その言い方凄く狡い。狡いけどその言葉でようやく僕は自分の事を認められそうだよ。だからこそケリを付けよう。そして、見せてくれ。最強のタンクの実力を、昔は目をそらしてたけど、今度こそしっかり見届けさせてみせるよ」
潤の言った言葉は燐が昔から抱えた呪縛から解き放った。
「それじゃあ使うよ。今まで使え使え、出たい出たい騒いでたんだ。僕に感謝して精々、喜んでくれ」
燐は既に【分身】を使う迷いすら消えもはや使うのが清々しいまであった。
「・・・・・・ふざけるな。本当にふざけるな、潤ちゃんを味方に付け」
「黙ってくれないかな。君にそれで呼ばれると虫唾が走るんだ。口を開く暇があるなら、さっさと来なよ。この産廃が!!」
分身体にとって燐の劣等感は心を揺さぶる一番の手段だった。
しかし、その手段は潤に潰され、燐の心を掻き乱せなくなれば、自分の存在意義がなくなるのだ。
そもそも、潤への劣等感から生まれた存在だからこそ、それを失うのが一番嫌だったのである。
だからこそ、それを潰した潤への怒りは相当だった。
「よくも、よくも、僕の事を産廃、産廃、言いやがって、もういいよ。先に潤ちゃん、君から殺してやるよ」
「来なよ、偽者。君の力は到底あの頃のお姉ちゃんにも及びはしない」
「【螺旋斬】ッうわぁ!」
分身体の連撃を繰り出したが途中で盾に押し返されその場に倒れこむ。
「軽い軽過ぎる。攻撃が軽過ぎてそよ風と勘違いしそうになったよ。それにあの頃のお姉ちゃんは怯みはしたけど倒れはしなかったよ」
「クッソ、ふざけるな!ふざけるなよ!君程強ければ引く手数多だろ!姉に拘る必要なんてないはずだ!どうして君より弱い姉なんかに構う?」
分身体は必死に潤が燐に拘る事を否定する。
「君は一つ勘違いをしているよ。僕はお姉ちゃんを僕より弱いなんて思った事はない!だって、お姉ちゃんは僕なんかより必死になって努力して頑張ってたの知ってるから」
「でも、君の姉は君に何をしたか分かっているのか?」
分身体は燐が潤にした禁止事項の約束の話しをする。
「ああ、アレの事ね。お姉ちゃん、今だから謝らないといけないんだけどさ」
「潤ちゃん、まさか」
「止められてたけど実は資格取った後に何回かダンジョンにこっそり潜ってたんだ」
潤はここで燐にカミングアウトする。
「やっぱり、親子というか姉妹というか、ダンジョン探索は一つの生き甲斐みたいになっちゃってさ、一度やったらやめられなくなっちゃったんだ」
「・・・・・・まったく本当、家族揃ってダンジョン馬鹿なんだね。血は争えないって奴かな」
姉は怒るというより呆れていた。
「さて、話しは戻すけど、君はそれしか言えないのかい?君の実力って何?僕のお姉ちゃんから借りてる力でしょ。そんな君が何を偉そうにしてるんだい?今まで使ってくれなくて駄々を捏ねるだけ捏いて、いざ、出陣になっても文句しか言わない。厄介なクレーマーに居座られてお姉ちゃんも大変だっただろうね」
潤は燐の大変さに同情しかなかった。
「それに、君さ。お姉ちゃんが弱いみたいに言ってるけど、それ君が投げたブーメランが君の頭に刺さってること分かって言ってる?」
つまり、燐の分身体が燐を弱いという事は分身体自体も弱いと言ってるようなもんなのだ。
「それに君、お姉ちゃんの分身体で本来は強いんだけど、なんでそこまで弱くなってるのかな
?」
「ぼ、僕が君の姉の分身体である僕のことが弱いだって!?」
「厳密に言うと君の存在というあり方が君をそこまで弱くしてるのかな」
「何を言ってるんだい」
分身体には潤がいう、あり方の自覚はない。
「だから、決して君は僕には勝てない」
分身体は潤への劣等感で生まれているだからこそ分身体では潤には勝つ事は到底不可能なのだ。
「だから、何を言ってると聞いている!!」
分身体は何度も攻撃を仕掛けては押し倒され仕掛けては倒されを何度も繰り返す。
(僕は一体何と戦ってる?)
分身体は攻撃を防がれる度、そういう思考が入る。
かつて、燐が抱いた疑問。
(何でびくともしないんだ!おかしいじゃないか!僕は必死に攻撃してるんだよ!)
分身体は鬼気迫る表情で必死に怒涛の攻撃を仕掛けるが何度も何度も弾かれびくともしない。
「やっぱり、弱いね。いや、徐々に弱くなっているね」
分身体の攻撃はもはや、潤にとっては軽過ぎて話しにならなかった。
それなら、模擬戦の時に相手した聖蘭や真那華の方が強敵だった。
むしろ、あの二人と比べる事自体が失礼なレベルだと思ってしまう。
「偽者はお姉ちゃんじゃなくて君だよ。君なんかいなくてもお姉ちゃんは戦える」
潤は分身体の存在を否定する。
(強いとかそういう次元じゃない。全く上が見えず、横方向も果てが見えない。そして、どれくらい厚いか分からない金剛性の壁、こんなのどうやっても越えるのなんて無理じゃないか!!)
かつて、燐が見た恐怖は正に絶対に越えられない壁が立ちはだかる所が見えたからだ。
(僕は一体何に恐怖してたんだ。これほど潤ちゃんの背中が逞しく見えた事はないよ。むしろ、アタッカーとしてこれほど頼もしい者はいないかな。潤ちゃん、僕は君を誇りに思うよ)
燐の恐怖は既に消え、賞賛に変わっていた。
「やめろ!それ以上、僕の存在を否定するな!!」
分身体は燐に向かって叫ぶ。
ここで、潤と燐は気付いた。
この分身体の存在理由が燐自身の否定と潤への劣等感なら、燐自身の肯定と潤の力を認める事でこの分身体は存在する理由、つまり存在そのものがなくなるのだ。
だからこそ、この分身体は潤への劣等感を煽り、燐の抱える強さへの執着を焚き付けていたのである。
自分の存在を維持する為、巧妙にかつ狡猾にバレないように燐に語りかけたいたのである。
「やっぱり、潤ちゃんは最高の妹だ。でも、僕も負けないよう。更に強くなるよう頑張るよ。潤ちゃんが誇れる最強を名乗れるようにね」
「やめろーーーー!!」
燐は強くなる理由が変わり、今まで否定していた最強を認めた事で分身体が薄くなっている。
「うん、僕達で最強姉妹を目指そうよ!」
「それ、凄くいい!!もう引退とか言ってらんないかな。潤ちゃん大好き」
「僕も大好きだよ。お姉ちゃん!!」
二人お互いの武器でタッチする。
「どうしてこうなった!ふざけるな!クソッ、こん・・・・・・な・・・・・・はずじゃ」
分身体はそのまま消え去った。
「お姉ちゃん?分身体が消えたけど?」
「ああ、僕の中から【分身】がなくなった事を何となくかんじるよ!」
「そんな!!」
潤は姉の固有スキルを失った事がショックだった。
「ハハ、潤ちゃん言ってたじゃないか。【分身】がなくとも僕は強いってさ。それに悲観する事はないよ。ちょっと盾構えてくれる?」
「え?いいけど何するの?」
潤は盾を構えると燐は剣を振るい、潤がそれを受け止める。
「くっ!!」
燐は分身体がびくとも動かす事が出来なかった潤を二歩下げさせる。
「やっぱり、そうだ。スキルが新しくなってる」
「えっ!?今一回の攻撃じゃなかったよね」
潤が受けた感覚では十回くらい同じ方向同じ力で攻撃された気がした。
「振ったのは一回だね。一振りで複数の攻撃を行う。【残像撃】に変わった。はっきり言って前より数段強いかも。強いていうなら当たる数がランダムなのが難点かな。だけど、前の奴より数段マシだね」
「そんなスキル聞いた事ないよ?」
「うん、僕もない」
二人が知らないのは当然で、燐が得たそのスキルは『極限スキル』であったからである。
「でも、このスキルがあの時あったらもっと善戦出来てたかもなぁ」
燐は眷族との戦いの話しをする。
「うん、今度は一緒に倒そうよ」
「潤ちゃんがいると負ける気がしないよ」
「僕もだよ。お姉ちゃん」
二人は楽しそうに語り合い自宅に帰宅した。
その翌日、いつも|真那華と聖蘭が行く喫茶店で潤はどうなったかを話した。
「え?本当に真那華の予想が合ってたの?」
聖蘭は最後まで真那華の予想に否定的だった。
「でも、その分身体が消えたのはちょっと意外かなぁ。それに変化したスキルもね。教えてはくれないの?」
「お姉ちゃんに口止めされてるからね。【分身】の時と違って周知もされてないから、僕の口からは言えないよ」
「ちなみに聞いたことあるスキルかだったかは答えられるかなぁ?」
真那華もスキルを無理に聞き出すのはマナーに反する事を知ってるので無理に聞き出す気はないので答えられる範囲で質問する。
「少なくとも僕とお姉ちゃんは知らなかったかなぁ」
「うーん、どういう理由かは分からないし効果が分からないと断言出来ないけど、たぶんそれ、『極限スキル』かも」
「極限スキルってこの前、真那華が話してた単体で破格の性能を持つ極めたスキルが進化したスキルのことよね」
聖蘭は以前に説明を受けたので『極限スキル』の事は知っている。
「ちなみに潤ちゃんもたぶん持ってる。というか、これは絶対に『極限スキル』なんだよねぇ」
「え?一体どうやって?」
「ねぇ、さっきから話してる。『極限スキル』って何?」
潤はそのスキルの存在を知らないので真那華に尋ねる。
「うーん、兄ぃに口止めされてんだけど、持ってるなら話しは別かなぁ。そもそも説明しないとそのスキルが何で変化したのか説明もできないから話すしかないんだよねえ」
真那華は『極限スキル』の説明のみをし自分達の話しはしなかったのである。




