自我を持つスキル
聖蘭と潤は真那華の素っ頓狂な答えに唖然としている。
「まぁ、そうなるのも分かるかなぁ。でも、これは奇跡的な偶然が重なって起きた事象だと思うんだよね」
「いや、スキルが自我を持つなんてそんなのありえないよ」
「とりあえず、話を聞いてみましょう」
筋肉と会話する奴が言えた義理かとツッコミたい気持ちを抑え聖蘭は真那華の答えを聞く事にする。
「まず、その要因になってるのは間違いなく『ナイトメアアウル』のもう一つの催眠術コイツの名前の由来となっている【悪夢】これを分身体が受けても、普通なら何も起きないんだけど、潤ちゃんのお姉ちゃんが抱いていた潤ちゃんへの強い劣等感や葛藤、自分自身への不満がもう一つの人格をスキルを介して生んじゃったのかも、独り言が多くなったのはおそらくその影響じゃないかなぁ」
「確かにたまに誰かに怒鳴ってる時あったけどアレって」
潤も今思い返せば、独り言にしてはおかしい気がした。
「たぶん、その分身体は潤ちゃんのお姉ちゃんの負の感情から生まれてるから、本人に嫌がらせ的な事をしてるのかも。だから、それを取り除く方法を模索、もしくは今以上に強くなれば消えると思ったんだろうね。そして、今回の事で消す事を諦めたから、怪物に殺されかけたショックとその八つ当たりが潤ちゃんに来たって事かなぁ。ウチとしても前代未聞な事だから詳しくは言えないけど、【分身】に異常が起きてるのは確実だね」
真那華にとってもこの現象は前代未聞で、もし実際にスキルが感情を持つなら隅から隅まで舐め回したい程に調べたいが、それは流石に潤には言えなかった。
真那華は知的好奇心が原動力の源なので、潤の姉、燐の状態は物凄く興味津々なのである。
「仮にそうだとしてどうやってお姉さんと仲直りするのよ」
聖蘭は真那華に潤が仲直りする方法を尋ねる。
「簡単な事だけど、これは潤ちゃんというよりお姉ちゃん次第かなぁ」
「え?僕じゃないの?」
「そう、分身をどうにかするには潤ちゃんの力が重要だけどぉ。潤ちゃんのお姉ちゃんが【分身】を使った瞬間、分身体は潤ちゃんのお姉ちゃんを間違いなく狙うからね」
「え?僕じゃなくて?」
潤は自分への劣等感で出来てるなら自分を狙って来ると思っていた。
「お姉ちゃんが言った言葉を思い出してみて、お姉ちゃんが最も許せないのは何?最も恨んでるのは何だったかなー」
「・・・・・・」
潤はそれを理解して黙ってしまった。
それは他の誰でもない燐自身である。
「実は分身体にとって潤ちゃんの優先度はそこまでないかもしれないんだよね。だからこそ、そこに付け入る隙があるかも」
「どうすればいいのかな?」
潤は期待の眼差しを真那華に向ける。
「潤ちゃんがお姉ちゃんを、分身体が折れるまで護れば簡単に解決するよ。こうなったら分からせるしかないでしょ」
「それをあなたが言うなんてね」
聖蘭は本来なら分からせられる側の人間が言ってる事に違和感を感じた。
「もし、本当にスキルに人格が宿ってたとして消せないの?」
潤からしてみれば姉を分身体から救いたいのである。
「出来たとしてもかなり困難を極めるかなぁ。もし仮に消せるなら潤ちゃんのお姉ちゃんはここまで苦労してないと思うんだよねぇ。だから、分からせるしかないんだよ」
「でも、お姉ちゃんの分身体に攻撃したらお姉ちゃんが!」
分身体のダメージは本人にも与えられる。
そのスキルのデメリットが潤の決意を揺るがす。
「話し聞いてなかったかな?ウチは護れとは言ったけど攻めろとは言ってないよぅ。潤ちゃんの型って騎士でしょ。それなら、護る者としての戦い方は分かるでしょ」
「・・・・・・そうだね。そもそも、僕にはそれしか出来ないよ」
真那華の言葉で潤は覚悟が決まったが、後は姉しだいなのであった。
次の日の休日、潤は姉のお見舞いに病室を訪ねる。
「おはよう、お姉ちゃん」
「おはよう、潤ちゃん。この前は急に怒鳴ってごめんね」
「ううん、いいよ。その代わり答えてくれない?」
潤は姉に【分身】の件に関して質問しようとしている。
「もしかして、この前言った事?それなら気にしなくても・・・」
「はぐらかさずに答えて欲しい。お姉ちゃん、僕に隠し事してない?」
「・・・何の事かな?もしかして、冷蔵庫にあったヨーグルトを勝手に食べちゃった事かな?」
姉はそれでもはぐらかそうとしている。
「やっぱり、お姉ちゃんが食べてたんだね!通りで減りが早いと思ったら・・・・・・てっ、違ーう、危ない危ない、危なくお姉ちゃんのペースに持っていかれる所だった。もう、いいこうなったら単刀直入、シンプルにいこう」
「潤ちゃん、一体どうしたの?いつもより変だよ!」
「変じゃない!!じゃなくて、お姉ちゃんなんで、昔はよく自慢していた【分身】を使わないの!」
「!!」
潤の姉、燐が見せる一瞬の動揺、それは真那華の言う通り【分身】に何か秘密があるからだ。
「それに最近独り言も多いから大丈夫かなって心配しちゃってさ」
「それはお姉ちゃんも潤ちゃんと同じ筋肉の声が・・・・・・」
「それは嘘、お姉ちゃんの筋肉からは鍛え抜いた筋肉達の歓喜の声が聞こえないからね。あるのは病室生活で増えた贅肉くらいじゃない?」
「な、そそそ、そんな事ないから!」
燐は病室生活で少し太った事を気にしていた。
「うん、じゃあ質問の続きといこうか。お姉ちゃん、聞こえてるんでしょ。自分の声が」
「!!・・・・・・な・・・・・・んで?ッ!!」
燐は危なく、「なんで、それを知っている!」と言いそうになり途中で止めたが、それこそが答えになってしまった。
「お姉ちゃん、やっぱり!!」
「いや、僕は何も言ってない!!ただの空耳だろ?」
「お姉ちゃん、往生際が悪いよ」
「・・・・・・」
病室内はしばらく沈黙に包まれる。
「いつ気付いたんだい?やっぱりあの時かな?」
「うーん、おかしいとは思ったよ。でも、お姉ちゃんも色々溜まってるんだなと思った程度だったよ」
「なら、どうして僕のスキルに異常がある事に気付けたんだい?」
「友達に相談したら、『ナイトメアアウル』との戦いの時におかしくなったんじゃないかと言われたよ」
「それはあり得ない、『ナイトメアアウル』にそんな力はない、何度も調べたんだ!」
「だってそれは『ナイトメアアウル』の力とお姉ちゃんの強い劣等感と葛藤そして【分身】が生み出したある意味、奇跡の産物だからね。本当は分かってるんじゃないの?」
「・・・・・・あの時、『ナイトメアアウル』との戦いから帰って来た時の事は覚えているかい?」
燐は潤に『ナイトメアアウル』と戦った頃の話しをする。
「僕が傷だらけで帰って来たのを覚えてるだろ」
「うん、傷だらけだったのは覚えてるよ」
「あの傷は『ナイトメアアウル』に付けられた傷じゃない」
「!!」
燐は当時何があったか語る。
燐は『ナイトメアアウル』を倒した。
「こんなものか!!こんな奴に父さんや母さんが!!何がS級だ全然弱いじゃないか。でも、やったよ。父さん、母さん、二人が倒せなかった怪物を僕が倒したよ」
燐が一人『ナイトメアアウル』を倒したことに酔いしれてた時だった。
燐の背後に刃が迫っていた。
「!?」
燐はギリギリでその斬撃を防ぐとその斬撃を放ったのは驚くべき事に自分の分身体だったのだ。
「残念、せっかく父さんと母さんと同じ場所に送ってやろうと思ったのにさ。嬉しいだろ。父さんと母さんが死んだ場所で死ねるんなら」
目の前の分身体は燐自身の意思と反して動き出す。
「なんだ、なんで僕のスキルが勝手に動いてる!?」
燐は自分のスキルである分身体が自分の意思に反して動いてる理由が分からない。
「一体なんなんだ。君は!!」
燐は声を荒げ分身体に剣を向ける。
「僕?それ僕に言ってるの?」
分身体はわざとらしく辺りを見渡す。
「他に誰がいる!」
「・・・・・・ひどいな。僕は黒鉄燐の分身体だよ。忘れないでくれないかな。君の一番の相棒だろ?」
分身体は燐を馬鹿にした口調で話す。
「何故、僕の意思で動かなくなった!!」
「さあね、それは僕も分からないよ。でも、僕が生まれた理由は分かるよ。それは君を絶望に沈めてから君の肉体を奪う事」
分身体も自身が生まれた理由は分からないが存在理由のみ存在している。
「だって、君弱いんだもん。だから、劣等感なんかに押し潰されそうになってんだよ」
「五月蝿い、君に僕の何が分かる。分かったらいつも通り引っ込め」
燐の【スキル】はいつもなら念じるだけでフェードアウトして消えていた。
「え?嫌だけど?何戻そうとしてんの?それって僕の自由だよね。それに僕以上に君を知ってる者がいると思うかい?」
しかし、分身体は消えようとしない。
「むしろ、君が消えなよ。偽者の君が、今度から僕が本物になってあげるからさ」
「それなら、力尽くでも消してあげるよ」
燐は分身体に剣を向ける。
「あらら、君頭大丈夫?僕を攻撃して痛い目を見るのは僕じゃなくて君自身なんだよ?まさか、燐ちゃんご自慢のスキルの効果忘れてないよね」
「畜生、そうだった」
燐は分身体を攻撃する事は自分を攻撃する事だと気が付いた。
「分かったかい?君は僕に手も足も出せない。でも、僕は出せるんだよ」
分身体は燐に剣を振るう。
「【無双連撃】」
「【無双連撃】」
分身体の攻撃に燐は同じ剣技で対抗する。
「流石、僕のオリジナルやるね」
「君の好きにはさせない」
燐はオリジナルに剣を向け、二人の応戦はしばらく続き、燐が分身体の剣を弾き飛ばしたのである。
「まさか、オリジナルと僕にも力の差があるなんてね。誤算だったよ。だから、次に奪う事にしよう。それまで精々生き残ってくれ」
「何度でもいってやる。君の好きにはさせない」
そう、燐が言うと分身体は消え、その日から脳内に分身体の声が聞こえるようになった。
「あの日、僕が傷だらけだったのは分身体と戦ったからなんだ。そしてあの日からずっと僕の頭の中であの分身体は語りかけてくるようになった。最初は質の悪い夢かと思ったが違った。だから、自分の弱さが見せてる幻覚なんだと思い込んだ。強くなればいつかきっとこの幻覚が消せるとこの幻覚が消えればまた、潤ちゃんと一緒に平穏な日々を過ごせるとそればかり考えて戦ってきた」
燐が語るその事実は、あまりにも重かった。
「ねぇ、お姉ちゃん。僕がお姉ちゃんより強くなると僕がお姉ちゃんから離れていくって言ってたじゃない?」
「それは!!」
「それはないかな。だって、お姉ちゃん一人じゃ、インスタントや惣菜ばかりで料理もろくに作らないし、着てた服もその辺に脱ぎ捨てたままだし、部屋の掃除もろくにしない。そんなだらしないお姉ちゃんを放っとく訳ないでしょ」
「悪かったね。不出来な姉で」
「でも、僕はそんなお姉ちゃんが大好きだよ」
潤にとって燐はいなくてはならない唯一の姉なのである。
「だからさ、出してよ。分身体、僕のお姉ちゃんを苦しめたそいつを分からせてやらないと」
潤の瞳は燐を苦しめた分身体に対する怒りで目からハイライトが消えている。
「えっと、潤ちゃん。分かってると思うけど、僕の分身体を痛めつけると僕も」
「それは分かってるよ」
「分かっててやるの!?」
(!?!?)
潤の鬼畜発言に燐と分身体はびびるしかない。
「大丈夫、お姉ちゃん。僕に任せて」
「任せたら、潰されるのお姉ちゃんなんだよ?大丈夫じゃないんだけど?」
(やめさせてくれ、なんとかやめさせるんだ!!)
燐は潤の振るうメイスが怖くて仕方ないのだ。
分身体も必死になって止めようと催促している。
下手をすると燐が戦った眷族の突進並の威力はありそうだからである。
「何か勘違いしてるけど、僕の戦い方は昔と変わらないよ。ただ防いで護る。それだけ、それだけで、お姉ちゃんの分身体を分からせる」
潤は燐に真剣に答える。
「そうか、・・・・・・ハハッ、いいね。僕の分身体は知らないんだ。僕が潤ちゃんの何に恐怖したのか。知らないんだ。本物の最強を!!分かった。見せてあげてくれよ。僕の分身体が本物の絶望に沈むまで」
(正気かい!?!?)
その二人の発言に分身体は滅茶苦茶焦っている。
そして、二人は昔よく一緒に特訓していた街の外れにある広い平地に向かった。




