兄の日常2
真那華と聖蘭が配信を開始する少し前、承はいつも通り雑務課の仕事をしていた。
「よう、仕事は順調か?」
声をかけて来たのは北条誠一、管理局研究課課長である。
「まぁまぁ、それなりに・・・・・・どうしたんだ?」
「まぁ、厄介な奴に厄介な面倒を押し付けられてな」
北条は彩海に言われた件の事を言っている。
「手がいりそうなら手を貸そうか?あんたは俺達の恩人だからな」
「兄はこれなのにどうして妹は・・・・・・」
北条は宗像家の兄は、しっかりしてるのに妹はどうしてあんなに引っ掻き回すのかと頭を抱えてしまう。
「『ウィザードウッドゴーレム』を覚えているか?」
「俺と真那華が試験をした時、俺が倒した奴だな。そいつがどうした?」
「その厄介な奴が、そいつが落とした宝玉を所望してるってところだ。しかも二つ、ふざけやがって」
北条は承に彩海の無茶振りを愚痴る。
「確か特定高難易度と呼ばれる難易度でS級がいないと潜れないんだったな」
「S級は最低でも一人必要だその上でA級以上を入れて最低でも三人以上が条件になっている」
「C級の俺には無理な話しだな。力になりたいが、これじゃあな」
承はC級なので力になりたくてもなれないのである。
「・・・・・・実績が欲しいか?」
「あるのか?」
「一つあてがあるが、怒らないか?真那華のお嬢ちゃん」
「まぁ、出張と言っておくが、あいつ何故かこういう時の勘は鋭いからな」
真那華は何回か承がダンジョンに行こうとすると毎回ついていこうとしていた。
「まぁ、どういった内容かまず聞こうか」
「内容は先週東京の八王子で発生したダンジョンだ。基本的にダンジョンは先遣隊がダンジョン内の確認を行ってから解放するのが通例なんだが・・・」
「戻って来ないのか?」
話の内容で承は先遣隊が戻って来ないことを察した。
「だから、ダンジョンのランクは不明のアンノーンを意味するU級となっている」
ダンジョンのランクは管理局が派遣する先遣隊がダンジョンに入り測定する。
先遣隊の目的はダンジョンランクの測定なので、ダンジョンの奥まで入る事はおろかボスとの戦いは行わない。
「情報は何もない状態で潜る事になる。はっきり言って中がどうなってるか分からん」
「まぁ、それは慣れているから問題ない」
承は真那華と一緒にダンジョンに迷い込んだ時は最初から情報などなかったので、関係なかった。
「それでも引き受けてくれるなら相手側に話しを通そう。相手側の『潜行者』は誰も引き受けてくれないらしいからな。すぐにいい返事をもらえるだろう」
「さて、俺は仕事に戻るとするよ。北条さん、返事が来たらスマホに連絡してくれ」
「ああ、すぐにでも連絡しよう」
承は北条と分かれしばらく歩いていると工房エリアで揉めてる声を確認する。
「おい、今日は例の職人はいないのか!」
「ここの工房エリアの使用は職人さんの自由ですから、装備が欲しいならここではなく職人さんの工房に伺えばよろしいのでは?」
「その工房の場所が分からないから、ここまでわざわざ大阪から飛行機と電車で来たんじゃないか!」
怒鳴ってるのは、聖蘭の作る装備が目的でわざわざ飛行機を使ってやって来た中年の男性が聖蘭がいないので職員に絡んで文句を言っている。
「悪いが変わってくれ、ここは俺がやっておく」
「お、お願いしますぅ」
クレーム対応も雑務課の仕事のうちの一つである対応している職員と代わる。
「なんだ?若僧が?俺に何か言いたげだな」
「申し訳ありません。お客様が探している職人というのは第二、第四土曜日のみここで鍛治を行っていまして本日は日曜日なのでいらっしゃいません」
「知るか!そんなのそっちの都合だろ!俺は!貴重な休日を使って飛行機でここまで来たんだぞ!」
承は丁寧に対応するが中年の客は話しても無駄なようだった。
「そうですか?ちなみに何を御依頼させるつもりだったのですか?」
「そんなのバトルアックスだが?噂では凄い職人だそうじゃないか。だから、わざわざ休みを使ってここまで来たというのに!!」
「ああ、左様でございますか。ちなみに素材は持ち込みなのはご存知ですか?」
「は?素材は持ち込み?」
中年の男性は素材を持ち込まないと対応してくれない事は知らなかった。
「その様子だとどの道、第二、第四の土曜に相手はしてもらえませんでしたね」
「はぁ?素材は持ち込みだと?ふざけんな!それは職人側が用意するもんだろ舐めやがって」
「その職人はオーダーメイドしか取り扱っていない為、素材を持ち込みどんな武器にするかお客様と相談して鍛治を行っているので自分で素材を用意し持ち込むことになっているんです。あれだけの職人が料金を取らないだけ、むしろ良心的ですが」
ちなみに料金を取っていないと言うが、一部の客は将来への投資としてお金を出す者もいる。
「知るか!素材を持ち込んだところで出来る武器はどこの職人に作らせても変わらないだろ!」
「今、どこの職人に作らせても変わらないといいましたね」
「言ったが、それがどうした?」
この中年の男は自ら墓穴を掘った事に気付いていない。
「それなら、何故その職人にこだわるのですか?ここには他の鍛治職人がたくさんいますよ。どこの職人が作っても変わらないのでしょう?」
「うぐぐ、お、お前の顔覚えたからな!覚えておけよ」
中年の男は三下のような言葉を吐き捨て工房エリアを出て言った。
その様子を見ていた職人達や潜行者達はスカッとしたようで拍手や喝采が巻き起こる。
「流石、聖蘭ちゃんの騎士様と言われるだけはあるな」
承は、第二、第四土曜日は聖蘭を気にかけて何度か工房エリアを回っているため、一部の職人にはそう思われている。
「彼女はまだ未成年だ。大人が気にかけるのは当然だと思うが?」
「でも、聖蘭ちゃんのおかげでここも活気が出て来た。以前までは地元の潜行者しか来なかったが、さっきの奴みたいなのはごめんだが県外から来る潜行者も増えたな」
聖蘭が工房エリアに与えた影響は大きく県外から武器を新調する潜行者が増え職人達は喜んでいる。
「たぶん、ああいう連中はこれから増えて来ると思う。一応、その対策を管理課の方に依頼しておくよ」
承は今回のクレーマーのメモを取る。
「いつもありがとな」
「それじゃあ、まだ仕事が残ってるので」
承は工房エリアを離れ、管理課へ向かう。
「あ、承さんじゃないですかお疲れ様です。日曜日なのに管理局は大変ではありませんか?」
須藤管理官こと須藤佳奈は承に挨拶する。
「確かに平日と変わらないぐらい人がいるな。須藤さんはダンジョンの帰りか?」
「この前の決闘で衰えを感じましたからね。やっぱり、書類仕事ばかりだと腕が鈍ります。『深淵の樹海』の攻略が再会されるのがいつか分かりませんが、勘を取り戻さないといけません」
須藤は真那華との決闘による敗北で自らの衰えを感じダンジョンに潜り勘を取り戻そうとしている。
「須藤さんは【模倣】以外のスキルってどうなってるんだ」
「あまり、自分の手の内は晒したくないんですが、【闘気】、【弓術】、【感知】、【治癒術】、【結界魔術】、【調薬師】ですよ。私は戦闘での実績じゃなくてサポートでの実力と実績でSランクなんですよ」
潜行者のランクは戦闘だけじゃなくサポートも評価される。
その為、サポーターでS級は世界的に珍しくないのだ。
世間一般では勘違いされがちだがS級は強いと思われている。
ダンジョン内での生存能力の高さの指標それがランクなのである。
この生存能力の高さは個人と同時に集団も含まれるため、サポーターも評価基準に入るのだ。
なので、ヒーラーだからといって評価されないという事にはならない。
「それに黒鉄燐は私の後輩で燐がS級になったばかりの頃はほぼ互角だったんですけどね。あっという間に置いてかれてしまいましたよ」
須藤は昔のことを思い出す。
「でも、燐が言ってた事があるんです。自分が唯一勝てない存在がいると、今考えても意味が分かりませんでしたけどね」
「つまり、ランクの指標は単純な強さではないと言う事だな」
承は黒鉄燐の話しはともかくとしてランクの指標は戦闘の強さだけではないと知った。
「そうですね。ランクの更新も管理局の仕事です。そして、それを決めたのが世界潜行者機関です。そして、正確には潜行者機関付属管理局日本支部ですが、長いのでほとんどの方は管理局といいますね。管理課、研究課、鑑識課、刑務課、雑務課で構成されてます。刑務課だけは東京の府中刑務所の中にあります」
「俺達がダンジョンに迷い込む前は管理局はおろか、四大家もなかったしここまで建物が並ぶような都会でもなかった。50年でなにもかも変わったんだな。いや、あの大災害が全てを変えたのか」
承は自分が知ってるものが、ほとんどなくなった事を憂いている。
「そもそも、杜乃宮市は『深淵の樹海』を管理する為に作られた都市ですからね」
杜乃宮市は『深淵の樹海』を中心とし宮城、福島、山形の県境付近に位置し、山を切り拓いたところを都市開発して造られたのが杜乃宮市である。
「潜行者が最も集まる都市と言われてるんだっけか?」
「杜乃宮市の潜行者の人数は年々、増加傾向ですね。『深淵の樹海』があるというのもありますが他にも近くにA級ダンジョンが三つもありますからね」
日本国内には五つのA級ダンジョンがあるが、杜乃宮市のダンジョンを除くと、西宮院家が管理する『魔鉱洞窟』、琵琶湖の水中にある『水没洞窟』である。
「ダンジョンといえばさっき北条さんから八王子で発生したダンジョンに潜らないかと言われて了承したんだが」
「その件なら聞いてますよ。元々、私と燐で行く予定でしたけど、そこに承さんを加えるつもりですね。まぁ、確かに承さんはS級相当の実力はありますし、適任かと思います。でも・・・」
「どうかしたか?」
「燐の方が納得するか、彼女はもの凄い実力主義なんで、私も会った時何て言われるか怖いです」
そのこともあるので須藤は鍛え直しているのである。
「まぁ、たぶん承さんは大丈夫な気がしますだって最強を超えた理不尽ですから」
須藤から見ても承の力は理不尽極まりないのである。
「それ、実は結構気にしてるんだよな」
承は倒すだけで怪物を素粒子レベルまで粉々にしてしまう為、素材が回収出来ない事を一番気にしており、その次に気にしてるのが努力の末手に入れた力を理不尽呼ばわりされる事であった。
「そうなんですか?あのクソガキが連呼するから大丈夫なものかと」
「真那華に言われるのはまだいいんだが、他の人に言われるのはきついものがある」
真那華はノリが軽いのでまだ聞き流せるが、他の人に言われるのは人間扱いされてないようで嫌なのである。
「ご、ごめんなさい、まさかそんな気にしてると思いませんでした」
「まあ、それはいいんだが。それに『インフィニティエタニティ』あんたが言う『無限と永遠の権能』真那華は俺が倒したと言っていたが、俺はアレを倒した実感がない。いや、そもそも倒せないと結論付けた」
「そもそも倒せないとはどういう事ですか?」
「一度だけ龍種を倒した事がある。アレはまだ自然という理の中の存在だ。だから、倒せた。だがアレは違う、アレこそ本当の理不尽、理の外の存在だ。アレにはそもそも敵意や悪意、善悪など存在しない。ただそこにあって影響を与えられるだけの存在だ。概念そのものが影響を与えてると言っていい。アレは人が超えられるものじゃないんだ。そして、ここから導かれる事でもう一つ気になってる事がある」
「なんですか?」
「俺達が使うスキルや魔力は一体何の権能が働いているんだろうな?」
「!!」
ダンジョンの怪物に概念という権能が力を与えるならスキルと魔力も何かしらの権能が働いていると承は予測した。
それはスキルや魔力を使う誰もが考えなかった事で須藤もその言葉を聞いて驚愕するしかない。
それは最低でも地球規模で権能が働いてる事を意味するからであった。




