一人足りない
北条は鑑識課の彩海に呼び出された。
それはスキル研究局が解体された事と関係している。
「北条君さー、この前の『ウィザードウッドゴーレム』の宝玉の件なんだけどね」
「キャンセルか!」
北条の声色は清々しい程に明るい。
「スキル研究局がなくなったからと言って、そんな訳無いじゃない。ダンジョン研究所が研究に使いたいからサンプルをあと二つ欲しいそうよ」
北条にとって数が減ったところで大変な事に変わりないのだ。
真那華か承の力を借りれば楽勝だが、C級を何度も特別扱いすると他の高ランクの『潜行者』は納得しないだろう。
特にS級である黒鉄燐は、自他共に認める戦闘狂で何度も起源ダンジョン『深淵の樹海』の探索許可の申請を出しているが、起源ダンジョンには最低一人S級を入れてA級以上を含む三人以上のパーティが申請を出し承認を受けて許可を出す大前提がある。
しかし、何処から聞いたのか宗像兄妹の話しを聞き挑戦させろと五月蝿いのだ。
「簡単に言ってくれるな」
「須藤ちゃんは駄目なの?」
「須藤管理官は、とある『潜行者』に負けたのが悔しくてA級ダンジョンに入り浸りだ。書類仕事ばかりでだいぶ鈍ってた事に気付いたから鍛え直すらしい。まったく無茶をしなければ良いが」
須藤は真那華に負けてからというものショックで落ち込んでたが、今ではA級ダンジョンに入り浸っている。
「その話しは聞いてるわ。その戦った子に頼めないの?」
「馬鹿言うな、彼女はC級ましては学生だぞ。それに分かるだろ」
北条は彩海に察して燐が五月蝿い事を分かって欲しかった。
「ああ、黒鉄燐ね。むしろ、渡りに船じゃない。誓約書書かせれば責任は逃れられるし、丁度いいじゃないの?」
「馬鹿言え、奴の両親はB級ダンジョンのボスに殺されてるんだぞ!奴が死んだら妹の面倒は誰が見る。あまり無責任な事は言わないでくれ」
北条は彩海の無責任な発言に呆れを通り越して怒りを覚える。
管理官の課長クラスは有名な『潜行者』の家族構成や個人情報をある程度把握しており、特にS級となると課長クラスでなくとも大抵の管理官は知っている。
「まぁ、ダンジョン研究所も急ぎでは無いって言ってたから気長に待つ事にするわ。ところで知ってる?」
「何がだ?」
「第二、第四土曜日に工房エリアで凄腕の鍛治職人が整理券の抽選で当たった十名に装備を打ってくれるらしいわよ。まぁ、抽選できる条件は高純度以上限定の素材持ち込みのなかなか厳しい条件だけど」
彩海のいってる凄腕の鍛治職人とは、東城寺聖蘭の事である。
「話には聞いている。また、とんでもないのを発掘したな真那華のお嬢ちゃん」
北条は遠い目をして外を眺める。
杜乃宮学園の昼休みに聖蘭が真那華に相談していた。
「魔填銃製造の依頼が来たって言われてもねぇ。『対滅玉』はもう作りたくないよ」
真那華は『対滅玉』を一度作れば十分だった。
「それは私も嫌よ。そもそも素材は向こうが用意するって言ってるから『対滅玉』は向こうが用意する事になるわね」
聖蘭も『対滅玉』を作るのが大変なのを理解してるので二度とやりたくなかった。
「まぁ、星核でも代用可能なんだけど」
「はぁ!まさか、あんなに苦労したのに?」
真那華はもっと楽な方法があったのを話し、聖蘭は叫ぶ。
「だって、あの設計図には全ての属性に対応可能にするって書いてあったから」
「まさか、あの無茶振りを叶える為に『対滅玉』を!」
聖蘭の無茶振りを真那華が叶えるためにやったと考えると怒るに怒れなくなった。
「でも、何で星属性?」
聖蘭は魔法でよく使われてる属性は知っているがあまり使わない幻と星は分からなかった。
「星属性も一応、他の属性の影響を受けにくいけど同じ星属性相手だと対応出来ないからね」
「まぁ、元々星属性の怪物自体が元々少ないから影響が少ない訳ね。」
「そうそう、星属性ならある程度は対応出来るからね。でも、残りの二つは魔填銃には必須の素材だから頑張って用意してもらってね」
その二つの素材とは最高純度の『蓄電結晶』と『魔龍玉』である。
「『対滅玉』の時に難易度を数字で言ってたけどどれくらいなの?」
「『グラフェンナーワル』がレベル20だったらって話し?」
「そうそれね」
「最高純度となると『蓄電結晶』は105、『魔龍玉』は90と言ったところかなぁ」
(やっぱり、『対滅玉』は難しかったのね、)
真那華は難易度を数字で表すと聖蘭は改めて『対滅玉』の難易度を実感した。
その様子を見るクラスメイトは、「あんなに仲良かったっけ?」、「何だかんだ言って仲良かった気もするが?」、「聖蘭ちゃん、最近よく笑うようになったよね」、「物腰も柔らかくなってるし」、「この前、ネイル没収されそうになったけど厳重注意で終わったんだよね」、「銃を手にしてからだよな」、「【射撃術】が活用出来るようになってから変わったよな。いい意味で」
クラスメイトは聖蘭の変化を好意的に捉えている。
「ところでさ、聖蘭ちゃんチーム組まない?」
チームとはダンジョン攻略を専攻する学校にはダンジョン攻略の部活がない変わりにチームを組む事が出来る。
「気が早いわね。資格の試験は明後日なんだけど、それにチーム組むには資格取得者三名以上必要なのよ。あと一人足りないわ」
学校にチームを登録する上で資格取得者が三名以上必要な為、聖蘭が入ったとしても一人足りないのだ。
「でもでも、私と聖蘭ちゃんについて来られそうな同級生が一人しかいなかったんだよね。私の知る限りアソコまで強い逸材はなかなかいないね」
真那華はその辺のセンサーは鋭かった。
「え?誰?」
聖蘭も真那華が認める実力者が知りたかった。
「この前、A組にいたんだよねー。ほら、背が、背が・・・・・・うぅ」
真那華は身長が低い事をかなり気にしてるのでどんどん凹んでいく。
「もしかして、黒鉄潤さんの事?」
真那華の話しで何となく聖蘭は察したのである。
「でも、あの子学業の成績は中堅くらいだけど『潜行者』としては落ちこぼれよ」
「嘘だ!そんな訳ないよ!どう見ても強そうじゃん!」
落ち込んでいた真那華だが、聖蘭の言葉で復活する。
「確かに資格は持ってるけど、ダンジョンに行ったなんて話し聞いた事ないし、去年一度だけ見たけど模擬戦でも鈍いの一言ね」
「ウチからしてみれば全員、鈍いけどね。亀さんかな?」
「貴方ねー」
実際、真那華からすると最近の聖蘭はともかく全員鈍いのである。
「ちなみに型は?」
「なんの変哲もない普通の剣士よ」
「アレで剣士ねぇ」
真那華は一度見た事はある程度だが、何か違和感を感じた。
「今度、模擬戦挑んでいい?」
「貴女がやったら弱い者イジメになるからやめなさい。もし、気になるなら私がやるけど」
「いや、こればっかりは自分の目で確かめたいからね。放課後、隣のクラスにいたら話してみようよ」
真那華と聖蘭が放課後教室に行くと潤は既に帰っていた。
ギルド『バルムンク』そこは西宮院昴がギルドマスターをするギルドである。
「最近、ギルマス機嫌良いけどアレどうしたの」
灰色のメッシュが入った黒髪のショートヘアーで軽装の長身の女性が、同じギルドの後輩に聞く。
「とうとう、ギルマスに春が来たらしいです」
どういう訳かギルド内の噂の一部は変な事になってしまってる。
「へぇ、あのギルマスに女ねぇ、彼女さん可哀想」
「こら!燐さんに変なこと吹き込むな!この人信じやすいんだから!すいません、燐さん。こいつまだ入ったばかりで」
後輩の先輩に当たる人物が燐に頭を下げる。
「まあ、いいよ。あの鬱屈としたギルマスがあんな風になるのが珍しいと思っただけだからさ?それにしても、この剣見てよ」
「その剣がどうか・・・・・・まさか!!」
「うん、僕も半信半疑だったけどこの剣を使うと他の剣が使えなくなるよね」
燐は剣を弄びながら見せびらかす。
「!?!?」
燐は後輩の首筋に剣を添えている。
「あのさ、僕は寛大だから大抵な事は許すけど一つだけ許せない事があるのさ。何か分かるかい?」
答えられなければ斬るという圧が燐の瞳から伝わる。
「・・・・・・ど、童貞とか?」
「・・・・・・・・・・・・」
その場の空気が凍り付く。
「ハハ、ハハハ、君面白いね。童貞は恥じる事じゃない。これからこれから。金額しだいで僕が貰ってあげてもいいよ。うん、君は合格だ。僕が最も許せないのは弱い者さ。正確に言うと弱い者が身の丈に合わないことをする事。でも、君は僕に恥を忍んで答えてくれた。その度胸は強さだよ。胸をはっていい」
燐は上機嫌でその場を離れる。
「・・・・・・よ、良かったな。あの人の質問に答えられなくて耳を斬られたのを何人も見ている。お前は運がいい。あの人にとって答えの内容なんてどうでもいい。答える事が重要なんだ」
先輩は後輩をフォローする。
「一体何なんですか?あの人は?」
「黒鉄燐、『バルムンク』最強にして日本に二人いるS級潜行者だ」
「あ、あの人が、双刃!?」
双刃とは黒鉄燐の二つ名である。
燐は一人ダンジョンへ向かう。
「もしもし、潤ちゃん。今日お姉ちゃん遅くなるから料理はラップして冷蔵庫入れといて。うん、いつもありがとう・・・・・・」
燐は潤に話終わるとダンジョンに突入する。




