聖蘭の真価
聖蘭は本邸にいる義父の部屋を通された。
「何故、呼び出したか分かるか?」
東城寺厳蔵、その圧倒的な圧はかつて『ウォーリアウッドゴーレム』との戦いで戦果をあげた将として衰えてはいない。
彼の引退の理由は妻が病で伏せたこと、そして長男と次男が後継者争いを始めた事だった。
「はい」
「・・・・・・一つ聞く、聖蘭お主、ワシが今も怖いか?」
「はい」
「何?」
「と以前の私なら答えていたでしょうね。私はどうやら自分で思っていた以上に負けず嫌いみたいなの。怖くないわ。ただの老いぼれに負けると思う?」
聖蘭は無意識に厳蔵を煽っていた。
「ははっ、言いよるわ。話しは聞いている。よくぞ・・・・・・よくぞ・・・・・・自分の力を見出した」
「私だけの力じゃないわ。ただ、面倒な友達が助けてくれた。それだけよ」
「そうか、では見せてもらおうかその力を。炉の準備をさせるその間に話しでもせんか?」
厳蔵は聖蘭の目の前にお茶菓子を出す。
「スキル研究局への研究投資アレをさっき打ち切った」
厳蔵も今回の件で思う事があったのかそんな事を言い出した。
「言い訳に聞こえるかも知れないが、そもそも、あの投資は龍次が言い出した事だったのだ。ワシはお前のスキルを調べる事を条件に許可を出した」
知られざる事実が、義父の口から語られていく。
「だが、奴等はそれを放棄し約束を反故にした。龍次には上手くいいくるめられていたが、もう我慢ならん。ワシが知らんとでも思ったか、奴等の数々の不正がな。バレないと思っていたようだが侮るでないわ!!」
「それと私の【錬成鍛冶】がどう関係してくるのよ」
「龍次は未知のスキルで調べるのには準備がいると言い訳を続けておった。だから、どうしても【錬成鍛冶】を使えるようにして欲しかったのだ」
厳蔵からすると、義理とはいえ愛する末っ子に任せるのは心苦しい賭けだったが、厳蔵は彼女の持つ不屈を信じる事にした。
厳蔵が助け船を出すと勘が鋭く狡猾な龍次が何を仕掛けて来るか分からないから手が出せずにいた。
「そして、これでスキル研究局に出資する理由がなくなった訳だ。その事でお前には辛い思いをかけたなすまなかった」
「謝らないでよ。それのおかげで目指すものが見えたわ」
「!!」
「あの問題児には借りが出来ちゃったし、放っておけないからね。それに負けっぱなしはやっぱりくやしいから目指すわ。最強って奴を」
聖蘭はかつてない程清々しい表情をしていた。
「その覚悟は認めるが、もう一つ解決しなければいけない・・・・・・」
「あぁ、それなら【錬成鍛冶】が扱える事によって解決出来る事に気付いたの。まったくどこが産廃よ。完全なブッ壊れじゃない。本当、今まで悩んでたのが馬鹿みたいにな程にね」
「話しには聞いていたがそこまでなのか!」
厳蔵は話しを聞いただけでそのスキルの全容を知らない。
「お義父さんには話してもいいかな」
聖蘭は【錬成鍛冶】について話すと厳蔵は涙を流し喜んだ。
その話しが終わると炉の準備が出来たので炉のある所に向かう。
一方その頃、東城寺龍次は焦っていた。
その理由は東城寺からの研究投資が一方的に切られたからである。
東城寺龍次はスキル研究局に研究投資を出す代わりに兄の政治活動の妨害と自身の支援を依頼したのだ。
しかし、厳蔵が研究投資を打ち切った為、スキル研究局からの支援を得られなくなるどころか兄にしていた妨害工作が機能を失い始めたのである。
その理由は既に龍次の耳には入っており、無能の義妹が【錬成鍛冶】を使えるようになっていて、それがとんでもないスキルだと知った時は、もっとスキル研究局に調査させるのだったと後悔してるくらいだった。
そして、その【錬成鍛冶】を使えるようにしたのは例のクソガキこと真那華であった。
スキル研究局は、真那華がスキルの間違いを明らかにした事でスキル研究局が長年かけて国民を騙した嘘が発覚、そして今回の東城寺から研究投資を切られた事が重なり、スキル研究局は龍次に構うことなど出来なくなったのだ。
そして、それが原因で国からの補助金も切られそうになっているという。
「クソっ、クソっ、クソがー、全て、全て上手くいっていたんだ。最後の最後で邪魔をしやがってあのクソガキ共がー」
龍次は本邸に聖蘭が呼び戻されたと報告を聞き急ぎ本邸へ車を走らせる。
「あのクソ親父、分かってんだぞ。テメェが一番聖蘭を溺愛してる事をな。テメェの書斎、聖蘭の写真ばっかでドン引きだったわ。許せねぇ、絶対に許せねぇ。東城寺の全ては俺のものだ!それはもちろん聖蘭もだ。アイツの【錬成鍛冶】アレは金のなる木だ。絶対に手に入れてやる」
龍次はやっと本邸に到着すると使用人に止められる。
本邸は例え身内だろうと主人である厳蔵が呼んだ者しか入れないのだ。
「おい、俺様が誰か分からないのか?東城寺龍次だ。親父に話しを通せ!息子が会いに来たとな!」
しかし、使用人は動こうとしない。
「おい、俺様を無視しようなんていい度胸だな!」
龍次は使用人の胸倉を掴む。
「なんか、うるさいと思ったら龍次坊ちゃん。嫌々失礼今はただの龍次さんでしたね」
龍次の目の前に騒ぎを駆けつけてやって来た本邸の館長がやって来た。
「どういう・・・・・・事だ・・・・・・」
「これは龍次様がもし本邸に来た時に渡すよう厳蔵様から預かった書状です。お受け取り下さい」
龍次は動揺しながら受け取るとそれは『絶縁状』と書かれた書状だった。
「ふ、ふざけるな!ふざけるなよ。こんな紙切れ一枚で!俺様が一体何をしたあああ。認めねぇぞ!!俺様は絶対認めねぇ!いいからそこをどけろ」
「認めないといわれましても、これが厳蔵様の決定ですので、もしまだ無理矢理入ろうとするなら、不法侵入もしくは不法退去で警察を呼びますよ」
「警察だと!?そんな事許される訳ないだろ!いいからそこを通せ!俺は親父に用が・・・・・・」
そんな話しが延々に続き、しばらく経つと警察が到着し龍次を捕まえる。
「お前ら、絶対に覚えておけよ。絶対にただじゃおかねぇからな」
龍次はそういうとパトカーに押し込まれ連れて行かれる。
そんな騒ぎの中、本邸内では聖蘭は【錬成鍛冶】を実践していた。
取り出したミーティアハンマーは【鍛冶職人】が振ってもただのハンマーだが、【錬成鍛冶】が振えばその真価が発揮される。
「な、なんだ、あのハンマーは、いや、まさか、何処でそんな・・・・・・」
厳蔵はそのハンマーの素材を当然知ってる為、動揺しているのだ。
アレは国内でも『魔鉱洞窟』で取れる希少な鉱石で西宮院が独占している為、市場に出回る事が滅多にない鉱石、ミーティアライトのハンマーである。
そして、聖蘭が叩いてるのはかつてダンジョンの中を探索してる時に見つけた竜の遺骨の一部であった?
柄の部分はかつて厳蔵が使っていた刀の柄を流用して刃を取り付ける。
「名前は水幻刀、お義父さん振ってみて」
「ああ」
厳蔵は水幻刀を受け取り握る。
「なるほど、どうやらお前の友達は相当の目利きらしい。これは確かに世界の常識をひっくり返す」
厳蔵は刀を持った瞬間に力を感じたと同時に刃が濡れてる事に気付く。
厳蔵はあの死骸の竜が持ち得た力の一部が刀に現れているのを見て【錬成鍛冶】のあまりのブッ壊れに厳蔵は衝撃を受けた。
「そうか、そういう事か、確かにその方法なら、今までなら絶対に不可能だった事が可能になる!」
実演で実際に見て厳蔵は聖蘭の戦闘においての問題点を解決出来る方法を理解した。
そして、絶縁状を叩きつけられた龍次は警官の意識をスキルによって奪いパトカーから出て来た。
「このまま、終われるか!!クソジジイが、俺様が大人しくしてるからって調子に乗りやがって、いいだろう。これならテメェも逃げられまい」
龍次は入口を守る使用人をボコボコにし、本邸へ侵入する。
「龍次さん、先程警察官に連れて行かれたはずでは!」
「知らねえよ。俺様に楯突いたんだ死んでないだけありがたく思え!例えテメェでも邪魔するなら入口に倒れてる奴等みたいにボロ雑巾みたいにしてやるぞ?」
「既に貴方は部外者です。侵入者は撃退するのみ」
「はっ、相変わらず融通のきかねぇ奴だ」
館長は警棒を龍次に振るうが龍次は軽々と避ける。
「おせえなぁ、欠伸が出るぜ」
龍次は館長に素手や足による打撃を連続で叩き込む。
「ぐはああああ」
「いい加減しぶといぜ沈みなぁ!」
龍次は館長にアッパーを放つと館長が浮き上がるとそのまま蹴り飛ばす。
「あぁ、やっぱり弱いな。いや、俺様が強過ぎるだけか」
龍次は館長を倒し先にしばらく進むと厳蔵と聖蘭が楽しく会話をしていた。
「よう、楽しそうだな。俺様も混ぜてくれよ」
その言葉を聞いて最初に驚いたのは厳蔵だった。
「龍次!?警備の使用人達はどうした!」
「ああ、あの木偶の坊共なら今頃おねんねしてるぜ。聖蘭を渡せ。それが叶えば綺麗に縁を切ってやるよ」
聖蘭は龍次にとって東城寺家の縁を切られても利用価値のあるものだった。
「そうか、それが狙いかだが娘は渡さん」
「へぇ、それはいい。知ってんだぜぇ、現役を離れて何年経つ?未だ現役とほざいてるが、既に身体はボロボロで戦う力も残っていない。気迫だけで誤魔化している。親父が薬漬けなのを俺が知らないと思ってたのか?」
龍次は厳蔵が引退した本当の理由を知っている。
それは、ダンジョンで受けた毒がジワジワと厳蔵を蝕んでおり、解毒は出来ず薬で抑えるのがやっとで『潜行者』の引退を余儀なくされた。
「『ベノムアナコンダ』コイツから受けた毒はコイツから得られる血清でしか治療出来ない。だが、コイツはとてつもないレアエネミーだろ?知ってるんだぜぇ」
龍次は厳蔵の受けた怪物の正体を知っている。
それは龍次が厳蔵の弱味を調べてる時に出て来た情報だからだ。
「その血清、実はあるんだぜ。なぁ、もし聖蘭を俺に譲れば、その血清くれてやってもいいが?血清があれば薬による苦しい副作用もなくなるんだぜ。悪くない取引だろう?」
龍次は厳蔵が欲しい物を分かった上で取引を持ちかける。
「本当に聖蘭を渡したら、血清を譲ってくれるのか?」
「お義父さん!?」
「ああ、約束するぜ。聖蘭の身柄とギブアンドテイクだ」
龍次は嫌らしい笑みを浮かべる。
「だが断る」
「ナニッ!?」
しかし、厳蔵は断る。
「ワシの娘とワシの命を天秤にかけたようだが甘いわ!そんな見え透いた嘘が、通ると思うなよ。小童が!」
龍次の言った通り『ベノムアナコンダ』の毒は『ベノムアナコンダ』から取れる血清でしか解毒できないのは事実である。
それでは何処が嘘なのか、それは龍次も言った通り『ベノムアナコンダ』がレアエネミーだという所で、そんな簡単に見つけられない上にA級指定のダンジョンのレアエネミーなのでその強さはS級に匹敵する為、龍次では倒すのも困難そこから血清があるのは嘘だろうと見破ったのだ。
「そうか、コレで上手くいけば一番良かったがやはりコレしかないか」
「何を企んでいる」
「企むとは人聞きが悪い、古来の歴史に則って四大家立ち会いの決闘で決めようというわけだ」
四大家立ち会いの決闘は四大家内で何かトラブルが発生した際、決闘で決めるというもので昔はよく行われたが、今は既に廃れつつあった。
「まさか、逃げねえよな。せめてもの情けだ。決闘の場所は森、そして戦うのは聖蘭お前だ。感謝しろよ。【射撃術】とかいう産廃を活かせる地形にしてやったんだからよ」
龍次は厳蔵の代わりに聖蘭を参加させる事で厳蔵の心を完膚なきまで叩き潰せ生意気な妹も躾出来るという意味でこの案を提案した。
「聖蘭いいか?」
厳蔵の言葉に聖蘭は黙って頷く。
「四大家に声をかけないとならないからな。詳しい日程が決まったら手紙を送る。いいか、逃げようなんて考えるなよ」
そう言うと龍次は満足そうに本邸から出て行った。
「すまない聖蘭、ワシが不甲斐ないばかりに」
「そんな事ない、コレは私が越えないといけないものだから、それに兄さんは絶対に勝つ自信がある。見くびっていてくれた方がやりやすい。えっと・・・もしもし、真那華」
聖蘭は早速、対策を相談出来る相手に電話する。




