錬成鍛治の真髄
真那華と聖蘭は管理局の工房エリアにある鍛冶場に到着した。
「いやー、流石に炉があるから熱いねー」
「まったく、貴女みたいな服装なのと一緒に出歩いて視線が痛かったわよ」
真那華がショートパンツにヘソだしデニムという格好に対し、聖蘭は紺のワンピースである。
「でも、この後作業着に着替えるじゃん」
「流石に作業する格好ではないからね。着替えて来るからちょっと待ってなさい」
聖蘭は更衣室に行き真那華が待っていると兄の承を見かける。
「あ、兄ぃじゃん。仕事?」
「いや、少し用があったから寄っただけだ。お前こそどうした?工房にいるという事は例の件か?」
承はリスナーに抽選で配ると言った『グラフェンナーワル』のレイピアの製造の件だと思っていた。
「それはまだ、保留だよぅ。それに兄ぃもびっくりするような職人を見つけたからね」
「ほぅ、お前のお眼鏡にかなうとは少し興味あるな」
承は我儘でこだわりの強い真那華のお眼鏡にかなった職人が気になった。
「やっぱり、兄ぃならそういうと思ったよ。おそらく今日、世界の常識が一つ変わっちゃうかも」
「そこまでの職人か。まさか、【鍛冶職人】ではない鍛冶が出来るスキルを見つけたのか?」
「うん♪ウチもびっくりしちゃった。あんなとんでもスキルが埋もれてたなんてね。まぁ、まだ仮説なんだけど」
「お前が仮説を外した事あったか?」
「それもそっかー、ウチ天才だしね」
「着替えて来たけど・・・・・・誰と話してるの?」
真那華と承が話してると作業着に着替えた聖蘭が戻って来た。
(な、なんて清潔感のあるカッコいい男性!!え?真那華さんってこの男性と!?)
「ああ、これウチの兄ぃ。見た目に騙されちゃダメだよ。ウチ以上の化け物だから」
「オイッ」
「こ、これは、これはお兄様、わ、私は東城寺聖蘭と申しますぅぅぅ」
「ああ、俺は宗像承、これの兄だ。ウチの妹が迷惑かけてないか?ウザかったらキレても殴ってもいいからな。当てられるものならだが」
「聖蘭ちゃん緊張しまくりで草ぁ、それと兄ぃ殴ってもいいは酷くない?可愛い妹が殴られるんだよ?」
「だから、当てられるものならと後付けしただろ」
そんなこんなで紹介を済ませ、聖蘭の鍛冶を始める。
何度も炉でミスリルを熱してはハンマーで打ちを繰り返す。
「兄ぃ、気付いちゃった」
「俺はかろうじてってとこだがそういう事か」
「まぁ、普通は気付かないよね。【感知】がゴミスキル扱いされてるこの世界では」
真那華が気付いた聖蘭の違和感、それは他の鍛冶職人と違い、聖蘭のハンマーを握る手に魔力が集まっているのだ。
そして、聖蘭はミスリルを駄目にしてしまった。
「真那華、何か分かった?」
「いつの間にか呼び捨てになってるし、まあ距離が近くなったので良しとしよう。うん、ハンマーが悪いね。正確には素材だけど」
「素材?」
「これは常識だと思うけどダンジョン外の武器は怪物にあまり効果がない事は知ってるよね。それはどうしてか分かる?」
「武器の素材に含まれる魔力の有無が関わってるんだっけ?まぁ、加工の過程で霧散しちゃうようだけど、ダンジョン素材の武器や防具は使用者の魔力を供給するから機能するって話しでしょ。それがどうしたの?」
「それと似たような現象が鍛冶の過程で発生してるねぇ。たぶん、加工する素材に魔力を送り込む素材がダンジョン素材じゃないから、ハンマーを持つ手で止まっちゃってるのかなぁ」
「でも、ミスリル製も鋼鉄製も性能面では変わらなかったはず」
聖蘭は当然、過去にミスリルのハンマーが出回ったのは知っているが鋼鉄製と変わらないという事でミスリルのハンマーは使われなくなった事を知っている。
「それは【鍛冶職人】のスキルの理屈であって【錬成鍛冶】には当てはまらないんだよねぇ。【剣術】のスキルを持ってるからって槍を使いこなせないのと一緒、そもそも別物だという事は理解した方がいいよ。兄ぃ、ミスリルまだある?」
「どうする気だ?」
「ミスリルのハンマーを作ってもらうんだよ〜」
承は虚空からミスリルを取り出すと真那華は他の鍛冶職人にハンマーを作ってくれるよう頼むと珍しそうな反応はされたが快く作ってくれた。
「たぶん、これでいけるはず。兄ぃ、もう一度ミスリルよろしくぅ?」
承はミスリルを取り出し聖蘭に渡す。
「まぁ、あまり気負わなくていい。自分のやりたいようにやってみろ。それだけでいいんだ」
「はい、お兄様!!」
聖蘭は覚悟を決めハンマーを握り、ミスリルを熱しては叩いてを繰り返す。
(あれっ?今までと感覚が違う。どのタイミングで炉に入れるのと叩く力加減がなんとなく分かる。今までと全然違う!楽しい!)
聖蘭は今まで鍛冶をやってこんな感覚はなかった。
聖蘭にとって鍛冶は苦痛でしかなかった。
しかし、今聖蘭は凄く楽しんでいた。
「アレ、掴んだね」
「ただ鍛冶をしたのも無駄ではなかったという事か」
承はある程度の事情を本人から聞いてるのである程度は知っている。
「ウチのもう一つの仮説だけど聞くぅ?」
「答えなくても勝手に喋るだろ」
「たぶん、高ランクの鉱石や怪物の素材になるとそれに見合った素材のハンマーにならないと上手く出来ないかも」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、怪物も強くなればなるほどそれなりの武器の素材を要求されるみたいじゃん。たぶん、同じことが起こる可能性を考えただけ」
真那華は色々調べた事と経験からそういう仮説を立てた。
「まぁ、アレは成功かなぁ」
聖蘭は強い輝きを放つミスリルの刃を取り出す。
「初めての成功、やったわ。やったわお兄様!」
「え?ウチは?」
何故か聖蘭は承とハイタッチしている。
「・・・・・・と、とりあえず、真那華もありがとう。とりあえず即席の柄付けるから待ってて」
聖蘭は柄に刃を取り付け真那華に渡す。
「あ、これウチの想像以上だったわ」
【感知】を使うまでもなく分かる。
持った瞬間、魔力によって強くなったのを感じた。
今までの武器はそんな事にはならなかったからであった。
そもそも、ミスリルが放つ輝きが違うのである。
そのミスリルの剣に気付いた鍛冶職人や武器を新調しに来た『潜行者』が近付いて来た。
「このミスリルソード、誰が打ったんだ?」
職人の中でも一番の腕利きの鍛冶職人、鹿原剛はそのミスリルソードを一目見ただけで自分達では出来ない芸当だと理解した。
「わ、私が打ったわ」
「嬢ちゃんが!?これを!?」
「ええ、【錬成鍛冶】のスキルを使って生み出した私が作った最初の一振りよ!」
その【錬成鍛冶】という聞いた事のないスキルの名前を出すと周囲はどよめきだす。
「どうしたの?」
そこに通ったのは鑑識課の彩海だった。
「このお嬢さんが、とんでもない一振りを打ったんでさ」
「へぇ、でもたかがミスリル・・・・・・ソード・・・・・・・・・・・・え?」
彼女の【鑑定】のスキルはそれがただのミスリルソードではない事を告げている。
昔、一度だけ見たミスリルソードの性能の倍近い性能がある。
「え?どういうこと!?本当にミスリルソード!!」
しかし、何度も見るが結果は変わらない。
「なんか、ギャラリーが増えて来たね」
「まぁ、こんだけ目立てばな」
「じゃあ、どんどん目立とうよ。兄ぃ、アダマンタイト出せる」
承は黙ってアダマンタイトを虚空から取り出す。
「正気!?」
「正気も正気、次は道具もランクアップしちゃおうよ」
「まったく、言い出したら聞かないんだから」
聖蘭は既に真那華の扱いが分かって来ていた。
「アダマンタイトなんて希少鉱石なんて滅多にお目にかからないからね。ありがたくスキル成長の糧にしてもらうわ」
「うんうん、でもそんな事言わなくてもレア素材の方から寄って来る事になりそうだけどね」
真那華が何もしなくても【錬成鍛冶】を使いこなせるようになった聖蘭に装備品を依頼する人が増えれば当然、レア素材の方から寄って来るのだ。
「うん、良い音ね」
聖蘭は心地よくアダマンタイトを叩いている。
「なんか、普通の鍛冶と違くね」
「叩いた時に火花とは違うキラキラした何かが散ってるよな」
「あ、目の錯覚とかじゃなく皆んな見えてるんだ」
「アレは魔力だ。通常の鍛冶では考えられないが、あの一回一回のハンマーの振り下ろしに魔力が込められている。叩いた時にその魔力が散ってるんだ」
「鍛冶には鋼と変わらないと言われていたミスリル製のハンマーを使ってるのは魔力を素材に伝える為に使ってるのか」
聖蘭の作業を野次馬達が見守るとアダマンタイトのハンマーが完成すると工房エリアは歓声で包まれる。
「はい、次はブラッドライトね。一気に最高ランクのハンマーを作れば後々楽だよね」
「ごめん・・・・・・たぶん、これは今の成長度では加工出来ないわね。何となく分かるわ」
聖蘭は【錬成鍛冶】のスキルが成長した事である程度加工出来るか出来ないか分かるようになっていた。
「やっぱり、そう簡単にはいかないかぁ。それなら練習あるのみだね。そうだ!素材持ち込みに限り一人一本まで武器を生産してみようよ。スキルを成長させるにはもってこいでしょ」
「まったく、確かにその方が効率は良さそうね」
真那華の提案を聖蘭は快く了承した。
そして、スキル成長の末現状では最高のハンマー、ミーティアハンマーを製造した。
「流石に疲れたわ。でも、こんなに楽しかったのは本当いつぶりかしら」
聖蘭は心の底から鍛冶を楽しんでいた。
「そりゃあ、魔力を使ってるんだもん。それは疲れるよね。今回は鉱石系ばかりだけど怪物系の素材使ったらもっと大変な事になるかも」
「それはどういう?」
「まぁまぁ、今回はゆっくり休んで、また次回という事で」
「貴女の行動には流石に慣れて来たけど無茶ぶりは・・・・・・」
その時、聖蘭の持つスマホが鳴った。
聖蘭が電話に出ると聖蘭の声がどんどん小さくなっていく。
「ごめん、本邸に呼ばれちゃった。たぶん、今回の件が本家にバレたんだと思う」
「それが?負けないんでしょ誰にも」
「まったく、貴女という人は貴女を見てると難しく考えるのが馬鹿馬鹿しくなって来るわ。私は私の価値を認めさせるそれだけよ」
「褒められた気がしないけど、その意気だよぅ」
聖蘭は真那華と別れると本邸に向かう。
「良い友達が出来たな」
「そうだねー、そもそもスキル研究局だっけ?正直いい加減にして欲しいかなぁ。ゴミスキルを神スキルと言ったり、適当な事をいったり、適当な事をして人を不幸にして陥れて、本っ当に許せない」
「その件で真那華に会わせたい奴がいる」
「それって、兄ぃの友達?ウチ年上はちょっと・・・・・・」
「違う、俺達の力になってくれる人を見つけたんだ」
「えー、どうせダンジョンの事もスキルの事も何も知らない人じゃないの?」
「まぁ、そうだな。会えば分かる」
「まったく、勿体ぶるなんて生意気ー」
真那華は兄がそういう駆け引きをして来るとは思わなかった。
「はっきり言おう。お前が友達で俺を驚かせたようにお前も驚く」
「またまたー、そういうと真那華ちゃんのハードルが上がる事は分からないかな?」
「たぶん、俺よりお前の方が気が合いそうなんだよな」
知的好奇心が原動力の辺りが真那華とジョージが似ていると承は感じていた。
「ふーん、じゃあ案内してよ」
承は真那華とジョージのいる雑務課へ向かった。




