第1話 黒天使との再会
精神科には、
優しい人だけがいるわけではありません。
患者を守ろうとする人もいれば、
効率を優先し、人を追い詰める人もいます。
この物語は、
精神科で働く新人看護師が、
「白天使」と「黒天使」の間で揺れながら、
自分の正しさを探していく話です。
閉鎖病棟。
私が最初に配属された場所だった。
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病棟師長に連れられ、病棟内の配置やルールについて説明を受ける。
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「閉鎖病棟は、出入りのたびに施錠確認をしないといけません」
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師長は真剣な顔で言った。
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「神谷さんは、まだ入ったばかりだから、一ヶ月は鍵を持つことはできません」
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「それだけ重要だということです」
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私は小さく頷いた。
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「いいですか。患者さん全員が、自分の意思で治療を受けているわけではありません」
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「中には、少しでも隙があれば病院を出ようとする人もいます」
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「だから、鍵の管理は絶対です」
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「詳しいことは、先輩看護師に何でも聞いてください」
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そう言うと、師長は私を詰所へ案内した。
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「今日から一緒に勤務することになった神谷さんです」
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詰所にいた看護師たちが、軽く会釈をする。
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「精神科は初めてなので、安全に勤務できるようお願いします」
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「それから、一ヶ月は鍵を持たせることができません」
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「病棟の出入りは必ず同伴で。決して一人にしないようにしてください」
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そう言って、師長は一人の看護師を見た。
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「今日は相沢さんに担当をお願いします」
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師長はそのまま詰所を出ていった。
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相沢は、笑顔でこちらを見た。
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「師長はあまり病棟に来ないからね」
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「管理業務が忙しいらしくて、現場がかなり手薄なときか、集会くらいしか来ないと思うよ」
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「用事があれば、さっき説明を受けた師長室にいるから、内線をかけるといい」
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柔らかい口調だった。
優しそうにも見えた。
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けれど――
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笑っているのに、
目だけは笑っていなかった。
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その瞬間、
私は幼いころ入院していた病院で感じた、
あの嫌な空気を思い出していた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
精神科という場所は、
外からは見えにくい世界です。
優しさだけでは続かない。
けれど、効率だけでは人は救えない。
その狭間で、多くの人が葛藤しながら働いています。
この物語の神谷のように、
壊れそうになりながらも、
自分の大切にしたいものを守ろうとする人は、
きっと少なくないと思います。
読んでくださった方の中に、
「自分ならどちらを選ぶだろう」
と少しでも考えてくださる方がいれば嬉しいです。




