第032話 必殺技
私たちはあれからずっと渓谷で訓練をしていた。
『ピコーン』
「あれ……?」
「どうしたんだい?」
「なんか、頭の中で音がしました。ピコーンって……」
「ふむ。またスペックと頭の中で唱えてみて?」
「はい。」
『スペック』
すると、頭の中にスキルが表示された。
光(33)
収納(1)
記憶(1)
遠隔
「あれ? なんだろう、この数字。光とかスキルの横に数字がついてます。あと、『遠隔』っていうのが増えてます。」
「やはり、スキルが増えたのか。だいぶ早かったね。」
「そうみたいですけど……わかってたんですか?」
「うん。訓練を続けているとスキルのレベルが上がっていく。それに伴ってある条件を満たすと別のスキルを獲得できることがあるんだよ。」
「じゃ、順調に訓練の成果が出てるんですね?」
「そうだね。光魔法の訓練を続けていたから、光魔法のレベルが上がったんだね。数値はどうなってる?」
「ああ、数値はレベルですか。光が33、収納が1で記憶が1です。」
「そうか、光以外も訓練が必要だね。収納と記憶は使う回数に比例してレベルが上がるから、ちょっとした合間とか、常時使って回数をこなすことを心がけるといい。」
「はい。 わかりました。」
「それから、『遠隔』だけど……私も持っているんだが……というか、ルート様から引き継いだスキルだけど、これは補助スキルだ。」
「補助?」
「そう、単体で起動するスキルでは無く、他のスキルと組み合わせる。かなり有用だよ。」
「どのように使うんですか?」
「例えば……そうだな。ビームをあの岩に撃ってみて。」
「はい。」
私は指先を岩に向けて撃った。
『優里さんビーム!』
「うん。 じゃ、今度は自分の上空10mくらいにそのビームの発射口があるように念じながら撃ってみて。」
私は指先を向けることをせずに、ビームが自分の頭の上10m付近から出ることを想像しながら撃ってみた。
『優里さんビーム!』
すると、私の10m上からビームが岩に向かって放たれた。
「ね? わかったかい?」
「なるほど。遠隔操作でスキルを発動できるってことですね?」
「うん。しかも発動だけではない。」
「え? 何か他にあるんですか?」
「うん。じゃ、今度は後ろに撃ってみて。普通に撃っていいよ。ただし、ビームの速度はうんと遅くね。」
「は? ビームを遅くですか……まだすごく違和感ありますけど……魔法ですもんね。どのくらい遅くします?」
「そうだね、歩くくらいのスピードでいいよ。」
「え?」
「わかりやすくするためだよ。」
「はい。じゃ、撃ちます。」
私は後ろに向けてビームを放った。
すごくノロノロなビームが後ろに向かって伸びていく。
「はい、じゃ、遠隔スキルを使って、ビームの向きを変えよう。」
「え? それって無線誘導ですか? そんなこと出来るんですか?」
「……まぁやってみて。」
私は後方に撃ったビームを前方の岩に向かうように進路変更させてみた。
すると、ビームはグイっと向きを変えて前方の岩に向かっていった。
「うん、そんな感じだね。わかった?」
「はい……なるほど。魔法の発動だけじゃなくて、その後の挙動も遠隔操作できるってことですね。」
「そう。」
「あのぅ、ちょっと速度が遅すぎて待てないのでスピードを上げますね。」
私はビームのスピードを光速まで上げた。
ビームは瞬時に岩に穴を穿った。
「あれ? じゃ、収納とか記憶も遠隔で発動できるということですか?」
「そうだね。ひとまずやってみたら?」
「はい。」
私は目の前の地面に転がる石ころを手で拾わずに、遠隔スキルで収納してみた。
石は消え収納された。
あ、これはすごく便利。
「ラクに収納できるだろう?」
「はい。あ、もしかして多重起動すると……グレイザさん、ちょっと試してみます!」
「ん? 何を?」
私は、目の前の地面に転がる数百の石を全部一気に収納した。
その後、前方の岩の上空100mに、降下コースが岩に向くように、そして高速で落下するように念じながら『取り出し』た。
すると、数百の石が目標の岩に降り注ぎ、激しく粉砕した。
ズゴーーーーン!!
辺りに激しい爆音が鳴り響いた。
「えへーん! どうです?」
「すごいね! 優里さん、応用力ありすぎ……まぁ、普通は魔力不足でこんな風には使えないんだけどね。」
「どうです? これって必殺技になりますよね。」
「うん。そうだね。でも、普通にビームを降らせたほうが強力なんじゃない?」
「あ、そうか……じゃ、組み合わせてみます。」
「え?」
即座に、近くの石をまた数百収納し、別の大岩の上空に先ほどと同様に『取り出し』た。
と、同時に、ビームを上空から同じ数だけ一緒に降らせた。
すると、降らせた石は、ビームに加熱され灼熱の眩しい光を放ちながら高速で落下し、岩に命中した。
ドゴーーーーーン!!
凄まじい音と共に激しい煙があがった。
「こ、これはまた……」
煙が消えた後、確認すると大岩は蒸発、周辺は溶解してガラス化していた。
うーん……ちょっと想像以上だった。
やりすぎだったかな?
「優里さん、これは地球では使わないほうがいいよ。」
「ええ。そうですね。」
私が人間兵器と認定されてしまうな。これは。
日本では自重します。てへっ。
ーーーー
うーん……
魔王を倒すのは自分だけで……と思っていたけど、優里さんのこの破壊力は戦力として充分通用する気がする。
ちょっと地球人のポテンシャルを侮っていたのかも知れない。
莫大な魔力量と彼女の頭脳の組み合わせは、この世界最強なのではないか?
もしかしてルート様以上の素養を持っているのではないか?
でも、もう引き返すことは出来ない。
私はパンドラの箱を開いてしまったのかもしれない。




