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第030話 贖罪

 

 ガタイの良い男に引きづられ、ギルド2階の奥の部屋に放り込まれた。


「さぁ、座れ! まったく! どういうつもりなんだ?」

「「……」」


 男のあまりの怒りの形相に、私たちは借りてきた猫のように小さくなってソファに座った。

 優里さんは、男の剣幕に当てられて放心したまま震えていた。


「俺はこのギルドのギルドマスターのジュードだ。さっきここで書類仕事を片付けてた時に、突然下の階から巨大な魔力の膨れ上がりを感じて急いで駆け下りたら、いきなり目の前で消えやがって…… 魔王軍の急襲かと緊急警戒警報をペンゴア全土に出すところだったんだぞ!」

「た、大変すみません…… 私達は魔王とは何の関係も無く…… 実はこの女性は、昨日ペンゴアに来たばかりの地球からの転移者でして…… 急に魔力暴走寸前になってしまい、已む無く渓谷へ転移を……」

「なに? 地球から……異世界からの転移者か。 今、魔力を全開で吸収し続けてるこの娘が…… なるほどな。」

「はい、大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。」


 私達は、恐縮しながら必死で頭を下げた。


「……わかった。わかった。転移石で渓谷へ転移して暴発させたわけか。まぁ、この場で魔力暴走しなくてよかった。今回は被害無しで済んで良かったものの、本来その場で全力で攻撃されて消滅させられても文句が言えない状態だったんだぞ。まぁ、魔王の一味でも無いようだし、今回は厳重注意とする。で? 冒険者として初めて登録したんだな。つまり、新人だな。今は魔力操作すら出来ないってことなのか?」

「はい、昨日洗礼を受けたばかりで、ひとまずギルドに登録して、これから魔力の訓練を行う予定だったのです。」

「そうか。知ってると思うが、異世界人は持てる魔力量が例外なく莫大だ。細心の注意を持って魔力訓練をさせてくれ。」

「はい、重々承知いたしました。」


 ギルドマスターのジュードは優里さんに向き直って言った。


「ユーリといったか?」

「はい…… この度は大変ご迷惑をおかけしてすませんでした……」

「これからしっかり訓練しろ。いいか?」

「はい、頑張ります。」

「それから…… 知っているかどうかわからんが、ペンゴアには災厄の象徴である魔王ディプロニスというのがいる。ペンゴア最強魔法剣士のルート様という方がペンゴアの平和のために魔王と戦っている。知ってるか?」

「は、はい。」

「ルート様も地球からの転移者という話だ。最終的にどの程度の戦力になるかわからんが、お前さんが地球人ならルート様の大きな助けになるかも知れない。しっかり訓練して、ギルドの依頼も受けて、ペンゴアの平和にも貢献してくれ。頼むぞ?」

「……はい。わかりました。」


 その後、ギルドカードを渡され一通りの説明を受け、無事に放免された。


 ーーーー


 部屋を出てギルドの1階に降りると、容赦ない冒険者たちの視線にさらされ、逃げるようにギルドを出た。

 即、変身し転移。もとの渓谷に戻った。


 ここはゲルダン渓谷。

 グランドキャニオンにそっくりな場所だが、ここはひと気も無く、魔物もほとんど居ないため、安心して訓練が行える場所だ。

 ちなみに一番近い街でも100km以上は離れている。

 私が魔法の訓練でこの数カ月間ずっと使っていた場所だ。


「大丈夫かい? 優里さん」

「はぁ、ビックリしました……」

「いや、私が事前に説明しておかなかったのがいけなかった。申し訳ない。」

「はぁ…… 流行りのラノベのようには上手く行きませんね……」

「まぁ、気にしなくていいんだよ、優里さんは。

 この世界で冒険者としてずっと活動していくわけじゃないしね。

 さっき説明受けたとおり、ランクF のカードの有効期間は三ヶ月だ。

 取り敢えずこの場所でしばらくの間は訓練して、見通しが立ったら簡単な依頼を受けることにしよう。」

「はい、よろしくお願いします。」


 その後、基本の魔力循環から初めて、魔力操作の基礎を優里さんに教えた。

 大きな魔力量の操作は初心者には難しいはずなのだが、意外とすんなり優里さんは会得した。


「……あ、こんな感じですか? どうです?」

「うん、魔力の漏れが無くなった。上手く魔力量は隠蔽出来てるね。これなら周りの人に驚かれることもないだろうね。」

「ふぅ…… よかった!」

「でも、ビックリだよ。スジがいい。たった半日で魔力操作の基本を身につけるとは思わなかった。……じゃ、今日は色々あったからこれで終わり。明日からは光魔法の訓練をしよう。」

「はい!」


 ーーーー


 私はグレイザさんと転移して家に戻った。

 グレイザさんの家には風呂は無いが、私に清浄の魔法をかけてくれた。

 まるで風呂上がりのようにサッパリきれいになったのは驚きだった。


 その後、食事をした。欧米の田舎料理って感じの味付けだった。

 後片付けが終わって食卓で一息ついているときに、私はグレイザさんに切り出した。


「あの、グレイザさん。今日のギルドマスターの話ですが……」

「ああ、わかってる。ルート様のことだね……」


 そういうと、グレイザさんは、大きくため息をついた。


「ペンゴアの人にとって辛いニュースになる。……考えたんだが、そのことは伏せておこうと思う。」

「え…… どうしてです? 今日の様子だとペンゴア全体の未来に関わることじゃないですか?」

「……魔王がこのペンゴアに転移してくるのが、今からちょうど一年後だから、今すぐどうこうは無いはず……」

「でも、グレイザさんがルート様の能力はすべて引き継いでいるんですよね? そのことを話せばペンゴアの人も安心するんじゃないですか?」

「いや…… 私は元々魔王軍だったから。そのことを知っている者はほとんど居ないとは思うが、私個人の心情としては、そんなに簡単にペンゴアの人に『これから私が魔王と戦います。』なんて堂々と言うことがどうしても出来ない……」

「……でも、魔王を倒すつもりなら言ってもいいんじゃないですか?」

「もちろん、魔王は倒す。必ず。でも、昨日まで敵だった者が、今日から味方です。なんて…… そう簡単に信用されると思うかい?」

「確かにそうですけど。グレイザさんが魔王軍に居たことをほとんどの人が知らないなら、黙ってれば……」

「いや…… 私が私自身を許せないんだよ。優里さん。」

「き、気持ちはわかりますが、そんなに馬鹿正直にならなくても…… 」

「私はね、優里さん。誰にもオーガマンの正体を明かすつもりはないんだよ。」

「え?」

「これから、オーガマンは魔王を倒すため戦って行くことになるけど、ペンゴアの人にとっては、誰が倒すかはどうでもいいことなんだよ。ルート様が頑張ってるんだと思っててもいい。オーガマンが頑張ってると思っててもいい。そこにこだわりは無いんだよ。」

「そんな……」

「そして私は、グレイザとして、素のオーガロードとして、ペンゴアの人々から信頼を得ることの方が重要なんだ。その為にオーガマンであることは隠して一人のペンゴア人としてペンゴアの平和の為に生きていきたい。これは私の贖罪なんだ。」

「でも……命を懸けて戦うのに……それじゃ余りにも悲しいです。」

「いや、優里さん、大事なことを忘れてるよ。」

「なんです?」

「オーガマンの中にルート様は確かに生きてるんだ。それを私は常に感じている。オーガマンは私じゃなくてルート様なんだよ。だから、私はペンゴアの人々にオーガマンとして認めてもらわなくてもいいんだ。」

「……」

「優里さん、私はルート様の代わりにここに居る。……だからいいんだ。」

「……そうですね……わかりました。私、全力でサポートします!」


 そうだったわ。

 ルート様の全てを受け継いだオーガマンは、グレイザさんでは無く、ルート様の化身なんだわ。

 グレイザさんがそう決意したなら、私はただサポートするのみ……


 さぁ、明日から訓練頑張るぞ!!


いつも読んでくださってありがとうございます。

連休明けに仕事絡みで更新が不定期になりそうです。

できるだけ毎日投稿できるよう頑張りますので、今後もよろしくお願いします。

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