物々交換です
親子が感動の再会の最中、私は肉を食べ続ける。
「ご婦人、危険ですので馬車の中へ。」
「ここはお任せを。」
「危険な獣が近くに居ます。さっ、早く。」
「ミギャー。『従魔って事は、誰かに仕えてるの?』」
「ワッフ。『元々はマーニャの母親にテイムされてな、今はあの、魔法使いの息子にテイムされている。』」
『あなたなら、匂いをたどって迎えにこれたんじゃない?』
『ああ、行こうとしたら、魔法使いに待機を命じられた。』
『・・・。』
『馬鹿なの?』
『ああ、頭の回転は速いんだが、バカだ。』
私は、うるさい道具を持った人間を見ながらつぶやいた。
一応主なんでしょ? 結構はっきり言うのね。
「まって、待ってください。あの猫ちゃんはマーニャを連れて来てたので傷付けないで。」
「し、しかし・・・。」
「まあ、ちょっと待てよ、あの猫ラルフと会話してないか?」
『美味しそうな肉だな。』
『熊肉よ。まだ沢山あるから、燻製にしようかと思って。』
『お前がか!』
『魔法が使えるもの。』
『・・・変わった猫だな。』
『食事の邪魔よ、さっさとあっちへ行って。』
「こい、ラルフ。」
『ふう、主なしは自由だな。』
『呼んでるわよ、主さんが。』
「ラルフ、この籠を猫のそばに持って行けるか?」
ん? 何かくれるの?
熊肉を食べるのをやめて、顔をあげると、ラルフが籠を持ってきた。
「ミギャー。『それ何?』」
「ワッフ。『チーズとよばれるものだ、塩っ気があってなかなか美味しい。』」
「ミャー。『そう、ありがたくいただくわ。』」
「ワッフ。『熊肉を少し分けてくれないか?』」
「ミャー。『じゃあ、その籠を持って来て。』」
私はラルフを熊肉の場所まで案内した。
「斬撃」
適当な大きさに切ると籠の中のチーズと入れ替える。
「かたじけない。チーズは温めると美味しさがますらしい。」
「どうも。」
結局チーズはお礼って事だったみたいだけど、熊肉と交換した形になったわね。
私は、今日も街道の近くの茂みに来ている。
街道の向こう側は、獲物が多いみたいで、ここら辺で待っていると獲物の方から来てくれるから。
ああ、獲物って人間じゃあないわよ、人間を狙ってる動物や魔物の事よ。
あいつらは、人間を襲ってはいけませんって親から教わって無いみたいで、結構な頻度で街道へ来るの。
人間に武器で傷付けられた血の跡を追っていくと簡単に、見つけることができる。
もっとも、最近では狙われた人間を助けることの方が多いけどね。
なぜって? そりゃー、美味しい物をくれるからよ。
人間の方が強い時は、戦い方を見て今後の参考にするの。
人間の方が弱い時は、助けて『お礼』を貰うのよ。
そう、あの時貰った『チーズ』がとっても美味しかったの。
あれから、人間を助けてもらったものは、『パン』『果実水』『果物』『葡萄酒』などなど、狩では決して手に入らないものよ。
そうそう、ラルフにもまた会ったわ。
なんでも、主が商人の護衛任務を請け負う冒険者なんだって。
にやーにやー鳴く小さい人間はあれ以来、見ていないけどラルフは結構な頻度で会うようになったわ。
今戦っているのも、ラルフと主の冒険者たちよ。
「ワッフワン。『おい、見てないで手伝え!』」
「ミギャー?『何くれる?』」
「ワッフ。『チーズ』」
「ミギャー。『乗った』」
私は、木の上から降りて参戦することにした。
「わー、っと何だ猫か。」
「油断しない。」
「助かった、今回は数が多い。」
『斬撃』
私は、獲物を切り刻む。
小さい鎧猪は、簡単に絶命した。
「しっかし、あいかわらず凄腕だな。」
「なあ、あの猫テイムできないのか?」
「出来ないんだ、魔物じゃなくて猫じゃあ、無理かも。」
失礼ね、私はれっきとした魔物よ。・・・しっぽは少ないけどね。