1.おかしいやつら
冬もそろそろ終わろうかという時期だが外はまだまだ寒い。
バイトも休みで特にやることもないこの俺、三上陽介はお茶でもしながら一人読書でもしようかと思いファミレスに入った。
思えばこの時点で運の尽きだったのかもしれない。
本を読んでいた俺の前に誰かが座った。続けて俺の両隣にも誰かが座った。
何事かと思って本から顔を上げたときには既に俺は謎の集団に取り囲まれていたのだ。
何がなんだかわかりません。
ファミレスの一角に不自然に集まっている俺と奴ら。
年齢、性別はともかく外見からして何の集団であるのかまるでわからない。
俺自身はジャンパーにジーンズという至って普通(だと思ってる)の格好。
俺の目の前には外国製の高そうなスーツを一部の隙もなく着こなしたメガネをかけたビジネスマン風の男。
その俺の右に座るのはいわゆるゴシックロリータと呼ばれる格好をした幼い女の子。
その逆の左側には何故かメイド服を着ている奴が座っている。
ああ、メイド服の奴は男だ。
頼むからすね毛は剃ってくれ、見苦しい。
こいつらを初め俺の周りには学ランだとかナース服だとか着ぐるみだとか肉襦袢だとかわけの分からない格好の奴らが集まって座っている。
この辺りだけやけに空気が違うのは気のせいだろうか。
頼むから店の人もっとエアコンを利かせてくれ。
店の人もこんな異様な奴らが集まられてさぞご迷惑であろう。
本当にごめんなさい、と俺の心の中だけで謝ることにする。
「それではみんな集まったところで本題といこうか」
目の前のビジネスマンがこの場を仕切るように口を開いた。
「まず私たちのことについて話しておかなければならないな」
言葉を続けるビジネスマンの目線は完全に俺に向けられていた。
なんだやっぱり俺が対象なのかよ。
「私たちはいわゆる天使と呼ばれる者でね、神に使える者たちなんだよ」
──はい、頭おかしい。
誰でもいいから俺を助けてくれ。
そこの店員さんもそんな目で見ていないで助けてくれよ。
俺を含む全員がドリンクバーしか頼んでなくてうざいのはわかるんだけどさ。
「さすがに突然でびっくりしたかな?」
いや、びっくりというかあきれているんだがな。
いきなりこんなこと言われてまともな対応をできる方が珍しい。
「あの……、何言ってるかわかんないんですけど」
「わかんない訳がないじゃない~。私たちはて・ん・し、なの~」
左のメイド服の野郎が気持ち悪い言い方で俺の言葉に被せてくる。
どうでもいいがなんでお前のスカートはそんなに短いんだよ。
見えなくてもいいすね毛がばっちり見えてるじゃないか。 そのすね毛を俺にすり寄せるのはやめろ。
「まあ天使なんて滅多に人の前に現れることないからね~。珍しいのはわかるよ~」
「いや珍しいとかそういう問題じゃないんですけど。そもそも仮に天使だとして俺に何の用なんですか」
「そうだね、そこを話しておかないといけないね」
ビジネスマンが持っていたバッグから何かを取り出してテーブルの上に置く。
それは一冊のパンフレットだった。
表紙には背中に羽の生えたムキムキのおっさんがポージングを決めていた。
はっきり言ってキモイ。
もしこれが生命保険のパンフレットだったら絶対この保険を契約しようとは思わないだろう。
ビジネスマンがこのパンフレットを開くと説明文やらグラフやらがページいっぱいに書かれていた。
正直わけわからん。
そんな俺などどうでもいいかのように語りだす。
「今この世界は崩壊の危機に瀕しているとでも言ったらいいかな。今日明日すぐに滅ぶという訳じゃないんだけど確実に滅びの道を歩んでいるんだ」
なんかすごいこと言い出したんですけどこの人。
「しかしこの世界を救う道はあるんだよ」
ああ、本当にここから出たい。
「君にはこれから試練を受けてもらいたい。君が試練をクリアする度にこの世界は崩壊から免れる。逆に失敗すると世界は崩壊に近づく。まあそんな感じだ」
そんな感じじゃねぇよ。
どこのファンタジー小説の設定なんだと。
本当にこいつら俺をおちょくっているとしか思えない。
「しかし試練を受けるにも君一人だけというのも何かと大変だろう。そこでここにいる誰かを君の補助としてつけたい」
いりません。
そもそもその試練とやらも受けたくありません。
「じゃああたしと一緒に行こうかな~」
黙れメイド野郎、そのすね毛を俺にこすりつけてくんな。
「では拙者と参りましょう」
「いや俺と行こうぜ」
「わたくしの方がお役に立てましてよ」
「ぼくちんと組もうぜーい!」
「お、おら。お、おにぎりが好きなんだな」
「ヒャッハー、汚物は消毒だー!」
周りにいた奴から突如一斉に自己アピールが始まる。
というかなんか違うの混じってる気がするのは気のせいか。
しかしマジでうるさい。
このうるささじゃ店の奥からマッチョな用心棒が現れて殴られても文句言えんぞ。
まあこんなファミレスでマッチョな用心棒なんかを雇ってはいないだろうが。
「ほらほら、みんなそんな騒いだら迷惑でしょ!」
一際大きな声が店内に響く。
声のした方を見てみると一人の女が座ってた。
この異彩な格好をした奴らの中では比較的まともなセーターにスカートといった格好。
なんかビシッという擬音が聞こえてくるかのような鋭い目が印象的である。
「みんな俺が俺がって言ってたら永遠に決まらないじゃない。ほら彼も迷惑がってるでしょ」
いや、俺が迷惑なのはそこだけではなくそ変な集団に囲まれて試練だかなんだかにつき合わされていること自体なんだが今は黙っておこう。余計なことになりそうだ。
「ということで彼の相方にはこの私、エイラがなるのでよろしく」
『お前も言ってんじゃねぇか!』
この場にいたほぼ全員の一斉ツッコミ。
ちなみに俺もこの中の入っている。
こいつも何言ってんだ。
その様子を眺めていた目の前のビジネスマンが口を開いた。
「じゃあ君でいいや」
適当だなおい。
「ちょっとちょっと~。いくら何でもそれはないんじゃない~?」
メイド服野郎はビジネスマンに詰め寄ったがビジネスマンはいはいと適当な返事しかしない。
「……君たちあんまり文句言うようなら給料下げてもいいんだぞ?」
ビジネスマンの一言に一部の奴はしゅんと黙り込み、また別の奴は席から立ち上がって抗議し出す。
というかお前ら給料制なのかよ……。
そんな訳で俺の周りで大論争が始まってしまったのだった。
なあ、当の俺置き去りなんだが帰っていいか?
「というわけで彼女が相方となるから頑張ってくれ」
とういうわけもへったくれもないがどうやらさっきの女が相方に決まったらしい。
というか俺やらねぇぞ。
「いややってもらわないと困るよ、神に選ばれし人間よ」
急に壮大に言ってもだめだぞ。
「そんな君に私から初めの試練を与えよう」
いりません。
「……ここの会計を頼む」
ビジネスマンは頭を下げる。
はあ?
「我々は神の世界の住人だからこの世界の金銭を持ち合わせてないんだ。だからここで頼んだものの精算ができなくてね」
はっはっはと笑うこいつを殴ってやりたくなった。
「いやいや、我々もそこは遠慮してドリンクバーしか頼まなかったし」
じゃあ初めからこんなとこ入んな。
もう自分の会計だけやってさっさとおさらばしたい。
そう思って自分の横に置いてあったバッグに手をかける、がなぜか置いていたはずのそれがない。
あれ?
確かにここに置いていたんだが。
「すいませんお会計お願いします」
ふとレジの方を見るとさっきエイラと名乗ったあの女がいた。
手には俺のバッグと財布。
その財布から出される俺の今月のバイトで稼いだ給料。
そして店員も慣れた手つきでさっさとそれを受け取りつり銭とレシートを渡す。
おいぃぃぃぃぃぃぃ!
「さすがだな、こう動いてくれる相方だと君も安心だろう」
もう外に出るまでもなくぶん殴っていいかこいつ。
なんでこいつらにおごらねばならんのか。
さよなら給料。
まだ残っているといいけど。




