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幕間③「始末書(メアリー・チューリング)」

## 始末書


宛先:株式会社エターナル・リテール 取締役会 御中

写し:法務統括部、渉外部、神域開発部

提出者:特別顧問 メアリー・チューリング


件名:小売店舗「みそぎ屋」案件に係る作戦失敗について(報告及び謝罪)


標記の件につき、下記のとおり報告し、謝罪いたします。


記


一、経緯


(一)第一次接触(○月○日)。対象店舗の店主(当該神域の神格。以下「対象」)に対し、対神用約款ライフルによる神格接収を試行。狐神格一柱の戦闘介入、行政職員一名による法的指摘、及び対象の新規手法(対装備値引き干渉・七割減)により、読み上げ完了に至らず撤収。なお当該接触において有効データ三件を取得しており、収支は均衡と評価していました。


(二)第二次接触(○月○日)。事前通告のうえ再訪し、読み上げ速度を二・〇倍に改修した装備で単独交戦。読み上げは完了し、発射にも成功しました。しかしながら、対象が約款全文を事前に読了しており、読み上げ完了前に明確な拒否の意思表示(「同意しません」)を行ったため、契約不成立・効力不発生となりました。


(三)続けて条項修正のうえ再展開を試みましたが、社内規程第九条(明確な拒否後の再勧誘の禁止)に基づき装備が自動停止し、作戦継続が不可能となりました。


二、原因分析


(一)本装備の成立率九十九・八パーセントは、「対象は約款を読まない」という前提の上に成立していた数値でした。約款を全文読了したうえで包括的拒否を行う対象は、設計上の想定外です。


(二)付言すれば、これは設計の欠陥ではなく、前提の欠陥です。読まれても成立する契約でなければ、本来、契約と呼ぶべきではありませんでした。この点、装備開発部門ではなく、運用した私の判断の誤りです。


三、再発防止策


(一)みなし同意条項の改定を法務統括部に上申します。ただし、行政側より域外適用の違法性について指摘を受けており、条項強化による対応には限界があると考えます。


(二)装備・約款に依存しない対抗手段の検討を開始します。詳細は追って提出します。


四、処分について


本件二連続の作戦失敗につき、処分は社規に従い、如何様にもお受けいたします。


以上


---


(以下は、提出用データに含まれていない、彼女の私物の端末にだけ残っているメモである)


---


追記。これは提出しない。提出しないから、書く。


 こんな屈辱は、生まれて初めてだ。


 飛び級したときも、入社試験で歴代最高点を出したときも、役員会で年上の部長たちを黙らせたときも、私は一度も負けたことがなかった。「たまたま」と言われ続けても、数字で勝ち続ければいつか黙ると思って、実際そうしてきた。私のロジックは、二十二年間、無敗だった。


 御削零。


 あの人は、私の九十九・八パーセントを、たった一言で不成立にした。武器も権能も使わずに。原価零円で。しかもあの人、私の約款を全文読んでいた。第十二条にドン引きしたと言っていた。……読むなんて聞いてない。読まれる前提で書かれていない文章を読まれるのが、あんなに恥ずかしいことだなんて、知らなかった。


 そして極めつけに、プリン。


 営業妨害二回分の粗品ですって。敗者に、粗品。何なの。ふざけてるの? しかも私はそれを受け取って、持って帰って、食べた。悔しすぎて夜中に食べた。


 ……美味しかった。十円値上げしてもなお、あの品質であの価格は、原価計算がどうかしている。今度、構造を問い質す必要がある。これは業務上の関心であって、それ以外の何ものでもない。


 英語が出たのも見られた。あの瞬間だけは、データを消去したい。本気で。


 でも。


 負けを認めたわけじゃない。手続き上のエラーが二回続いただけ。私のロジックはまだ負けていない。前提を直して、計算をやり直して、次は必ず勝つ。絶対に、次は負けない。I never lose twice. 二回までは、今回で使い切った。


 御削零。あなたの名前は、覚えた。


 私の計算を二度も狂わせた人。数字の外側から手を出してくる人。……次に会うときまでに、あなたの「外側」ごと計算に入れてみせる。首を洗って、待っていてください。


 それと、プリンの代金は、次回きちんと払います。粗品をもらいっぱなしというのは、私の帳簿に合わないので。

幕間・始末書、お読みいただきありがとうございました。悔しすぎて夜中にプリンを食べる特別顧問を、どうかよろしくお願いします。


次回は本編。今度の刺客は殴り込みではなく、ハッキングです。標的はみそぎ屋の基幹システム……つまり、あの年代物のレジなのですが。


☆いただけると彼女の帳簿が少し軽くなります。

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