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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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最終話

 晴れ渡った空に、数羽の白い鳥が飛んでいく姿が見える。あの白い鳥は、平和の象徴とされている。


 さて、今日はカイン王子がコーネリア国王となる日だ。


 王家のしきたりに従って、聖堂で戴冠式を行い、城のバルコニーで民衆に新王のお披露目をする予定だ。

 そして私とルイスは、今まさに聖堂にいて、カイン王子の到着を待っていた。


(やっとこの日が来たのね)


 感慨深く思う。


 ルラ教団の長であるカーラと、その娘アメリが引き起こした「精霊の愛し子」を騙り、王家を意のままにしようとした目論見は、敢えなく潰えた。


 教主であるカーラを失った教団は最早、烏合の衆だった。

 厳しい取り締まりにより、教団は瓦解。教団二世のユーグの協力もあって、幹部は全て捕えられた。

 また、カーラが秘匿していた魔獣召喚の呪法も回収され、封印された。


 そしてリオーネ家の当主ーーつまり私の父親のことだけどーーは、王家との繋がりに拘泥し、アメリが偽物の精霊の愛し子であることに気付かず、王家に危機を招き入れたとして、爵位を没収されることとなった。


 王もまた、ルラ教団教主カーラを王城内部に招き入れたうえ、リオーネ家の専横を許した責任をとって、退位することになった。


(でも、困ったことに王様は次の王を指名することなく、隠居してしまったんだよね……)


 なお、コーネリア王国の王位継承権を持つ者は二人だけで、王子であるカインとルイスだ。


 本来、どこの国でも王位継承の順位をあらかじめ設定するものなのだけど、この国は精霊の祝福の関係で隠されて育つ者ーーつまりルイスのことねーーがいるから、敢えて順位を定めていないらしい。


 まあ、今までは精霊に祝福を持つ者が王位を継ぐ、というのが定石だったようだけれど、ルイスとカイン王子の間で、こんなやり取りがあった。



 カーラが消滅してしばらくは、カイン王子とルイスは二人で協力して、ルラ教団の残党狩りに従事していたんだけど、やがて状況が落ち着いてくると、カイン王子は不意に、こう切り出した。


「慣例に従い、精霊の祝福を持つお前が王になるべきだ」


と。その言葉を聞いたルイスは、軽く首をすくめる。


「私には荷が重すぎます。王に相応しいのは、カイン。君だ」


 カイン様相手にどんな態度を取るべきか迷走中のルイスは、ちょっと不自然な言葉遣いのままに、こう付け足した。


「私は帝王学を学ばず生きてきました。そんな私が治められるほど、国の運営は容易いものではないでしょう? それに、私は君ほど国を思う意識が高くないんだよ」


 自分を律して国民の理解を得ること。何よりも国と国民を愛すること。それらは一朝一夕で身に付くものではない。王子としての教育を受けずに育ってきた自分には、それらが備わっていない、とルイスは続けた。


 しかしカイン王子も、そう簡単には引かなかった。


「しかし、お前は精霊の祝福を受けている」


 恐らくカイン王子にとって、永らく「王位を得ること」と「精霊の祝福を得ること」は同意義だったのだろう。そう簡単に割り切れないのかもしれない。


 けれど、その言葉を聞いたルイスは皮肉っぽい口調で、ばっさりと切り捨てた。


「父上を見たでしょう? 精霊の祝福を持っているからといって、政治力があるとは限らないという見本ですね」


 ルイスの言葉は辛辣だ。

 でも、その言葉を受けて初めて、カイン王子の瞳が迷いに揺れた。


「王の地位が欲しいとは思わないのか?」


 子供の頃から王になることを目標としていたカイン王子にとって、王位が不要だと言い切るルイスは、まるで異世界の人間のように見えるのかもしれない。

 対するルイスは、きっぱりと言い放った。


「私は、アイリーンが幸せなら、それでいいんです」


 唐突に私の名前が出てきて、びっくりする。カイン王子の視線が私に向けられた。その視線が何だか少し複雑そうで、申し訳なくなる。


(うちのルイスが王位と私を天秤にかけて、ごめんなさい)


 心の中でルイスに代わりカイン王子に謝っておく。


 でも、ルイスの言葉は一理あると思う。


 精霊の祝福を受けているというだけで無条件に王位に就くことができる、というのは国政にとって、決して良い制度ではないはずだ。


「ただ、精霊の祝福を受けた者としての義務は果たす。君をしっかり支えていくよ」


 そう言って、ルイスはカイン王子に右手を差し出した。


「……ああ」


 カイン王子は応じて、しっかりと握手する。


 一見、仲が良さそうに見えるけれど、互いのこめかみの血管が浮いているのは何故だろう。握手も長いし、なんだか握る力も強そうだし。


⭐︎


 そんなやりとりを経て、今日この日を迎えたのである。


 私とルイスは、新王を支える新しい組織の長に就任。落ち着いたら結婚式を挙げる予定だ。


 聖堂で「カイン王」の戴冠式を見届けた私とルイスは、カイン様と共に、バルコニーに出た。


 広場を埋め尽くす民衆の歓声に応える王の横で、控えているのが私たちの今日の役目だ。


 私たちが精霊の祝福を持つ者であり、愛し子であることについては、国民には公表しないことにした。いたずらに派閥を作るのを避けるためだ。


(まあ、派手に動いた時もあるから、知っている人は知っているんだけどね)


 ただ、ルラ教団を解散させたことにより、魔獣の数は目に見えて激減している。必ずしも精霊の加護が必要ではない環境になりつつあった。


 国民への新王のお披露目を終えた私たちは、ルイスのために用意された私室に向かって歩いている。


「少しずつ、この祝福の力も薄れていきそうだね」


 私の肩に宿る愛し子の印は、以前のように熱を持たなくなった。ルイスとの祝福による繋がりも、少しずつ薄れてきているような気がする。


「アイリーン」

「ん?」

「私は、アイリーンが愛し子だから好きになったわけじゃないですからね」

「知ってる。だって私もそうだもの」


 私とルイスが出会ったのは、確かに運命かもしれない。


 だけどルイスが精霊の祝福を受けた者だから惹かれたわけじゃない。


 もし祝福の者と愛し子が問答無用で惹かれ合う定めだとすれば、私たちは一目合った瞬間に恋に落ちていたはずだ。

 でも、私がルイスへの恋心を自覚したのは、この学園に来てからだし、気持ちはゆっくりと育っていった。


 私たちの恋は運命なんかに左右されるものではない。


「アイリーン、好きですよ。ずっと私の側にいてくださいね」

「私も、大好き!」


 繋いだ手は、育まれてきた愛情の温かさに包まれていた。



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