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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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25-2

「ルイス、駄目!!」


 私はルイスに制止の声をかけた。


 違和感の元は、その魔獣が発していた。魔獣の邪気の中に潜む「人間」の気配。それを感じ取れたのは、聖獣と人の間を行ったり来たりしているルイスを間近で見ていたからかもしれない。


 私の声を聞いたルイスは、ぴたりと動きを止めた。けれど警戒は解かず、純白の毛は逆立ったままだ。ぐるる、と唸りながら私と魔獣の間を塞いでいる。


 魔獣もまた動きを止めた。私たちを襲うことはなく、ただ、ぶるぶると体を震わせている。強い葛藤が感じられた。

 私はルイスの背に手を置いた。


「ルイス。この魔獣は、人だよ」


 そして、この魔獣は今も人に戻ろうと抵抗しているのだと。きっと自分の意思に反して操られているのだろう。

 ルイスの目が見開かれた。聖獣の姿なので表情が読みづらいけれど、多分、驚いているのだと思う。


 その後、何か思うところがあるのか、ルイスの瞳が閉じられた。同時に彼がまとう光が強くなる。いつも彼がまとっている燐光のようなものとは違う、何か特殊な力を持った光のようだった。


 その光が魔獣を包み込む。


 すると、魔獣の体にまとわりつく黒い闇が薄れ始めた。どうやら浄化の光のようだ。


(でも……)


 光を浴びた魔獣が咆哮を上げてのたうち回る。その神気は、魔獣には強すぎるようだ。


「ルイス、少し下がれる?」


 私が声をかけるとルイスは私を見上げた。すぐに私の意図を察して、一歩下がってくれた。そんなルイスの背中に触れたまま、


「心配ないですよ」


と私は魔獣に語りかける。


 ーー私に魔獣化を止める力はない。私にできることは、本人の人間としての意識を強めるために、呼びかけることくらいだけど、もう一つ、できそうなことがある。


「貴方は人間です。心を強く、自分が人であることを強く念じてください」


 ルイスが放つ神気は、魔獣にかけられた術を解くことができそうだけれど、あまりに苛烈すぎて魔獣をいたずらに傷つけてしまいそうだった。

 だったら私を媒介すればいいのでは? と考えた。ルイスの聖獣としての力を安定させるのが私の力なのだから。


 その予想どおり、光が柔らかなものに変わる。ーーこれなら、魔獣に変えられた人に過度な負担をかけることなく、邪法を解くことができそうだ。


 やがて魔獣の闇が剥がれていく。


 その魔獣の邪気が晴れた中から現れたのは、私たちが、とてもよく知っている人だった。


「カイン王子……」


 倒れ伏しているのはカイン王子その人だった。眉間に皺を寄せ、固く目を閉じている。しかし呼吸はあり、命に別状はないようだ。


 魔獣の正体を知り、改めてルイスが魔獣を倒してしまわなくて良かったと、ほっとした。


 そもそもカーラは、カイン王子が聖獣を倒すことができるなんて考えていなかったと思う。

 ただ、ルイスにカイン王子を攻撃させたかっただけだ。


 精霊の祝福を受けた者が、異母弟を手にかけるという醜聞により、国民と王家の精霊信仰に対する打撃を狙ったのだろう。


「大丈夫。気を失っているだけです」


 いつの間にか人の姿に戻っていたルイスもまた、カイン王子の傍に膝をつく。そして手首で脈を取り、彼の無事を確認すると、


「少し移動しましょう。私たちの足元にカイン王子が転がっているのは、あまり外聞が良くないですから」


と、その場からの移動を促した。


 そして少し離れたところで立ち止まり、ルイスは私に向き直った。


「カイン王子が心配だった?」


 少し拗ねたようなルイスの声に、私は苦笑した。嫉妬しているのかな? って思うと、ちょっと可愛く思えた。


「それもあるけど……ルイスの方が心配だったの」


 私の答えが予想外だったらしく、ルイスは目を丸くする。


「どうして?」

「だって、人を傷つけたらルイスは一生、後悔する。しかもカイン王子はルイスの家族でしょう? 手をかけたりしたら、一生、その事実に苛まれるわ」


 たとえやむを得ない状況だったとしても、人ーーましてや家族殺しの烙印を押されて生きていくのは、きっと辛い。ルイスだって、心に深い傷を負っていたことだろう。

 私の答えを聞いたルイスは、ゆっくりと目を伏せた。


「ありがとう、アイリーン」


 言いながら開いた目には、決意がみなぎっていた。


「でも私は、アイリーンのためなら、きっと家族でも殺します。アイリーンは私にとって、誰よりも大切な人ですから」


 絶対に失えない、と言うルイスの表情は切羽詰まっていて……ひどく頑なになっている彼の心を解すにはどうすればいいのだろう、と考えた私は目を閉じて、彼の唇に自分の唇をそっと押し当てた。


 口づけしていた時間は、ほんのわずかだった。唇を離して目を開くと、ルイスが目を真ん丸にしていた。

 ルイスはしばらく硬直していたみたいだったけれど、はっと我に返るなり私の肩をがしっと掴む。


「アイリーンからしてくれるのって、初めてですよね」

「もしかして嫌だった?」


 少しだけ不安になって聞いてみると、ルイスは心外だという顔で首を左右に振った。


「まさか。……とても嬉しいですよ」


 そう言って、ルイスは私の腰に腕を回す。そして私の唇に、そっと唇を重ねた。

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