第三十二話 取り引きの前夜
「おお、蜜柑と偽王子か」
私は妖力草を持参して、アレクシス王子のお部屋に半トリップした。すると、すでにアレクシス王子とパトリック執事が待ち構えていた。
「アレクシス様、妖力草を摘み取ってきました!」
妖力草がいっぱい入った花かごを差し出すと、パトリック執事が目を丸くして驚いていた。
「こんなに沢山!? 蜜柑様と偽王子様は、さすが名高い妖精様であらせられる!」
アレクシス王子はそれを受け取って、本のイラストと実物を確かめていた。そして、納得したように頷いた。
「これだけあったら、第三王妃も納得するだろう」
「左様でございますね! 私めは感動いたしました!」
パトリック執事は眼鏡を外して、ハンカチで目元を拭いている。
「ありがとう、蜜柑、偽王子」
アレクシス王子は嬉しそうにお礼を述べた。それには偽王子君まで恐縮したようだ。
『お礼を言わねばならないのは俺の方です。そもそもは、俺の為にアレクシス様は願い星を手に入れようとしてくれているのですから!』
「いや、構わないよ、偽王子。忘れているのかもしれないが、蜜柑と偽王子は私の為に毒を混入させていた者を突き止めてくれたのだからな。そのお礼だから構わない」
「あ、そう言えば……」
『そのようなこともありましたね……』
すっかり忘れていた。アレクシス王子は呆れたように笑った。私と偽王子君も釣られるように笑い出す。
「まったく、人の好い者たちだ」
「アレクシス様こそ……!」
『でも、アレクシス様。ローズ様は何を企んでいるか分からないので、十分に注意してください』
偽王子君は、心配しているようだ。
確かに、ローズ第三王妃は油断ならない人物だ。
私の気分も引き締まり、アレクシス王子やパトリック執事の表情も真剣みを帯びた。
「ああ、十分に気を付けよう」
その日、アレクシス王子とローズ第三王妃は、明日の早朝に会う約束を取り交わした。拍子抜けするぐらいに、事がうまく運んだのだ。
この日、お城の中は静かだった。




