第二十九話 妖力草と王立図書館
私は、異空間からアレクシス王子の部屋を見守っていた。
『パトリック、薬草は『妖力草』というらしい。どんな病にでも効くという万能薬だそうだ』
『すぐに手配いたします』
アレクシス王子の指示を受けて、パトリック執事は部屋から出て行った。
「ほぉ……。妖力草……」
『怪しげな名前だね、蜜柑ちゃん』
「うん……」
万能薬か。確かに、どんな病にでも効くのなら、ローズ第三王妃のご友人の病にも効果を発揮するだろう。確かに、それならつじつまは合う。
でも、万能薬なら他にもあるはずなのに、『妖力草』を指定してきたということが、引っかかる。
それから、三日が平和に過ぎて行った。
その日の、夕刻。読書をしていたアレクシス王子の前に、パトリック執事がいつものように姿を現した。アレクシス王子は本から顔を上げておられた。パトリック執事は、申し訳なさそうに視線を下げている。
『アレクシス様……とても申し上げにくいのですが……』
聡明な方なので、それだけで理解するに至ったようだ。
アレクシス王子は、静かに嘆息して答えた。
『妖力草はなかったということだな』
『はい。国内の薬屋全てを当たったのですが、どこにも妖力草は扱っていないと……申し訳ございません……』
予想できる結果だった。そりゃそうだろう。ローズ第三王妃がすでに国内をくまなく探してもどこにもなかったのだから、アレクシス王子がその跡を探しても結果は同じだろう。
「ふーむ、ないのか……偽王子君は妖力草って聞いたことある?」
『俺も妖力草なんていうのは聞いたことがないよ』
「そんなに珍しい薬草なのかぁ……」
私は姉の部屋の天井の壁紙を見上げて考えた。アレクシス王子にできなくて、私にできること。それは――。ふと、姉の不敵に笑う顔が脳裏をよぎった。私の座っている傍には姉の日記が置かれてある。
「困った時のお姉ちゃんの日記……」
私は、姉の日記をパラパラとめくった。
【困ったときは、王立図書館だ! その本を翻訳して読めば、大抵の事は分かるぞ!】
王立図書館! そんな便利な物があるのか!
「おおお! さすが、お姉ちゃんだ!」
『じゃあ、王立図書館に行こう!』
「うん……。でも、ローズ第三王妃は、そこも調査済みな気がするけど……」
『とにかく、行ってみよう? 王立図書館なら大抵の事が分かるんでしょ?』
「そうだね!」
私は、「宝玉国の王立図書館に飛べ」と念じた。すると、画面が城館のような建物を映し出した。西洋風のドアをすり抜けて入ると、一万冊はあるかもしれない本が整然とお目見えした。木の本棚に入れられて、所狭しと並べられてあった。王立だからか、内装も本棚もお城の中のように豪華だ。しかし、お城とは違って一般人も出入りしているようだった。
私は異空間を前に意気込んだ。
「じゃあ、偽王子君。背表紙を全て翻訳してくれるかな?」
『了解!』
背表紙に書かれていたワケのわからない文字は、日本語に翻訳されて異空間の画面に映った。
「ありがとう、偽王子君!」
しかし、異空間を抜けるとその効果はなくなる。だから、テレビのように異空間を通して見なければならないようだった。
「妖力草……妖力草……あった!」
手だけを半トリップした私は、本を一冊手に取った。そして、異空間をすり抜けてこちらの姉の部屋に持ってきた。
「借りてきたけど、どこで読めばいいんだろう? 偽王子君の力を借りないと、異世界の言葉は読めないよ?」
『アレクシス様のお部屋でゆっくりと読んだらどうかな?』
「そうだね!」
あの部屋は、パトリック執事とアレクシス王子しかいないから安心だ。本を抱えた私は、早速移動した。




