第二十三話 快晴国の姉の店*
昨晩は事件が解決したので快眠が得られた。姉のベッドを掃除したからでもある。
何ともなしに目が覚めると、朝の七時だった。世間は、正月というイベント真っ最中だ。自宅に帰ってみたものの、父と母はまた仕事に出かけて行ってしまったので、また姉のアパートに引き返した。帰りに寄ったコンビニもひとがわんさか溢れていた。
結局、姉のアパートの部屋に帰ってきた。
「開けゴマ!」
私は、異空間を開いてみた。異世界の風景が画面に流れている。
偽王子君はようやく目が覚めたらしい。『ふああ~……』と、眠そうなあくびが聞こえてきた。
「明けおめ~、偽王子君! 今日も、コンビニで沢山仕入れてきたからね~!」
『蜜柑ちゃん、明けましておめでとう! おせち、美味しそうだね~』
「一緒に食べよう!」
私と偽王子君は、談笑しながら遅めの朝食を摂った。勿論、異空間の偽王子君には、私が食べさせてあげた。
「それで、今日はどうしようかな~」
そうして、姉の日記を鼻歌まじりにパラ見する。
「ん?」
姉の嬉々とした文字が意気揚々と角度をつけているのが目に留まった。
【快晴国に私が店を出そうと思って、買っておいた一軒家がある! 蜜柑、遊びに行っても良いぞ!】
「おお、これは!?」
どうやら、姉は異世界を満喫していたようだ。お店を開店しようと考えていたのか。でも、こんな立派な店をポーンと買って、開店をやめるなんて、姉は異世界で一発当てたに違いない。
『どうしたの? 蜜柑ちゃん』
「お姉ちゃんが、快晴国にお店を買ったんだって! 遊びに行ってもいいって!」
『快晴国って知ってる?』
「お姉ちゃんが地図を書いてくれてる! 見て!」
余弦国と夢見国が一番大きい国みたいだ。星方国と快晴国は同じぐらいの面積で、二つ合わせると予言国ぐらいの大きさになるようだ。宝玉国は快晴国の半分くらいの面積だ。
「お姉ちゃんのお店かぁ」
私は姉の日記を胸に抱いて、期待に胸を膨らませた。
『行ってみるのも悪くないよね』
「行こう、行こう!」
私は、偽王子君の異空間に手を翳した。「快晴国に行け!」と念じると、パッと画面が切り替わった。私は、とても高い上空から快晴国の街並みを見下ろしていた。
大きな湖の周りには、オレンジ色屋根の家々が景観を彩っている。遠くに山脈が見えて、雄大な自然が日の光を一層のどかにしていた。
「ここが、快晴国かぁ……」
『なんていうか、空気が綺麗な感じがするね』
一通り観光して満足した私は、『お姉ちゃんの店に行け!』と念じた。すると、画面がパッと切り替わった。異世界の言葉で、何か看板に綴ってある。
「偽王子君、翻訳して!」
『いいよ~』
偽王子君が、画面の文字を日本語に翻訳してくれた。
『檸檬の店』と、看板に書いてある。淡泊な感じがなんとも姉らしい。
「おお、お姉ちゃんのお店!」
私は、画面を移動させて、姉の店の中に幽霊のようにすり抜けて入って行った。鍵がなくても入れるだなんて、幽霊か透明人間にでもなった気分だ。
店内は、まだ開店も何もしてないのか、新品の棚にはビニールがかけられてある。そして、ほこりが積んでいた。それでも興味があったので、私は異世界の中に入ってみようと考えた。
「よいしょ……!」
私は偽王子君の異空間から中に入って行った。今回は、捕まる心配が全くないので、今回は半トリップではなく異世界トリップをした。姉の店内に足を降ろすと、窓から外の景色が一望できた。湖の向こうには山脈が見える。なんて雄大な景色だろうか。
「わぁ、すごいよ! 良い眺めだよ!」
壁には、私にしか見えないインクで、姉の文字がでかでかと【私の天下だ!】と下剋上していた。
「お姉ちゃんも相変わらずだったんだね」
返事が何も帰ってこないので、私の声が独り言のように室内に響き渡っていた。沈黙が虚しい。振り返ると、異空間の丸い小窓がぽっかりと開いている。
「ねえ、偽王子君!」
しつこく呼んでも返事が返ってこない。
「偽王子君……?」
眉を寄せて尋ねても、返事がない。
「やっぱり、こっちからは偽王子君の声が聞こえないのか……つまんないな……!」
偽王子君の声が聞こえてこないなんて、いくら姉の店が素晴らしくても、味のないケーキみたいなもんだ。
私は、のそのそと異空間をくぐって、現実の世界にある姉の部屋に帰って行った。
『ゴメン、蜜柑ちゃん……』
床に転がり出ると、異空間の偽王子君のシュンとした声が聞こえた。私はホッとして、異空間に微笑みかけた。
「偽王子君のせいじゃないよ。異空間に閉じ込められているんだから仕方ないよ。なんとか私も力になりたいんだけどなぁ……」
『ありがとう……! あっ、アレクシス様をこのお店にお誘いしたらどうかな?』
「そうだねぇ……じゃあ、そうするかな!」
偽王子君がそういうなら、アレクシス王子をお誘いしてみよう!
私は、アレクシス王子の部屋に画面を移動させたのだった。




