第十二話 料理人フェリックス
翌朝、私は姉のアパートの近くの商店街に向かった。世の中はメリークリスマスなのか、何となくいつもの商店街とは違うハッピーな雰囲気だ。
クリスマスだというのに懐が寂しくなってきた今日この頃。だから、アレクシス王子にお願いして金のボタンを一つ頂いた。それを、現実の世界の質屋で売り払ってお金に変えた。そして、立ち寄ったコンビニでささやかなクリスマスの料理を購入して、姉のアパートに戻ってきた。そして、コーヒーを入れた。その香りが、寒さで引き締まった部屋の中を穏やかな雰囲気に変える。
「さて、異空間を開くか。『開けゴマ!』っと……!」
すると、ボワンと丸い小窓のような異空間が現れた。
異空間から見えているのは、アレクシス王子のお部屋だ。
『やあ、蜜柑ちゃん。おはよう。そっちはメリークリスマスみたいだね』
偽王子君の爽やかな声が、部屋の中に響き渡った。
「偽王子君、メリークリスマスだね~。何かそっちは進展があった?」
『アレクシス様はずっと眠っておられるよ。犯人は来ない……というか、俺は蜜柑ちゃんの異空間を合わせている場所以外は動けないんだ……役に立てないかもしれないけど……』
偽王子君はしゅんとしてしまった。
「……何かあったのなら、話すべきだと思うよ?」
『……実は、気がついたら異空間から出られなくなって』
「な、なんでまた!?」
『さ、さあ? 気がついた時にはそうなってたんだ』
「な、何故に……? 気がついたときにはって、普通異空間に閉じ込められたらすぐに気づくような……」
『目が覚めたらそうなっていたんだよ』
「ふ、ふーん……」
確かに、目が覚めた時に異空間に閉じ込められていたら、怖いものがあるな。
『現実世界からは俺の声は聞こえるみたいだけど、異世界の方からは俺の声も伝わらないし……』
そ、そう言えば……!
やけに、偽王子君が大人しいと思う時があった。良く考えると、あの時は私が半トリップしていたときだったんだ。だから、偽王子君の声は聞こえなかったのか。
『自分では食事もできない。しかも、檸檬さんなしじゃ、異空間を動かすこともできなかったんだ』
「そ、そんな……!」
『できるのは、異空間の中からスマホをかけることぐらい……』
そっか、電話をかけてきたのは、偽王子君が私に助けを求めていたのか。
『でも、肝心な檸檬さんにはフラれてしまったんだ。でも、蜜柑ちゃんを紹介してくれるっていうから安心していたんだけど……』
「ふ、ふーん?」
『後日、檸檬さんとコンタクトが全然取れなくなって。だから、檸檬さんに教えてもらっていた蜜柑ちゃんのアドレスをですね……』
「なるほど~、偽王子君も大変だね!」
『でも、蜜柑ちゃんを見つけたのは良いけど、俺の方からは全然力になれなくてゴメン……』
「そ、そんなことないよ! 偽王子君は頼りになるよ! 偽王子君が居てくれてよかったよ!」
私は精一杯励ました。
すると、偽王子君は元気を取り戻したように笑ってくれた。
『ありがとう、蜜柑ちゃん。じゃあ、犯人を捕まえるために、早速厨房に移動しよう?』
「そうだね!」
念じると異空間が宝玉城の厨房に切り替わった。
高そうな三ツ星レストランの厨房のような感じだ。磨かれたシンクの上には調理道具が整列してある。ガスコンロの上には磨かれた銀の鍋が置かれてある。
その少し離れたところで、料理人たちが並んで料理の段取りの打ち合わせをしていた。
『フェリックス!』
『は、はい!』
『お前は、アレクシス殿下の料理を担当しろ!』
『お、俺がですか!?』
料理長らしい人に担当を決められたフェリックスは、驚きをあらわにしていた。
『冗談じゃないですよ、料理長! 俺は、第二王子様の――ギルバート殿下のお料理を担当したかったんです! アレクシス殿下のお料理を担当だなんて、今までの担当者と一緒で私は罪を着せられて処刑されてしまうんじゃないですか!?』
「な、なんだって~!?」
ということは、今まで犯人を捕まえようとしたけど、全部冤罪で罪を着せられて処刑されたというわけなのか。
フェリックスの激昂を聞いて、料理長が怒った。
『口を慎め、フェリックス! お前が、料理に毒を入れなければ処刑などされないはずだ!』
『そ、そんな……!』
これでは、フェリックスがあまりにも可哀想だ。
「よーし、犯人を突き止めるか」




