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境界線に触れる時1

神之門じんのとという都市がある。


都市といっても、開発段階の小さな都市だ。


山々に囲まれ、自然が多く、四季折々の景色を楽しめる。田舎といえばそうであるし、都市としての人口も少ない。


おおよそ18万人、元は過疎区復興の為の大掛かりな町おこしに近かった。その工事の最中…ある種の発見があった。


この国では珍しい、エネルギー資源が発見された。


そうーー原油だ。山々は海に連なる地脈に繋がっており、そこから何らかの形で吹き出したーーとの見解を示し、神之門じんのとの住民は沸き立った。


沸き立ったはいいが、しかし問題も生じた。


大掛かりな工事による、住民の退去。古い家屋を壊し、道路を引き、エネルギーを貯蔵する施設を作る…


工場の建設、高級なマンションや住宅街を作る為に、山を切り崩し、更地にされーー昔の穏やかな町並みは、姿を小さくしていくしかなかった。


何年間か過ぎた頃…神之門じんのとのエネルギーに異常が起きた。


原油の供給が無くなったのだ。枯渇したか、はたまた、山を切り崩した罰か…


エネルギーを得られなくなった事により、栄えた街は衰退していく事になる。


完成すらせずに放置されたビル群や、家屋、開発に真剣だった国も…この衰退を目の当たりにして、手を引かざる終えなかった。


そうして、今の神之門じんのとという街は、こうして完成を拝めない建物が並び。開発途中の廃ビルが、住宅街の近くに並び立つ異様な光景が残っている。


そんな土地、神之門じんのとの廃ビル群の中を一人の少女が歩いていた。


「遅くなったから…こっちのほうが近いし…来たのはいいけど…やっぱり怖いなぁ」


そんな独り言を言いながら少女は歩く。


歩くたびに、濃い紫の肩までかかるウェーブした髪が風にたなびき、ゆっくりとした息遣いと共にゆさゆさと揺れ動く。


顔立ちは幼く、童顔といえる。栗色の大きな瞳と子供のような顔立ちに相まって、学生服に身をつつんでいるのが愛らしさを際立たせる。


紺のブレザーに白のYシャツ、胸元には赤い紐のリボンが揺れ動き、紺のスカートが風にたなびく。


「ああーやっぱり、普通に帰ればよかったかなぁ…こんなに暗いと思わなかったし…道も歩きずらいし」


少女はそんな事を愚痴りながら頭上を見上げ、満天の星空に、雲一つない晴天のような空に輝く大きな満月を見つめーーため息を吐き出した。


「ああもう…何で今日に限って部活が長引いたのよ…こんなになると思わないよ」


ブツブツと一人で喋りながら、肩に掛けたスクールバッグを脇に寄せ、ゆっくりと前進し続ける。


住宅街が近づいて来たのか、月の明り以外に人口の照明が見え始め、少女は急ぎ足で進んでいく。


少女の周りには廃ビルが崩れて瓦礫となっていたり、二階までしかないような、小さな作りかけのビルが点在し、明暗を繰り返す古びた街灯がある。


古びた街灯の下で、少女は急に立ち止まる。


スクールバッグから軽快な音が流れており、少女はガサゴソとバッグの中を漁ると、ピンクの小さな端末を取り出した。


「お母さんからだ…何だろ?」


少女は端末ーー携帯を手にし、着信をとろうとして、携帯をかざした時だった。


ガターーと音が響いた。少女はあまりの驚きに、体を一度跳ねるように震わせた後、ゆっくりと音がした方へ首を動かす。


ちょうど、少女の斜め後ろに位置するーー倒壊したのか開発途中かの、崩れかかった廃ビルの入り口から聞こえたようだ。


少女はそこに視線を合わせ、目を細めジッと見ながら、異常が無いことを確認したのか、深く息を吐きーー


ーー携帯の画面に目を映すと、画面に映る少女の後ろにスーツ姿が見えーー



「え?」


間抜けな声を発した少女は、急に地面に座りこむ。


「ーーあ、え?嘘…動かない!嘘…嘘!」


腰が抜けたのだと理解すると、それと同時に何かが少女に近づいてくる。


少女が動かない足を叩きつけながら、背後を見ようと振り返る瞬間ーー


「ぐ、ギュル…げ…あが…」


意味不明な呻きが響き、唐突に少女へと生暖かい液体が降り注いだ。


「なに!?嫌だ、嫌だ!これなに!?」


完全にパニックになっている少女は、服や髪についた液体を手で拭いながら、ふとーー手の上に何かゼリーのような物体が落ちて来て、少女の顔が恐怖に歪んだ。


「こ…これ…え?なん…なんで…こ…目」


ーー手の上に落ちてきたのは、丸い形の、瞳は黒の眼球だったーー


「あーーあぁあぁ…アー!!!」


叫びながら、少女は前へと這う。足が震え、それでも前へと這いつくばって突き進む。


地面には大量の赤い液体が湖のように広がり、その所々によく見れば茶色かかった肉が無造作に列をなす。


「いや…なによ…これなに?」


ガタガタと震える体のせいで、上手く前に進めないのか、少女は血溜まりの中でバタバタと喘ぐ。


魚が跳ねるようなそんな動きの中で、唐突に地面を踏みしめる音が響く。


「え?なによ…なによ…」


パニックに陥った少女は、何故か体を回転させその音の正体を見やる。


ーー月光に照らされるのは、茶色の毛並み、長く巨大で長い口から覗くのは、獰猛な犬歯、丸太のように重圧な太い筋肉が盛り上がった腕と、重圧な胸板に、腕の先にあるのは、狼のような鋭い爪と…金色に輝く二つの鋭い相貌が少女を見据えていたーー


「狼…人…狼?」


少女は呻きに似た声でそう呟き、まだギリギリ人であった頃に身に付けていた、破れんばかりのズボンがあることに気づき…これが人だったと認識したのだろう。


「グォォォーー!!!」


歓喜に似た声で狼は咆哮した。少女は耳を塞ぎ、有り余るその声量に必死に耐えーー


目の前にある獰猛な爪に遅れて気付いた。驚愕に目を開き、そのままーー


ブレード、確実に貫け《エンドオブトレイター》!!」


声が聞こえた。刹那、月光に照らされ、銀の閃きが少女の目の前で舞う。


「ガ…ギュル…ガァァ!!」


迸る赤い液体と共に、茶色の丸太のような腕が少女の横に転がる。


後退した狼は、右手を失いながらも前進。風のような速度…否、それ以上の疾走を持って、少女へと肉薄。

「黙ってろ…出来損ないが…」


いつの間に降り立ったのか、狼と少女の間には一人の男がいた。


肉薄するあの化け物に対し、無手のままでただーー掌を向けーー


「我は命じる《セット》、守りてよ《アンロック》、神判を下せ《ギルティー》」


彼の声に従うように、肉薄した化け物はーー目の前で精肉されたブツ切りの肉のようにーー


ーー綺麗に地面へと切り裂かれたーー


静寂が舞い降り、呆然とした表情で、少女は目の前に降り立った彼を見つめる。

「…終わったぞ。帰れるなら帰れ」


振り向きもせず、彼は立ち去ろうとする。立ち去ろうとして、不意に崩れ落ちる音を耳にして、彼はため息を吐きながら、少女が倒れた場所へと行き、少女を抱えるとーー


ゆっくりと廃ビルの中へと消えていった。


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