兎から亀へ
「――兎さん!飛兎さん聞いていますか?」
ふと、自分の名前が呼ばれていることに気づいて、普通の女子高生こと、飛兎は窓から視線を外した。
「聞いてる」
溜息まじりの声には、若干の不満が混じっている。
所謂逆ギレとは本人は気づかない。
切れ長の眼で見つめられた教師は怯みつつ、気丈に振る舞う。
「今何の話をしていたか、ちゃんと聞いてましたか?」
「えーと……世界平和?」
「違います。入学式の説明です」
教壇の前に立つ教師が、深々とため息をついた。
窓の外では、桜が舞っている。
新学期。
新しい制服。
新しい教室。
そして、飛兎の目の前には、退屈そうな顔をした同級生たちが並んでいた。
窓から椅子の背もたれに体重を預ける。
癖が強い髪を、面倒くさそうにかき上げた。
「先生」
「なんですか」
「もう帰っていい?」
「駄目です」
「遅いなあ」
「何がですか!」
窓の外を見た。
青い空。
穏やかな風。
遠くを走る電車。
ここには銃声も、爆発も、死の匂いもない。
壇上では、教師(犬飼とか言ったか)が入学セレモニ ーの説明をしている。
そんなことやるより授業をやった方がいいのではな かろうか。
学舎とはよく分からない。
「それでは軽くそれぞれ自己紹介といきましょう」
犬飼教師の指示でクラスのプロフィール発表
1人平均1m30sec。カチッ。
首元にぶら下げた懐中時計を見ながら足首から先をパタつかせる。
「次は飛兎さー」
「シュッセキバンゴウ17バントビウサギイジョウ」
……………………………
「なんて?」
「兎いじょう?」
まるで何処ぞのボーカロイドのような早口に、騒めく教室。
しかし、兎の眼中にそれはない。
(10sec)
新記録だ。
鼻息とニヤけを隠すのに必死。
おっといけない。
兎は気を取り直して、隣の男子生徒に注がれている。
隣の男子生徒が立たずに前に出てきて挨拶する。
「亀山仁です。よろしくお願いします。足は使いませんが、口はよく使います。皆さん気になさらず」
笑いが少し起こる。
ともすれば空気を悪くしてしまうような発言だったがこの青年が口にすると不思議と雰囲気ぐ柔らかくなる。
たとえ、歩けないことを言っていたとしても。
亀山とふと目が合った。
何せ隣の席だ
兎は怪しまれないように、精一杯の笑顔を作ってみ せる。
完璧だ
顔が引き攣っていたのは言うまでもない。
慣れてないんだから




