全落ちちくわと、飼い主のため息
ちくわの面接チャレンジは、その後も続いた。
近くのスーパー、カフェ、町工場、なぜかペットショップ――どこに行っても結果は同じ。
「またの機会に…」
「今回はご縁がなく…」
「ごめん、うちは人間経験一年以上じゃないと…」
最後のは完全に条件が無理だ。
帰り道、ちくわは足取りも重く、スーツの肩がしょんぼり落ちている。
朝はあんなに胸を張っていたのに。
「わたし……働けない」
声が小さい。
ハムスターの時は鳴かなかったくせに、いまは妙に感情豊かだ。
「いや、そもそも人間じゃなかった時期が長すぎるんだって。職歴ゼロじゃなくて、種族ゼロなんだよ、ちくわ」
慰めたつもりが、余計に落ち込ませたかもしれない。
家に戻る途中、コンビニの前のガラスに自分の姿が映る。
人間の姿だけど、動きや表情がちくわのままだから、どうしても「人っぽい何か」みたいに見える。
本人も気にしているらしく、じっと鏡を見つめていた。
「わたし、変じゃない?」
「変だよ」
「……だよねぇ」
泣きそうなちくわの顔を見て、胸が少し痛くなる。
家に着くと、ちくわはケージを眺めて小さくつぶやいた。
「ここ、狭いって思ったけど……いまは、落ち着く」
その言い方は、今にも戻りそうで少し焦る。
それでも、ちくわは扉に手をかけることなく、ソファに座った。
「わたし、もう一回だけ挑戦したい」
「うん。いいよ。付き合うよ」
ちくわは鼻をすすりながら、うん、と頷いた。
涙でまつげが濡れている。
人間になったせいで、泣くのもすごく人間くさい。
その夜、私はため息をつきながらネットで求人を探した。
――頼むから、どこか一つくらい拾ってくれ。
このときの私は、まだ知らなかった。
翌日、とんでもないスカウトがちくわに来ることを。




