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うちのハムスターが引きこもってばっかりだと思ったら、急に擬人化してきたんですけど!?  作者: 櫻木サヱ
ハムスター、外に出る

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9/35

ちくわ、まさかのスカウトを受ける

翌朝。

昨日の全落ちショックで、ちくわはソファに丸まっていた。

スーツのまま寝たせいでネクタイが後ろ前になっている。

人間になっても生活能力はあまり成長していない。


「ちくわ、起きよ。今日も求人探すんでしょ?」

声をかけると、まぶたを重そうに上げて、ぼそっと言う。

「わたし……社会に向いてないのでは……?」

いや、昨日の段階で薄々気づいてたけど。


と、その時。


ピンポーン。


朝の静かな空気にドアベルが響く。

私がドアを開けると、そこには黒いスーツの男が立っていた。

黒髪オールバック、サングラス。

どう見ても一般的な朝には来ないタイプ。


「失礼。ちくわさんのご自宅はこちらで?」


一瞬で心臓が冷える。

まさか、借金?いや、ハムスターが借金するわけない。

じゃあなに、脱走歴とかで?

それとも、ペットショップ時代の闇……?(そんなの無い)


男は胸ポケットから名刺を出した。

「私、芸能プロダクション『スター・ビースト』のスカウト担当です」


動物名みたいなプロダクション名だな。


「SNSで話題になってましてね。

昨日、商店街で『赤い郵便ポストにビビるスーツの男』としてバズってます」


あれ、思いっきりちくわじゃん。


スマホを見せられた。

動画には、ポストを「つよい…敵……」と警戒して壁に隠れるちくわの姿が映っていた。

コメント欄には、

「人間になったばかりの動物感すごい」

「歩き方が完全にハムスター」

「かわいすぎる」

「むしろ推せる」

などの声がズラッと並んでいる。


男は言った。

「ぜひうちで、ちくわさんをデビューさせたい。

ジャンルは、動物枠……いや、人間と動物の境界枠?

とにかく、新しいスターになれる可能性がある」


ちくわは固まった。

目がまん丸。

耳がピクピクしている気がする。

まだ耳あるのか知らないけど。


「わ、わたし……スター?」

「はい。もちろんギャラも出ますよ」


ギャラ、という単語にちくわの視線が動いた。

完全にハムスター時代の「ヒマワリの種見つけた時の目」になってる。


「……わたし、働ける?」

「ええ、むしろあなたにしかできない仕事です」


その瞬間。

ちくわは胸に手を当て、静かにひとこと言った。


「やる」


いつになく早い決断だった。

昨日の全落ちのショックはどこへ行った。


スカウトの男はにっこり笑い、書類の束を差し出す。

「では、契約内容を確認しまして――」


その横で私はひそかに頭を抱えていた。

まさか、ちくわが芸能人になる未来があるなんて。

ていうか、この展開についていける自信が私にはない。


でも、ちくわは満面の笑みを浮かべていた。

ケージに引きこもってた頃には見せたことがない顔。


こうして、元ハムスターちくわは、

突然の「芸能界デビュー」の道を歩き始めるのだった。

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