初仕事はバラエティ番組。ちくわ、カメラに固まる
芸能事務所に入って二日目。
ちくわの初仕事は、まさかの全国ネットのバラエティ番組だった。
タイトルは「動物と仲良くなろうスペシャル」。
いや、人間枠じゃなくて動物枠なんだ……と開始前から不安が募る。
スタジオに入った瞬間、ちくわは目をまん丸にした。
照明のまぶしさ、巨大なカメラ、スタッフの数。
「あれ……巣箱より広い……?」
比較対象が極端すぎる。
リハーサルでは、司会者が明るく声をかけた。
「ちくわさん、今日はよろしくね〜!元ハムスターなんだって?」
「はい!昨日まではケージにいました!」
笑顔で即答。
観覧席が「かわいい〜!」とざわつく。
ディレクターが近づいてきて説明してくれる。
「ちくわさんは、カメラに向かって簡単に自己紹介をお願いします。
あとはリアクション中心で大丈夫ですから」
「りあくしょん……?」
「驚いたり、笑ったり、楽しんだりするだけでいいよ」
「なるほど!おどろき、笑い、たべもの!」
最後の要素だけ違う。
そしていよいよ本番。
カメラがスッとちくわの前に近づく。
赤いランプが点灯。
スタジオが一瞬で静かになる。
――その瞬間。
ちくわ、硬直。
目は見開かれ、呼吸は浅く、姿勢は完璧に直立。
小動物が天敵を見た時のあの状態だ。
司会者が助け舟を出す。
「ちくわさーん?だいじょうぶ?」
「…………(無)」
固まったまま動かない。
カメラが少しでも角度を変えると、ちくわの瞳がカメラの動きを追って左右に高速で揺れる。
完全にハムスターの警戒モード。
スタッフがざわつく。
プロデューサーが眉をひそめる。
私はモニターを見ながら胃が痛い。
それでも司会者はプロだ。
「ちくわさん、緊張してる?かわいい〜」
盛大にフォローしてくれる。
その言葉に、ちくわがようやく口を開いた。
「……カメラ……おおきい……たべられる……?」
スタジオ爆笑。
司会者がさらに乗せる。
「ちくわさんは、カメラを敵だと思ってるのかな?」
「はい。あれ、黒くて、つよそう」
観覧席「かわいすぎる!!!!」
結果、固まってたのにウケる。
本番が終わると、ちくわはぐったり。
「わたし……がんばった……」
「うん、よく生きて帰ってきたね」
こうして、
“カメラに固まる元ハムスター芸人”
として、ちくわの名前はネットで静かに拡散しはじめた。




