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セイラム男爵領主館

「あの(むすめ)、中々に健気であったの。上手く話が通ればよいが」

 ほう、何やら気にしてやがる。美人だからか?美人だからね。いや、心も確かに美人だった。

「大丈夫じゃない?そもそも王国も軍差し向ける気満々だったら、私らにこんな依頼してこないだろうし」

 さて、ロアノークも災害からこっち冒険者も加えて兵士の数も倍増し、不穏に駆られていたが、私が粗方正気に戻したおかげで、兵士も通常の数に戻り、冒険者たちも復興に力を入れだしている。日常が戻りつつあるようだ。デビーを送った後、昼食を終え、バルバロスと共に領主館へ向かった。


 領主館の前に到着。ここもほぼ城だね。さすがに警備が厳しい、門番の数も尋常じゃない。張り巡らされている高い塀も、監視塔で見張られている。よくデビー逃げ出せたな。逃げ出した所為かもしれないけれど。

「で、どうするのじゃ?」

 バルバロスが訊ねてくる。

「取り敢えず中の人を調べないとね。「魅了」されている人を特定していく感じで。ほら、あの左端の塔の一番上の窓開いているでしょ。あそこから入ろう」

 厳重な警備など意味はない。「ワープ」でさくっと侵入。掃除中のイヌ獣人メイドとばったり。少し眠ってもらう。

「ふーん。デビーはここに閉じ込められてたっぽいね」

 内装やベッドに広げられたドレスなどを見ると彼女に似合いそうな感じがする。メイドさんに「魅了」はかけれれていなかった。

「よし調査開始」

 バルバロスと部屋を出る。「探査」で館を調べる。

「動き回っているのは使用人だろうか。魔力の大きめな奴らは1か所に集まっているね。都合がいいじゃない」

 闇属性魔法のスキル「魔力隠蔽」と「気配遮断」を使い、部屋に近づく。10人ほどだろうか、会議の真っ最中だ。


「どうするのだ。領民ども皆正気に戻っておるではないか。このままでは領兵の足りない我々は王国に簡単に潰されるだけだぞ」

「そう申されましても、このようなこと想定外でございます。人族にこの魔術(スキル)を解除できるはずがないのですから」

「ならばますますおかしいではないか。まさか解除して回っているヤツは帝国の者ではないだろうな?」

「何を言いがかりを。ワリト様、我々をお疑いになるのですか!」

 どうやら領主と帝国の使者が言い合っているらしい。周りの者は「魅了」されているのか黙っているだけだ。

(デビーの父親は「魅了」されていないのかな?)

 「魅了」は「洗脳」や「催眠」と違って言うがままに動くロボットになるわけじゃない。ただ相手の望みを叶えたくなるだけだ。「魅了」は死属性魔法のスキルで魔族のバンパイアやサキュバス、ラミアなどが主に使用している。バンパイアは血を、サキュバスやラミアは男の精を相手に望むわけだ。ちなみに「洗脳」はかけられている間の記憶をはっきり覚えているが、「魅了」は靄がかかったようにぼんやりと、「催眠」は全く記憶に残らない。

 なので、デビーの父親が「魅了」されていないと決まったわけではないが、どうなんだろう。

「ふん、そもそも帝国の使者として最初に面会した時、其方がワシにしたことを思えば、信用できるものではないわ」

「確かにワリト様に「魅了」を使おうとしたことは認めます。しかしその後の取引で協力体制を築き何年たっているとお思いで、いい加減その話を蒸し返すのは御止(おや)めいただきたい。2か月前のことをお忘れで、帝国の力を侮っていただいては困ります」

「...わかっておる。それだけ苛立っておるということだ。ワシと同じ「魔力結界」を使うデビーも知らぬ間に逃げてしまっているのだぞ。まだ見つからんのか。あいつはすべて知っておる。王国に知れたら帝国もただでは済まないのだぞ」

(2か月前か、やはり帝国が何かやったわけだ。そしてこいつも「魔力結界」スキル持ちか)

「帝国についてはご安心を。国境の「ダンビルの森」は現在、簡単には抜けられませぬ、男爵領を落としてもそのまま帝国に攻め込んでくることは出来ないでしょう」

「...お前、ワシを切り捨てるか」

 おっと、空気がおかしくなってきた。ここらで乱入するとしますか。


「なっ、なんだお前たちは!」

 扉を吹っ飛ばし、乱入開始。魔杖剣を抜き、「電撃(エレクトリック)」を放ち、座っているオジさん達を昏倒させる。

「なっ、ワシの結界...」

 デビー父も沈んだ。「魔力結界」があってもSLv(スキルレベル)の差というか魔力の差かな、大した抵抗にならなかった。そして帝国の使者を見据える。

「なるほど、あなた方ですか。我々の邪魔をしていたのは」

 使者が落ち着いた声をかけてきた。東洋系の顔立ちをした20代の男性だ。日本の詰襟のような黒い服を着ている。当然イケメンだ。紫紺の長い髪を後ろに流しており、同じ色の瞳をこちらに向けている。

「ふむ。やはり貴方、私の「魅了」が効きませんか」

「あなたが魔族?うん?眷族か。ということは帝国にはバンパイアがいるということかな?」

 使者が驚きに目を見張る。

「そうか、どうやって人族を眷族化するのかと思ったけど、体内に魔族の魔力の塊があるね。なるほどそうやって(あるじ)の魔力で縛って眷族としているわけだ。それで死属性魔法のスキルが使用可能になるということだね」

 使者の体内にある魔力を作る魔素の変換器官(魔石の元と思われる)のそばに魔族の魔力を持つ塊があった。

「なっ、何者なんだ!おまえら!」

 使者は、もはや取り繕うこともできなくなったようだ。ちょっとパニくってる。

「大体わかったよ。じゃあお休み」

 魔杖剣を向けようとすると、慌てて使者が自分の右手の指輪に魔力を込める。一瞬で光が使者を包むとすっと消えた。使者と一緒に。

「?「テレポート」?眷族が?」

「我らも行くぞ!」

 バルバロスが私の肩を掴む。

「ま、待て、私は「テレポート」は嫌だと...」

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