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第三章 その8 救出隊

 ベースキャンプまで戻ってきたジェンは隊長のコクローに洞窟内部の崩落を知らせていた。


 即座に他のメンバーが集められて会議が行なわれる事となる。


「それで救助隊をどうするかなんだが……」


 まず最初に状況を説明した隊長のコクローが全員の顔を見ながら言う。


 今回、雇われている民間の魔獣狩りのメンバーは全部で七人。

 そのうちの四人が現在あの洞窟に閉じ込められている事になる。

 だが残った三人は誰もが気まずそうな顔であり、やがてその中の一人が口を開いた。


「悪いが俺たちにはどうすることもできない」


 申し訳なさそうに、民間の魔獣狩りの男がそう言ったのである。


「そりゃあ、どういう意味で言ってるんだ?」


 コクローが訝しげに男に聞き返した。


「できるなら俺たちも仲間を救いたい。だけど実力が足りないんだ」

「実力?」

「ここに残ってるのは全員見習いなんだよ。正式に許可証を持ってるんじゃないんだ」


 恐る恐るという感じで男は真実を告げる。


「仲間の補助をするなら兎も角、これだけ魔獣の出る場所では自分一人の命を守れるかも怪しい」

「なるほど、サポーターだったのか」


 道理で初日のホーンウルフを相手に苦戦して怪我をするはずだった。


 正式に魔獣狩りとして活動するにはレマノヒ皇国の発行した許可証がいる。

 つまり誰でもが簡単に魔獣狩りになれる訳ではないのだ。

 魔獣狩りになる為には最低限の魔獣に対する知識と何よりも実力が重視される。


 実技試験として複数人数でGランクの魔物の相手をさせられ、実力を測られるのだ。


 ここに残っている三人はその試験に受かっていないという事であり、当然彼らの実力は推して知るべしという訳である。


 男の発言を聞いてコクローの顔が少し曇る。

 するとそんな彼に対して、これまで黙っていた一人の男性が声を発した。


「あまり金額を支払っておりませんから、さもありなんですな」


 そう言って全員の注目を集めたのは初老の男性だった。


 今回の依頼者であるコベリーに付き従って執事をしていた、顔合わせの時に依頼の説明をした男である。

 もちろん今は執事服ではなく場所に合わせて最低限の装備を整えている。

 と、そんな彼に対しコクローが話しかけた。


「ケチったって事かい? ボノアさん」

「というよりも手付金は安く、依頼遂行の成功報酬が高い契約となっております」

「なるほど、ウチと同じか。ついでに言うと依頼が失敗した時のこちらが払う違約金がクッソ高いしな」

「仰る通りで申し訳ない。ですのでそちらの業者はベテラン三人とサポーターを多めにして何とか儲けを増やそうとしたのでしょう」

「世知辛いな」

「そこは最初に満足な金額が払えず申し訳ないとしか言えません。何とか無事に仕事を終わらせていただければと言うしかないのが心苦しいのですな」


 コクローから目を逸らす事なく、彼を真っすぐに見据えたまま執事ボノアが言う。


「つまりだ、今この場には正式な魔獣狩りは三人しかいないって事だよな」

「いいえ、四人です」

「ほう。やっぱりアンタそうだったかい」

「気が付かれておりましたか?」

「ああ、何となく只者じゃないのは纏う空気で感じてたね」


 どうやらボノアも以前は正式な魔獣狩りとして働いていたらしい。

 それを聞いて民間の三人は驚いたようだが、ジェンもパプルもそれほど驚きはなかった。

 コクローと同じ様に、この人物が只者でないのはなんとなく感じ取っていたからだ。


「まあ、しばらく現場を離れておりますので、どこまでお役に立てるかといった所ではありますが」

「謙遜しなくて良いですぜ。まだ充分やれるでしょ?」

「そう言ってもらえるのは光栄ですな」

「じゃあ、救助隊についてだが……」


 コクローがそこまで言いかけたところでパプルが手を挙げる。


「コクロー隊長、それぇ私が行くわ」

「俺もお前に頼むつもりだった」

「あらぁそう? 自分が行くとか言い出しそうだと思ったけどぉ」

「最初はそう思ってたがな、ボノアさんが協力してくれるなら状況が変わる」

「それじゃ?」

「ジェン、パプル。ボノアさんと一緒に行ってくれ」

「「了解」」


 ジェンとパプルが声をそろえて返事をする。

 コクローはそのままボノアへも問いかけた。


「ボノアさんも、それでよろしいですか?」

「もちろんです。これは逆に私からお願いしたいくらいの事ですので」

「それじゃあ準備に取り掛かるとしよう」

「「了解」」


 こうして即席の救助隊が組まれ、ジェンは再び洞窟へと向かう事になったのである。


◇◇◇


 さっきと同じ様に茂みの中を三人で早足で進んでいくのだが、ボノアは驚くほどあっさりとジェン達に追随してきている。

 魔獣に関してはジェンがなるべく早めに感知して避けながら進んだので、ほぼ遭遇しなかった。


 そうして三人で一応崩落した洞窟の入り口まではやって来たが、中には入らず荷物だけを回収するとすぐに別の場所へと移動する事になった。

 実は調達班の男が持っていた地図と同じ物がボノアの手元にはもう一部あり、そこには別の洞窟の入り口の場所も示されていたのだ。

 その別の入り口が崩落した洞窟と奥の方で繋がっているというのが以前の調べで分かっていたらしい。


 問題はそちらの洞窟の入り口がかなり広くて大きい為、大型の高ランク魔獣が生息している可能性が高いという事。


 崩落に気が付き別の場所から脱出しようとした調達班のメンバーが、そういった魔獣と遭遇した場合は非常に危険だ。

 一刻も早く彼らを救出する為に、魔獣を退治しながら奥へと進む必要があった。


 しばらくして危険度が高いというもう一つの洞窟の入り口に辿り着いたジェンは、周囲と洞窟の入り口の状況を確認する。

 入り口付近には複数の獣の足跡が残っており、それは洞窟内へと続いていた。


「やっぱり魔獣が出入りしているな」

「気配感知できるぅ?」

「近くにはいない。いるとしたら……」

「洞窟内ですな」


 ジェンとパプルのやり取りにボノアが入ってくる。

 その見立ては二人とも同じなので、互いに頷きあう。


「あの足跡はオウルベアで間違いないかと」

「足跡は複数頭分ありそうだけど?」

「親子で生息している可能性がありますな」


 だとするとかなり危険な状況とも言える。


 閉じ込められたメンバーの実力だと同時に相手できるオウルベアの数は多くても二頭までだろう。

 本当に親子連れだとするなら、それ以上の数の可能性が高いのだ。


「一度に生まれるオウルベアの子供は大体二頭から三頭と言われております」

「つまり成獣が二頭、子供が最大で三頭。合わせて五頭か」

「そうなりますな」


 人を襲う大型の魔獣の数としてはさすがに多い。

 だがそれを何とかしないと、調達班を救出するのは不可能である。

 ジェンは思案顔でパプルに問いかけた。


「パプル姐さん、どうする?」

「そうねえ、ちょっと考えどこよねぇ」」

「洞窟内の戦闘は経験ないんだよなあ」

「広い場所なら楽なんだけどぉ……」

「うーん……」


 腕を組みながらジェンが難しい顔になったのである。


◇◇◇


 ボノアはオウルベアの存在を知り、自分よりも年若い魔獣狩りの二人を見ながら絶望的な戦力差だと感じていた。


 この人数なら一頭ずつ洞窟の外までおびき寄せて戦うのがベストだが、それでは時間が掛かり過ぎてしまう。

 自分と同じ様に二人もそう思っているようで、どうやら最悪は撤退を視野に相談をしているようだと思ったボノアは黙って結論を待つ事にする。


「姐さん一人で、二頭を倒せるか?」

「誰に言ってんのよぉ。三頭だって平気だわぁ」

「へ?」


 二人の会話を聞いてボノアは間抜けな声を出してしまった。

 何か聞き違えたかと二人の顔を見る。

 すると二人が真剣な顔でボノアの方を見ていた。


「ボノアさん、正直な話オウルベア相手に一対一でどれくらい粘れますか?」

「えっと、それはどういう意味ですかな?」


 ジェンの質問の意図が読めずに聞き返した。


「えっと、洞窟の中に五頭いた場合は俺とパプル姐さんで二頭ずつ仕留めます。その間、自分の身を護れる時間を聞いたんですが?」

「ちょっと待ってください。貴方たちそれぞれが一人で二頭を退治すると仰ったんですか?」

「そうですよ。ボノアさんはブランクがあるでしょうから、オウルベアを一人で何頭も相手するのは厳しいですよね?」


 正直な話、洞窟内の戦闘だと相手が一頭だけでも厳しい。

 もちろん準備と条件が整っていれば大丈夫なので、その事は伝えておく事にする。


「外で銃火器を使用出来れば、私一人でも何とかなるでしょう。ですが今回は申請をしておりませんし、持ってきておりませんので銃火器は使用できません」


 亜人の技術を使う銃火器類は国に登録されており厳重に管理される事になっている。

 魔獣に使用する場合には申請し許可を取り、どれだけの弾薬を使用したかを報告する必要があるのだ。


 もちろん不法所持や人に対して使用した場合は厳重に罰せられる。

 今回ボノアはそれを持ってきていない。

 それがあれば間違いなくオウルベアと渡り合うのは余裕だっただろう。


「あっ、そうか。それは参ったな」

「一頭相手に時間稼ぎだけなら、十分から十五分といったところでしょうか」


 という訳で正直に答えたボノアだったのだが


「なるほど。さすが歴戦の勇士ですね。使い慣れた武器もないのにそんな時間で魔獣を倒せるなんて」


 などと何故か感心されてしまった。


「……あの、聞いてましたか? 時間稼ぎだと言ったのですが」

「またまたご謙遜を。貴方が只者ではないのはもうバレてますから」


 確かにボノアは実力も経験もある一流の魔獣狩りだったのだが、それはもう十年以上前の話である。

 年齢による衰えを隠せず五年前に一線を退き、娘と共にポグピック商会のコベリーに雇われたのだ。

 因みにコベリーの汗を拭いていた年若いメイドがボノアの娘である。


 同年代の男性よりは遥かに鍛えているし、体力には自信があるのは間違いないがDランクの魔獣を一人で倒すというのは今の状況では無理だ。

 どうにもこの目の前の青年は自分の事を買い被りすぎな気がする。


 そう思っていると、黙って二人のやり取りを聞いていたパプルが口を開いた。


「ボノアさん、すいません。あくまでもそれは最悪の場合ですからぁ。基本私たち二人で魔獣は何とかしますので、地図での案内だけお願いしますねぇ?」

「……分かっていただけて助かります」


 ボノアはホッと一息ついて、前を見据える。

 危険の潜む洞窟内での仲間を救出する為の戦いが始まろうとしていた。


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