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 竜王の正体は……殆どの方がわかっていると思いますが、きっとその通りだと思います。



 騎士服に似た討伐用の衣装で良かった!


 森は思っていたよりも深かった。

 人の出入りの無い森に入ったことがなかった私は早々に疲弊する。


 クレメンティーヌは魔法に秀でている。身体も鍛えたけれど素養が乏しく身体強化を上手く使って誤魔化していた。魔法を使えないと、貴族のお嬢様達よりは大分マシだが、こんな深い森を長く歩ける程の体力も筋力も無い。だから、この状況は非常につらく息が上がってきた。

 

 「ん?ごめんね。魔法が使えないと人間ってこんなに脆弱だと知らなかったんだ」

 「え?はっ!きゃあ!」


 言われた言葉を咀嚼する間もなく抱き上げられた私は思わず悲鳴を上げる。

 ……女の子らしい悲鳴で良かった。


 「うわっ、軽い、軽すぎる。お姉ちゃん、ちゃんと食べてる?」

 何故、私の周りは体重から食事の心配になるかな。菜月ちゃんも会う度に持参したお菓子をしきりに口に入れてくるし。私が転移した時よりもかなりマシになってるのに。


 「なんで口を尖らせてるのかわかんないけど、そんなお姉ちゃんも可愛いね」


 おおお〜!

 色気駄々漏れの美青年が満面の無邪気な笑顔をすると、とてつもない破壊力が!

 カッコ可愛い、みたいな?


 いや、それは置いておこう。

 今気にするのはそこではない。

 妙齢の美青年に抱き上げられているこの状態を何とかせねば!中身が残念女子の私とはいえ、これは有り得ない。


 「あの竜王様、わたくし歩けますわ。降ろして下さいませ」

 「でも息が上がってたし、お姉ちゃんを歩かせるより、この方が早いから却下かな」

 「で、ですが……」

 「それにお姉ちゃんだって本当は辛かったんでしょ?別に僕達以外には誰も居ないんだし、何を気にしてるの?はい、この話はおしまい」

 くっ、反論出来ない。

 それに。

 竜王は私を横抱きにするのではなく、自分の腕に座らせるように抱いている。所謂、幼子抱きだ。この体制のせいか、竜王の親しみの籠もった態度のせいか、見知らぬ男性に抱き上げられているという警戒心を持てずにいた私は降参する。

 だけど、何だか悔しい。

 

 「くすくす。以前のお姉ちゃんよりもわかりやすい。ここに来て良かったね。僕もお姉ちゃんと話が出来るし嬉しい。お姉ちゃんが居なかったら、こんなつまんない所壊してしまおうかと思ってたけれど我慢して良かった!」


 ……ニコニコと笑いながら、まるで今日の天気を話してるみたいに、恐ろしい事をさらりと言わないで欲しい。

 私が居る、居ないで世界の滅亡を決めないで下さい。


 竜王の機嫌を損ねない様に下手に相槌は打たず、聞き役に徹していると急に辺りが明るくなった。

 どうやら森を抜けたらしい。


 「うん!眩しい。はっ!こ、これは……」


 最初は暗い所から明るい所に出たせいで思わず目を瞑ってしまった。だけど何とか目を開いた私の視界に映ったのは、優美な城だった。


 そう、城。

 恋金に出てきた、竜王城だった。


 少年のような話し方と私に向ける親しみのせいで忘れがちだけど、この人は間違いなく竜王なのだ。


 恋金のゲームとは違う展開が多くても、私が出逢う人達は主要キャラクターが殆ど。モブキャラクターも存在している。そして順番はバラバラでもイベントは起こっていて。


 なら、ボスキャラとの戦闘も起こるの?

 世界の滅亡をかけて闘い、ヒロインの真摯な想いが竜王の心を癒やすというイベントが起こるの?


 竜王討伐の前に、学園の遠征で他の魔物に変化した竜王とヒロインが出逢う。でも中身は竜王だから中々討伐出来ず、切羽詰まったヒロインが聖魔法で竜王を攻撃する。それによって変化が解けた竜王に驚きながらも、傷を癒やすヒロインに興味を持った竜王。

 それから竜王討伐のイベントまで、様々なイベントに姿を変えながら登場し、ヒロインの深い優しさに惹かれていく竜王。

 だけど竜王は人間を憎んでいた為、魔物を統率し人間を攻撃する。それを阻止すべく竜王討伐のメンバーが組まれ最終イベントが起きる。

 此処でヒロインが誰を攻略しているかによって結末は変わる。

 

 だけど、問題はそこではない。

 討伐メンバーは、この国で編成される。

 それに必ず、クレメンティーヌは選ばれてしまう。

 断罪されていようが、いまいが選ばれる。


 何故なら、クレメンティーヌはこの国で一番強かったから。

 ヒーローである王太子のヴィンセントよりも、ヒロインであるアマリアよりも、誰よりもクレメンティーヌは強かったから。


 そして……。

 ヒロインがどのルートを選択しようとも、クレメンティーヌは。


 必ず、死んでしまう。

 幼い頃から慕い続けたヴィンセントを庇って、死んでしまうのだ。


 頭が混乱してきた。

 今は遠征イベントだったのに。

 私は何故、竜王城にいるの?

 

 「お姉ちゃん、どうかした?ほら、お家に着いたよ」

 「…………」


 ニコニコと無邪気に微笑むラスボス竜王に、立て抱きされる悪役令嬢。


 私はきっと今、前世にいたチベットス○ギツネみたいな顔になっている自信がある。


 「とりあえず、ご飯を食べよう。お姉ちゃんはもっと食べなくちゃ!」


 静かになった私を嬉々として城へと運ぶ竜王にされるがまま、私は考えるのを止めたのだった。


 

 

 


 



 次回の投稿は6/19(土)です。

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