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今回、少し短いです。
時を遡ること少し。
「竜が向かった方角には何がある!!」
「……っ、はっ、あちらは隣国リンドールまで深い森があります。あまりにも深い為、我が国も他国も探索はしておりません」
「では陸路は無いも同然なのだな?」
「はい。森が深いだけでなく出現する魔物のレベルが高すぎて、S級冒険者のパーティーですら踏破されていません」
「踏破してないという事は、挑んだ者がいるという事か……」
「確か我が国の“灼熱煉獄”が挑んだ記憶がございます」
「灼熱煉獄か……今何処にいるかわかるか?」
「その……」
「呼んだか?王太子殿下様よ」
「ラグドール!」
ゴブリンの襲撃。
突然現れた最大級の竜。
王太子殿下の婚約者である公爵令嬢の拉致。
街の見張り塔は騎士や魔術師達が右往左往し、今や騒然としている。
そんな中を悠々と此方に歩いてくるラグドールと呼ばれた人物。
多くの人が乱雑としているのに、その人物だとわかるのは、大柄な騎士達よりも頭一つ分背が高いからだろう。短く刈り込んだ髪は燃えるような赤。面立ちは端正だが凛々しさの方が上回る為、男臭さを感じる。切れ長の瞳も髪と同じ赤だが少し黒みがかっていて、滾るマグマのようだ。此処にいる騎士と遜色ない筋肉は服の上からでも伺い知れる。
それに加え放つオーラが半端ない。
見た目同様、荒々しさと燃える様な闘志が駄々漏れなのだ。彼が来るまでの道が自然と出来上がってしまうくらいに。
「よっ。状況は把握してる。嬢ちゃん迎えに行くんだろ?」
「何故?いや、愚問か。助力感謝する。どれくらいで他のメンバーを招集出来る?」
「既に居ますよ?ラグドールが大き過ぎて見えなかったみたいですけど」
ラグドールと呼ばれた男の後ろから現れたのはローブを纏い、長い杖を持った男だった。
「ソロン、君も来ていたのか」
「はい、久しぶりです」
ソロンと呼ばれた男か被っていたフードを脱ぐ。現れたのは恐ろしく整った白銀の髪に優しげな碧眼の美男子。ラグドールとは違い荒事とは無縁そうな繊細な美青年は清廉な空気を纏っている。教会の司教というよりは神の御使いと言う方がしっくりくる。
「勿論あたしも居るよ?」
そう言ってソロンのローブから出てきたのは小さな美少女だった。
「アリスン、君も居たのか」
「当然でしょ?ソロンを独りで歩かせるわけないし!」
ぷくり、と頬を膨らます様子まで様になるのは、これまた整った容姿のせいだ。少し吊り目の銀の瞳は今にも溢れ落ちそうな程大きい。肩の当たりで切り揃えた白金の髪は艷やかで触りたくなる。少女と呼ぶくらいの年齢にしか見えないが、実年齢は違うらしい。
「後は王太子殿下の準備待ちさ」
王族相手に遠慮など何もない態度に周りの騎士達が殺気立つのを手を上げ制す。
「準備?そんなもの必要ないよ。君達が揃ってるなら行くさ」
急に現れた三人と連れ立って歩き出したヴィンセントに、ここまで黙って事の流れを見ていた騎士団長が声をかける。まさかとは思うがあの森に王太子自ら向かわれるのではと焦りながら。
「殿下、なりません!」
「それは聞けないかな?」
「殿下!」
その切羽詰まった声に振り向いた王太子は微笑んでいた。見る者を魅了する美しい微笑み。だが、その微笑みを間近に見た騎士団長は凍りつく。
「私がクレイを迎えに行かず誰が行くの?」
それは毒を含んだ甘い声で、聞く者を震え上がらせた。
「で、ですが、あの森は……」
「うん、そうだね。でも私は運が良いらしい。偶々此処に“灼熱煉獄”が居合わせて、偶々あの森へ向かうのに同行出来るみたいだから」
感じた事の無い恐ろしい程の圧が騎士団長と周りの人間にかかり、指一本動かせなくなる。
「では後を頼みます」
くるりと戦闘用のマントを翻し、冒険者と共に歩き出した王太子を、その場の誰も止める事が出来なかった。
次回の投稿は6/23(水)です。




