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 恋愛ものからファンタジーへ???



 「殿下、あちらです!」

 街の門の上にある見張り塔で顔見知りの近衛騎士が指差した方角を見ると、望遠鏡を使わずともオーク二体と数多くのゴブリンが視認出来た。


 「……本当に其処にいるだけなんですね」

 「ええ、私共もこのような事態は初めてです」

 光輝の呟きに直様返答したのは今回の遠征に王宮から派遣された近衛騎士団長。

 「騎士団で多くの討伐をしてきましたが、ゴブリンが人間や街を襲わず待機しているのを見たのは初めてで、最初は我が目を疑いました」


 確かにこれだけの数がいたら勝ち負けに係わらず襲ってくるのが、私達の知っているゴブリンだ。ゴブリンは負けても気にしない。自分達が欲しいと思った物を手に入れさえすれば満足するからだ。


 「どれ位この状況なのですか?」

 「まだ然程の時間は経っておりません。見張り塔の騎士が気付いたのも、街道を通った商人から報告があったのも半刻程前です。それまでも見張りはしていましたが確認されていないので、ここ半刻から一時の間のことかと」

 「一体何が起こっているのでしょう」


 本当に今の状況は不可解すぎる。

 この外門の外は森まで見渡しがきく草原だ。見張りがいたのなら、この大所帯の魔物に気付かない訳がない。

 それに加え視認しやすいオークが二体。

 どうやってあの場所にやって来るまで誰も気付かなかったのだろう?


 ゴブリンには目眩ましなどの幻術は使えない。オークも生態や能力の全容はわかっていないが、今まで幻術系の魔法を使ったという事例は聞いた事がない。

 ……他にも魔物がいる?


 気になった私はすぐに視覚に限定を掛けた身体強化の魔法を展開する。

 うわぁ〜。

 相変わらず小さいけれどエロ親父的な顔のゴブリンがアップで見えてゾッとする。ゴブリンは人間の女性も攫う。出生率が低く、雌の個体が少ない為に人間の女性を母体にする為に攫うのだ。その知識が私の偏見を助長するのかゴブリンは全てエロ親父に見える為、討伐を微塵も躊躇わない私である。そんな天敵のゴブリンのアップはあまり見たくないのだけれど。

 そんな文句を脳内でブツブツ言いながら最後尾に立っているオークを見た時、ハッとなった。


 オークの足元にゴブリンよりも小さな魔物がいる?


 身体強化を強め、その魔物を見た瞬間それは起こった。


 「「「ウオオ〜」」」


 今の今までピタリとも動かなかったゴブリン達が一斉に外門へと突進を始めたのだ。


 「魔術師は広域魔法を!」

 光輝の声に魔術師が広域魔法を展開するが、いつもは固まって攻撃してくるゴブリンが、数体ずつバラバラになり距離を置きながら此方へ向かって来た為、思った効果が得られない。

 広域魔法は普通の魔法よりも魔力を食い、発動までの時間も掛かるため連続行使できないのだ。

 ゴブリンが固まって攻撃すると思い込んでいた私達の誤算。

 「チッ、今すぐ出れる騎士と護衛の数は!」

 「20、いえ15くらいかと!」

 「今すぐ出せ!」

 「御意!」


 状況の変化に光輝の指示がとぶ中、私は先程見た小さな魔物を必死で探していた。

 このあり得ない事態に、あの魔物が関係している気がする。

 

 人を襲わず整然と待機するゴブリン。

 他種族と行動を共にするオーク。

 これらを指揮し、統率している何者かがいるとしたら納得出来るからだ。


 そして見つけた第三の魔物。


 ゴブリンよりも更に小さい、あの魔物がこれを統率しているのかわからないけれど、異分子であるあの魔物を大きさで判断するのは危険だ。

 それを報告する為に必死に探すが砂煙と入り乱れた多くのゴブリンが邪魔をする。

 だから私は良く見ようと外壁から身を乗り出した。


 「クレイッッ!!!」

 「えっ……」


 光輝の切羽詰まった声に驚いた瞬間、私の身体は宙に浮いていた。

 

 ばさり、と大きな重量感のある羽音。

 一瞬で遠退く地面。

 腰に感じる圧は痛くはないけれど私の身体をしっかりと掴んでいる。


 状況がわからず茫然とする私の耳に届いたのは光輝の悲痛な叫び声。


 「クレイィィ!!!」


 でもその声は遠い。

 ついさっきまで側に居たはずなのに、何故こんなにも遠いのだろうか?

 何故、その姿が視覚を強化しているのに小さく見えるのだろうか?


 ……空が近い。

 風が……痛い。


 感じる風の痛みに、じわりじわりと現実に引き戻されていく思考回路が危険を告げる。


 この状況は駄目だ。

 私のチートな能力すら小さく感じる、この力は人間が太刀打ち出来るものではない。

 私を攫ったコレは。


 無力な恐ろしさに身を震わせながら私を掴んでいるコレを見上げる。


 竜。


 それも森や山で見かけるものとは比べ様にならない程の巨大な漆黒の竜。


 私はコレを知っている。

 

 竜王。

 あまねく竜を統べる王。

 そして……。


 恋金のラスボス。


 呆然と見上げた私を見た竜王と目が合った。

 そして竜王は言った。

 


 「くれはお姉ちゃん!」



 ……くれはお姉ちゃん?


 

 

 




 次回の投稿は6/10(木)です。

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